インストラクター、かく語りき
今年8月9日、鈴鹿サーキットにて開催された第3回アバルト・ドライビング・ファン・スクール。おかげさまでエントラントの皆様からも大好評をいただくことができたが、その功労者となったのが、それぞれ素晴らしいキャリアを持つ6人のインストラクターたちである。
そこで今回は、メインインストラクターを務めた福山英朗選手と、豪華インストラクター陣の“紅一点”井原慶子選手に、それぞれお話しを伺ってみることにした。
福山英朗メインインストラクターは、1977年に地元である鈴鹿サーキットで開かれた鈴鹿シルバーカップFL500でデビューして以来、当初は軽量級フォーミュラレースに参戦。
1988年にル・マン24時間レースに初挑戦を果たしたのちは、スポーツカー耐久レースやGT、ツーリングカーなどで大活躍し、「ハコ使い」の異名をとるようになった名選手である。
また2000年にはル・マンLM-GTクラス優勝を果たしたほか、国内でも1992年に全日本ツーリングカー選手権 (JTC)・クラス1のチャンピオン獲得。1998年から2001年にかけて、鈴鹿1000kmGTクラス4連覇も達成している。
さらに2002年にはアメリカに渡り、NASCAR最高峰カテゴリーの“ウインストンカップ(現・スプリントカップシリーズ)”にスポット参戦したほか、2003年には同カップにシリーズ参戦し、日本人として初めて同カップの決勝に進出したドライバーとなった。
そんな誰もが認める名レーサーである福山選手に、アバルトとアバルト・ドライビング・ファン・スクールについてのお話しを伺うことができた。
まず伺ったのは、アバルトというクルマの印象について。
「最初にいきなり695トリブート・フェラーリに乗せていただいたんですが、『なんだこりゃ?スーパーカー?!』ってビックリしちゃいましたね。姿かたちは可愛いコンパクトカーなのに、中身は完全にリアルスポーツ。そのあとに乗せてもらったすべてのアバルトも、同じ印象でしたね。電子制御が過不足なく上手に作用して、本当にキレイにコントロールできる。特に500系はホイールベースが短いのに、まるで危険性を感じさせません。アバルトというクルマは、すべてが『意外性』と『驚き』を感じさせてくれるんですよ。でも、アバルトの運動性に身体が慣れちゃったら、ほかのクルマに乗った時は逆にビックリしちゃうかもしれませんね(笑)」
そして話題はアバルト・ドライビング・ファン・スクールへと進んだ。
「ほかのスクールと比べると、参加者の皆さんのお人柄がとても良いですね。ブランド名は言えないけど、ほかのクルマのワンメイクスクールとかでは参加者さん同士がライバル視してピリピリしたムードになったり、コースで張り合ってちょっと危ない状況になっちゃったりすることもあるんですが、アバルトの皆さんは直ぐに仲良くなっちゃって、良い意味でのライバル関係が成立しています。そして皆さん素直だから、上達もすごく早いんですよ。参加者のキャラクターの良さもアバルトだからと思いますが、このスクールの『ファン』な部分の重要なポイントになっていると思いますよ。」
座学から全身を駆使して、分かりやすく講義する福山インストラクター。かなり頻繁にジョークが交えられる一方、講習の内容は本格的で、講習生たちも真剣に聞き入っていた。
サーキット上での講習は、講習生を6つのグループに分けての個別講習。まずは座学会場にて顔合わせのはずだったのが、さっそく熱の入ったレッスンに入ってしまう。
今回、シェイクダウンを兼ねて初お披露目されることになったフォーミュラ・アバルトに乗り込んでご満悦の福山選手。かつては軽量級フォーミュラで勇名を馳せた名選手である。
ところで“ファン”といえば、この日の講習は開会式から閉会式と記念写真撮影まで常に大爆笑の絶えない、実に楽しいものとなっていた。そしてその雰囲気を創った張本人が、実は福山メインインストラクターその人であったことを、ここに特筆しておきたい。
この日のレッスンをすべて終わったところで、各インストラクターによる講評が行われた。福山選手の第一声は「楽しかったでしょ?」その問いに、講習生たちは大喝采で答えた。
さて、一方の井原慶子インストラクターも、驚くべき経歴を誇る当代最高の日本人女性レーシングドライバー。レースクイーンからレーサーに華麗なる転身を遂げ、25歳の時にフェラーリ・チャレンジ選手権でレースデビュー。その後、FIA公認国際レースで女性初のポールトゥウインを達成。海外を拠点に 英国F3、世界選手権、ル・マンなど国際レースで世界50か国を転戦。数々の国際レースで日本人女性初の入賞を果たしてきた。
また近年ではレース活動の傍ら、教育、交通社会環境改善にも取り組むうえに、日米リーダーシッププログラムの代表として社会貢献活動にも積極的に参加。現代の日本で、女性目線とレーサー目線の双方からアバルトを語ることのできる、唯一無二の人物なのだ。
そんな井原選手にとって、アバルトというクルマはどう映っているのだろうか?
「実は私の周りには、既にアバルトを愛用している女性の友人が何人もいるんですが、彼女らが異口同音に言うのが、アバルトの美しさです。私を含めた女性の目には、アバルトは可愛いというよりは美しいと映るようです。カラーリングの美しさを含めて、これほど美的側面を追求したコンパクトカーは、世界でも唯一じゃないかな?って思いますね。」
それでは、アバルトにとって最大のトピックである“走り”については?
「アバルトに近いレーシングカーと言われると、ズバリ『フォーミュラ』しかないんじゃないかなと思います。アバルトは絶対的に軽くて、手足のように自由自在に操ることのできる感覚があるんですよ。現代のクルマって、剛性と引き換えに不自然な動きをするものが多いんですが、アバルトはクルマを支配している感じが楽しめる。そしてこの楽しい感覚が、サーキットという厳しい条件でも変わらないことには驚きました。」
ところで、今後このスクールに参加する女性ドライバーへのメッセージは?
「今回、唯一参加していた女性オーナーの方は、本当に生き生きとしてらっしゃいました。女性は感性で動くので、実はクルマの挙動が男性よりも素直に感じられると思います。だからちょっとヒントをお教えするだけで、すごく伸びやすいんですよ。もともとアバルトに乗っている女性ドライバーは、クルマの性格上ほかのクルマのドライバーより運転レベルが高いと思います。だから、こういう場でそれをさらに伸ばすことは、とても意義深いことだと思いますよ。」
井原選手はアシスタントインストラクターとしての参加だったが、座学などにも積極的に参加した。となりで楽しげに講義を受けるのは、今回唯一の女性講習生、山口さおりさん。
炎天下のコース上で、熱心にアドバイスする井原選手。彼女をはじめとするインストラクターたちの講義を受けたのち、講習生たちがみるみる上達してゆくのが良く分かった。
今回、井原選手が参加した理由の一つは、この日が初走行となるフォーミュラ・アバルトのジェイクダウンドライバーを務めること。ヘルメットから覗く鋭い眼光に注目されたい。
こんな優秀かつ楽しいインストラクター陣、そして向上心に溢れつつも楽しい講習生によるアバルト・ドライビング“ファン”スクールが楽しくないはずもない。
次回となる第4回アバルト・ドライビング・ファン・スクールは、今年9月29日に富士スピードウェイ ショートサーキットで開催されることになっている。まだこの“ファン”を体験していないアバルト・オーナー諸氏には、是非ともチャレンジをお勧めしたい。