FIA フォーミュラ4 パワード・バイ・アバルト|アバルトの歴史を刻んだモデル No.032

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2014 FIA-F4 Powered by Abarth
FIA フォーミュラ4 パワード・バイ・アバルト

若手ドライバー育成の継承

モータースポーツにおいて勝利を追い求めたアバルトは、最高の戦闘力を備えたマシン開発に注力するとともに、若手レーシングドライバーの育成にも積極的に取り組んだ。1970年には、595/695シリーズを始め、850TC/1000TCなどで経験を積んだドライバーに向け、低価格でありながら本格的なレーシングスポーツの「1000ビポスト・コルサ」を用意し、ステップアップをサポート。その後フォーミュラ・イタリアの支援を開始し、イタリアのモータースポーツの底辺層を支えた。

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FIA フォーミュラ4構想に対応して始められたイタリアF4選手権のマシン。タトゥース製F4-T014シャシーに、アバルト製の1.4リッター・ターボエンジンを搭載する。

1979年になると、「フォーミュラ・フィアット・アバルト2000」と呼ばれる新たなマシンが登場。これはフォーミュラ・イタリアに代わる若手ドライバー向けの新シリーズ「フォーミュラ・フィアット・アバルト(FFA)」用に開発されたレースカーで、1980年シーズンからイタリアのモータースポーツを統括するACI公認レースとして、シリーズがスタートした。

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1980年シーズンから始まった若手ドライバー育成レース、フォーミュラ・フィアット・アバルト(FFA)のマシン。決してスマートな姿ではないが、腕を磨くための基本要素は押さえられていた。

このFFAシリーズでは、フィアットと11社におよぶパーツサプライヤー(タイヤ:ピレリ、ブレーキ:ブレンボ、ホイール:スピードライン、電装品:マニェッティ・マレッリ、ハーネス:ブリタックスetc)がスポンサーとなり、廉価でありながら本格的に腕を磨くことができるフォーミュラマシンが用意された。その開発と製作はレーシングマシンの製作に豊富な経験と実績を持つアバルトが担当した。イコールコンディションを保つためウイングなどの空力パーツは持たず、それでいて懐の深い基本性能を備えた。このあたり設計ノウハウは、豊富な経験を持つアバルトならではといえるだろう。

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入門用フォーミュラマシンの必要性が高まったことから2005年にフォーミュラ・アバルトとして新シリーズがスタート。これはフォーミュラ4規定に準拠した内容で、イタリアを始めヨーロッパ各国で開催された。

シリーズが始まるとFFAシリーズは、将来のF1パイロットを目指すイタリアの若者たちに支持されて成功を収めた。ちなみにこのシリーズは、エマヌエーレ・ピッロ、アレッサンドロ・ナンニーニ、アレックス・カフィー、女性F1ドライバーとなったジョバンナ・アマティらを輩出している。

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イタリアF4選手権の新体制発表会場に展示されたマシン。

その後、アバルトの活動の軸足がラリー・フィールドに移されたことや、その他の事情