サソリにやられた熱く優しき男女たち ABARTH DAY 2017
■目覚まし時計はエグゾーストノート
2016年秋に欧州各国のサーキットで開催されて大好評だった公式ファンイベント「アバルト・デイ」が今年も還ってきた。
前回は英国、ドイツ、スペイン、イタリアの4か国だったが、今年はフランス、ポルトガル、そして創始者カルロ・アバルトの故郷オーストリアも加わり、計7か国にまで拡大された。
イタリア版は、2017年5月20日日曜日にプログラムが組まれた。
今回の舞台は作曲家ヴェルディゆかりの地であり、パスタのトップブランド「バリッラ」の本拠地としても知られるパルマだ。
その南西約40kmにあるヴァラーノ・デ・メレガーリ・サーキットは、往年のイタリア人F1ドライバーを記念した「リッカルド・パレッティ・サーキット」のサブネームでも知られている。
前日からパルマ郊外に投宿していた筆者にとって、当日朝の目覚まし時計は野太いエグゾーストノートだった。カーテンを開けてみると、太陽の光が差し込むとともに、眼下には何台ものアバルトが見えた。今からチェックアウトしたら、サーキットのゲートオープンまでかなり時間がある。しかし、アバルティスタたちの興奮は、すでに十分に高まっていたようだ。
アバルト・デイ2017のイタリア会場で。パドックには朝早くから多くのファンが駆けつけた。
ヴァラーノ・デ・メレガーリ・サーキットは1972年の開設。参加者は1周2360mのコースを18のグループに分かれて楽しんだ。
■うなじのタトゥーが目に入らぬか!?
到着したサーキットに到着すると、さっそくタイヤの焦げる匂いに包まれた。
見れば、ピットでのドリルを終えたファンたちが、早くもコースで果敢にコーナーを攻めていた。
昨年度はデリバリー開始されたばかりだったアバルト124スパイダーだが、今年は一気にその数を増やして、人気ぶりを見せつけてくれた。
パドックに足を向けると、イタリア各地のアクセントが飛び交っていた。主催者発表によれば、参加クラブ数は40。そこでは、サソリの毒にやられたしまった男女に次々と出会うことができた。
シチリア島からのファンは前日7時に出発してやってきたという。アバルトの魅力は?と彼らに聞くと、即座に「サウンド!」という答えが返ってきた。
近くには、ナポリからやってきた女子チームも発見できた。フロントに付着した虫の数はロングツーリングの証だ。あるメンバーは「彼氏がアバルトに乗っていたのがきっかけで、私も好きになってしまったの」と、サソリに出会ったきっかけを明かしてくれた。
別のメンバー、マリアーナさんは、いきなり長い髪の毛をかきあげ「見て!」と言う。見れば、彼女のうなじには、スコルピオーネ(イタリア語でサソリ)のタトゥーがしっかりと彫られていた。
いっぽう、隣の州のパヴィアからやってきたグラツィアーノさんは1969年生まれ。昨年アバルトに出会った途端、そのファン・トゥ・ドライブなキャラクターにたちまちやられてしまったと告白する。そして「こんな面白いトーイはないよ!」と笑った。
聞けば、以前はバイク一筋。欧州のアバルト乗りには、元二輪ファンが少なくない。背景にあるのは、アバルトの身体感覚に近い操縦性ゆえだろう。
ラリードライバーの横に同乗体験できるコーナーには長い列ができた。
ナポリから遠征してきた女子チーム。
マリアーナさんの首には、しっかりとサソリのタトゥーが。
長年二輪をホビーとしてきたグラツィアーノさんだが、アバルト独特のファン・トゥ・ドライブの虜になった。
「おー、元気か?」と声をかけられたので振り向けば、2016年のアバルト・デイで出会ったヴァレーゼ/ミラノの愛好家たちだった。回を重ねるごとに仲間が増えてゆくのも、このイベントの楽しみ。
2年前にインターネットで発見した「1971年フィアット・アバルト595レプリカ」で友人家族とやってきたアンドレアさん(左から2番目)。
参加者はピットでドリルを受けたのち、ヘルメットを着用してコースに挑んだ。
奮闘していたスタッフのカルロッタさん。
後輪に専用デバイスを装着した車両でドリフト体験をするコーナー。
■往年のレジェンドたちも
今回はセレブリティたちのトークショーも企画された。
カルロ・アバルトの未亡人アンネリーゼ氏も登場。草創期のアバルトに関わったOBが「カルロ氏とは経理事務まで、(彼の好物の)林檎を食べながら話したものです」と振り返ると、彼女は懐かしげな笑みをみせた。
いっぽうフィアット・レーシングチーム初期における数少ないオフィシャル・ドライバーのひとり、ルチアーノ・トロンボット氏は、「予算こそ少なかったが、情熱だけはふんだんにあるチームだった」と当時を回顧した。
マウリツィオ・ヴェリーニ氏は、1975年にフィアット・アバルト124ラリーを駆って欧州ラリー選手権を制覇したレジェンドにもかかわらず、「ナビゲーターをしていた若い頃は、夜間走行中に情報を記したノートを伝達するのが苦手で、ドライバーをたびたび怒らせてしまったものです」と、赤裸々な思い出話を語った。
同時にヴェリーニ氏は、新型アバルト124スパイダーについても言及。「新型のフロントエンジン・リアドライブは、先代のキャラクターを見事に再現しています。そのうえスタビリティも向上している。充分に楽しいクルマに仕上っていますね」と評した。
カルロ・アバルトの未亡人アンネリーゼ氏も駆けつけた。
かつて124アバルトを駆って欧州ラリーチャンピオンとなったマウリツィオ・ヴェリーニ氏。最近、新旧124に関する新著が刊行された。
■アバルティスタ、国境を越え始める
夕方になると空に雲がたちこめ、雷鳴とエグゾーストノートが混じるようになってしまった。
しかしイベントのエピローグとして企画された参加者全員によるパレード走行の時間になると、雨はぴたりと上がった。アバルティスタたちは運がいい。
ふたたびパドックに戻る。興奮さめやらず会話に花を咲かせていたのは、首都ローマと北部クーネオのメンバーたちだった。地理的にかなり離れているが、イベントやインターネットを通じて親交を深めていったという。
彼らのひとりは「アバルトという共通のパッションで集った俺たちは家族同然。仲間で集まって、パーツやアクセサリーを装着したり外したり、またくっ付けたりしていると、たちまち時間を忘れてしまうんだ」と目を細めて語ってくれた。
主催者発表によれば、その日は3千人が参加し、大成功のうちに幕を閉じた。
午前中に会ったひとりのファンが「次はドイツで会おう」と声をかけてきた。前回の各国同時開催から巡回開催に変更されたことで、ヴァカンスついでに隣国まで遠征計画をたてているファンが増えそうだ。
サソリの毒でパワーを得たヨーロッパのアバルティスタたちは、次々と国境を越えようとしている。
アバルト・クラブ・ローマとアバルト・クラブ・クーネオの仲間たち。地域は離れていても情熱で結ばれている。
メインスタンドで。アバルトクラブ・フィレンツェのメンバーたち。
クライマックスはパレード。感極まってホーンを鳴らす参加者が絶えなかった。
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Report 大矢アキオ Akio Lorenzo OYA
Photo Akio Lorenzo OYA / Mari OYA
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「魔術師」のマジックが蘇った日 ABARTH DAY 2016
ABARTH ラインアップ
■ ABARTH 595
■ ABARTH 595 Turismo
■ ABARTH 595C Turismo
■ ABARTH 595 Competizione
■ ABARTH 124 spider
■ ABARTH 695 Biposto