ビール職人のご主人から贈られたスイートテン・アバルト アバルトライフFile.63 松本さんファミリーと 595 Competizione

“地質屋”が郡上で作る本格クラフトビール

美しい青空と古い街並み。道路の両脇に立ち並ぶ建物は、明治〜昭和の面影を残しながらきれいに維持されていて、どこかおしゃれな雰囲気が漂う。岐阜・郡上八幡。山々に囲まれ、豊かな自然のもたらす解放感と、人々の温もりが調和したこの街に、黄色いアバルト 595 Competizioneを乗りこなす粋な女性がいる。ご主人の徹哉さんと共に、11年前にこの地に移り住んだ松本智世子さんだ。松本家がここに移住した理由は美味しいビールを作るためだった。


松本さんのご主人が腕によりをかけて作るクラフトビール。写真は土産用の瓶ビール。

東京の地質調査会社に勤めていた徹哉さんは、郡上に移り住む前は岡山県内の地下空洞掘削現場に出向していた。現場が完成するのを機に、脱サラをしてビール作りに専念したいと思うに至ったその背景には、自分の納得のいく“美味しいビールを作りたい”という強い情熱と、それを実現するための専門知識やノウハウがあった。ビール作りはサラリーマンの頃から趣味で勉強していて、その経験と地質学の知識が合わさり、あとは環境さえ整えば美味しいビールができると確信していたのだ。


町家の地下室で発酵・熟成用の樽を管理する松本さん。

「水の美味しいところでビールを作りたかったんです。岡山にいたもので、実家がある関東に向けて兵庫、京都、滋賀と順番に候補地を探したんですけど、大学の同期の水の専門会社に勤める友人から、“だったら郡上八幡はどうか?”とアドバイスをもらったんです。専門家からも太鼓判を押される土地だったんですね。実際に見に来たら、水と人の関わりが江戸時代からしっかり考えられている環境があり、感銘を受けました。岐阜を流れる長良川は、“長く良い川”と書きますが、郡上八幡は長良川最大の支流「吉田川」の合流部にあたります。その吉田川から引かれた水路が街中を流れており、ここに住む人は江戸時代から川の水を汚さないで川に戻すということをやっていたんですね。そのような人々の営みもあって、現在でも長良川は下流部に行っても透き通ったきれいな水が流れているんです」

なるほど。その美味しい水を使って、ビールを作っているんですね。

「はい。ビールが発展したヨーロッパでは、その土地の水に合ったビール作りが伝統的になされていました。ヨーロッパとは水質の異なる日本ではpH値や水の硬さの調整は、人工的に添加物を加えてやるのが一般的ですが、自分の場合は添加物を加えずそのまま使える水を求めていたんです。この辺りは石灰岩(鍾乳洞)が多く、湧き水がカルシウムを多く含んでおり、適度な硬度と相まっておいしい湧き水が採れ、水道水になっているのです。そういう郡上八幡の湧き水を使い、酵母が生きた状態でビールを提供しているのが、うちのお店(郡上八幡麦酒こぼこぼ)の特徴です」


お店では、地下にある発酵熟成樽から直に汲み上げたクラフトビールを提供している。酵母が生きた状態で飲めるのが自慢。


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