写真界の巨匠ケイ・オガタ氏が語る、アバルトから受けた刺激とフォトグラファーとしての挑戦

『The SCORPION SPIRIT』をテーマに作られたアバルト オリジナル 2021年カレンダー。その撮影を担当したのは、写真界の巨匠Kei Ogata(ケイ オガタ)氏だ。オガタ氏にはカレンダー以前にも、様々なジャンルで活躍する人物の挑戦に焦点をあてた『The SCORPION SPIRIT』のコンテンツ制作を通じて、アバルトの世界観を表現していただいた。ファインダーを通じて、被写体の内面を映し出すオガタ氏。その瞳の奥には何が見えるのか。そしてその眼にアバルトはどう映るのか。表現者として強いオーラを放つオガタ氏の、スコーピオンスピリットに迫る。

クルマで前向きになれるのか?

アバルト オリジナル 2021年カレンダーでは、オガタさんと愛車の595 Competizione Stileが登場していますが、まずはアバルトオーナーとなったキッカケからお話いただけますか。

「キッカケは、『The SCORPION SPIRIT』の仕事でご一緒した松島花さんや、メイクアップアーティストの稲垣亮弐さんがアバルトに楽しそうに乗っているのを見て、興味が湧いたんです。ただ僕は仕事や日常でクルマを使ってはいるけど、クルマを速く走らせたいとかそういうことを考えるタイプではないんです。なのでアバルトに乗るとワクワクすると聞いたとき、“クルマでそんなことがあるものなのか”と正直実感が湧かない部分もあったんです。それで乗せてもらう機会があって運転してみると、なんというか、確かに気持ちが前向きになり、次に行ってみたいという気持ちになるんですね。それでますますアバルトが欲しくなりました。ショールームに行くと、ちょうど595 Competizione Stileが出た時で、それを目にしたんです。僕の場合、ハードなものを求めていたわけではないので通常形状のレザーシートが採用されているのは都合が良かったし、ボディカラーも欲しかったグレーで、おまけに内装色はブラウンでおしゃれだった。もうその場で即決しましたね」


オガタ氏と愛車の595 Competizione Stile。

お仕事でクルマを使われるとのことですが、アバルトは実用面ではどうですか?

「仕事で使う以上、撮影機材が詰めないと困るし、一人か二人の助手と移動することが多いので、これまでは4ドアのクルマに乗っていました。ただ大きいクルマは都内での取り回しに不便なので、なるべく小さくて馬力があるクルマがいいと思っていたんです。それでアバルトに4ドアのクルマが出るといいななどと思っていたのですが、乗ってみるとアバルトはそういうタイプのクルマではないんだと気づきました。それよりも毎日乗るのが苦にならないというか、ワクワクさせるようなところがあることの方が大きかったですね」

アバルトに乗ると前向きな気持ちになる。何がそうさせているとお考えですか?

「かつてカルロ・アバルトは、次々と新しいことに挑戦し、自分の納得したクルマだけを作っていたわけじゃないですか。そういう彼の魂が込められているというと変な言い方かもしれないけど、音ひとつとっても、カタチひとつとっても、やはり伝わってくるものがありますね。アバルトはそんなに数が出るクルマではないかもしれないけど、カルロは自分の意思や信念を貫いたクルマだけを作り続けた。やっぱりそこには響くものがあって、そういう部分が今でも大切に受け継がれているのかなと思いますね。どういう材料を使って作るとか、サイズはどうするとか、そういうことじゃないのだと思いますね。ではそれが一体何なのかというのは僕も言葉にできないけどね。稲垣くんはもう8年位乗っているし、自分もずっとセカンドカーとして持ち続けたい。そんな気持ちにさせるものがありますね」


カレンダーの撮影風景。最高の1枚を完成させたい。オガタ氏をはじめスタッフ皆の想いがひとつになった。

何のための挑戦か

写真もそういう部分があるのではないでしょうか。いい写真というのは、シャッタースピードや絞りの設定とか、そういうものから生まれるわけではない気がします。

「そうですね。僕たちも機械を使って表現しているので、クルマと同じでマシンを操っているわけです。マシンにこだわって、このカメラはね……みたいなウンチクを口にしたくなる時代もあったけど、プロなんだからいい機械を使い、それを自分の手のように操れるというのは当たり前の話なんですね。ではその先に何か大事かというと、カメラを媒体にして世界や社会、人とどうコミュニケーションをとるか、ということだと思うんです。クルマもどこかに連れていってくれたり、荷物を運ぶ道具という考え方もあるけれど、それだけではなく、自分の人生に新しい見方をくれたり、乗っていることで人生を再起動して、新しいことをやってみたくなったりと、そういうふうに何か新しい世界を見せてくれるという側面もあると思います。それは写真とよく似ていて、出会った人が新しいものを吸収させてくれたり、自分を変えてくれたりする。そんな存在でもあると思いますね」

オガタさんは『The SCORPION SPIRIT』を通じて、女優さんやアーティスト、ミュージシャン、スポーツ選手と様々な世界にいる方のスコーピオンスピリットを表現されましたが、ご自身のスコーピオンスピリットは何ですか?

「僕は学校を出て、24歳の時にNYに行きたいと思い、当時は英語もできず、向こうに知り合いがいたわけでもなかったんですけど、とにかく世界の舞台で写真家としてやっていきたいという想いがあったんです。行くまでに1年間お金を貯めて、お金がなくなったら皿洗いでもなんでもやればいいやと思っていました。まだ若かったし。それで実際に行って1ヶ月で貯めていったお金を使い切り、そのあとは夜皿洗いをして昼はスタジオに入ってという生活をして、英語も徐々に覚えていき……と、すべてが挑戦の連続でした。挑戦というのは、例えばお金だけのためだとか、それだと長く続かないと思いますね。僕の場合は写真をやることで、いつか世界に対して何かメッセージを伝えたい、社会に貢献できるかもしれない、と、そういう気持ちが原動力となりました。そしてそれは日本にいては無理だと感じていたんです。

新しい世界に行き、開拓していく。その先どこを目指しているのかわからなくても、行きたいところは定まっていました。それがNYだったんです。ロンドンなら知り合いがいたし、パリは楽しそうだし……とそんなことも頭によぎるんだけど、心の奥の方からNYって響いてくるので、どんなに大変でも行こうと。行けば行ったで本当にいろいろなことが起こって大変なんですよ。だけどやっぱり目標を決めたら、それを曲げずに貫ぬこうと。それを貫いたから今があるのだと思います。それは僕にとって、ある種のスコーピオンスピリットかなと思いますね」


赤レンガでの撮影風景。オガタ氏が日本に帰国して雑誌の撮影をした時に心を動かされた場所でもあった。

大御所と呼ばれる立場になり、そのスピリットは今でも続いていますか?

「そうですね。自分が設定した目標を達成したらなくなるのかなと思ったら、不思議となくならないんですよ。すごく簡単な話で言えば、『VOGUE』の表紙を撮りたいとか、日本なら資生堂のキャンペーンを撮りたいとか。そういう目標を立てて実行していったんですけど、成し遂げると周りからはすごいねと言われ、それはそれでもちろん嬉しいんですけど、称賛され、お金を手にすることが果たして僕の目的だったかかなと、立ち止まった時期がありました。98年頃だったかな。主要な広告をほとんど手がけ、撮りたかった雑誌もやって、欲しいもの大体手に入って、でもこれでいいのかと。その時にもう一度原点に戻ろうと決めたんです。自分は自分だけのために写真をやっているわけじゃない。もちろん広告というのは、いい写真を撮りその商品が売れれば、それに携わっている人たちの生活を支えることにはなります。だけどもっと広い意味で、自分のやることが人のため、社会のために少しでも役に立てたらいいなという気持ちが強くなっていきました。

それで今度は人を撮り始めたんです。NY時代に亡命者を撮っていたんですけど、彼らの人生はすごいんですよ。監獄に10年入れられて出てきたとか。その間に娘が殺されていたとか、いろいろな話を聞きました。それまで想像もしなかったそういう人たちを、自分の写真で少しでも世界に向けて伝えたいと思いました。ぬるま湯に浸かっている日本の若者たちに、“お前らそうじゃないんだよ”と。“本当にギリギリで生きている人たちがいるんだよ”と。それを伝えることが僕のひとつの使命に感じ、なにかこう、やりがいを感じたんです。そういう仕事をやることが自分のなかで一番納得するものだと思ったんですね。

それで少しずつ、人物を撮る方にシフトしていきました。それで一昨年前に形になったのが『硬派の肖像』という本です。その仕事は広告とかそういう枠を超え、ひとりの人間に迫った本で、世界に何かメッセージを送る。僕がやりたいことでした。登場しているのは有名人ばかりなんですけど、挫折していない人なんて一人もいないんですね。“大きな壁にぶつかっても、そこからでも全然先にいけるよ”と。そこには強いメッセージがあり、これは若者の指南書にもなるなと。そういうことも含めて、僕のなかのスコーピオンスピリットと響き合ったんです。スコーピオンスピリットってなんだろう? 挑戦? だけどそれは単なる挑戦ではなくて、なんのために挑戦しているのか。そこが重要なのではないかと考えるようになりました。僕の場合は最初に『VOGUE』の表紙を撮りたいと思った。それも一つの挑戦かもしれない。でもそれはあまりにも表面的で、人間にはもっともっと深い、自分が生きているワケみたいなものがあるはずだと。そこにクリックすることが本当の意味でのスコーピオンスピリットなんじゃないかなと思うようになったんです」


『硬派の肖像 —ぶれない男、31人の人生訓』(小学館セレクトムックPrecipus編集部/編)。今をときめく各界の著名人のインタビュー。KEI OGATAが撮影を担当した。

最後に、アバルト オリジナル 2021年カレンダーでオガタさんの写真は、横浜の赤レンガが舞台に選ばれましたが、この場所を選んだ理由を教えていただけますか。

「最初は、お台場の選手村をイメージしたんですけど、こういうクルマと絡めるのはコマーシャル的だなと思い、止めたんです。ただ、街では撮りたかった。渋谷のスクランブルとかで撮りたいけど、どう考えても無理だなと。そう考えているうちに赤レンガが思い浮かんだんです。赤レンガは自分がNYから帰ってきて、『流行通信』という雑誌の撮影をやったときに、日本にこんなかっこいい場所があるんだと感動した場所でした。今でも好きな場所なので、ここで撮ろうと思ったんです。

このカレンダーの仕事を通じて、僕以外に11人のアバルトオーナーの方を各地で撮影させてもらいましたが、みんな自分のアバルトが好きで乗っているのが伝わってきました。街ですれ違ったときに、思わず『Hey!』って手をあげたくなるような、同じ匂いがするっていうんですかね。アバルトの何が好きかというのはそれぞれだと思うけれど、彼、彼女たちは何か一本筋を通したものを持っているような気がしました。それは何かなと考えたときに、スコーピオンスピリットなのではないかと考えると納得できるんですね。ぜひカレンダーを通じて、そこに何かを感じてもらえたら嬉しいですね」

アバルトオリジナル2021年カレンダー壁紙ダウンロード
アバルト公式WEBサイト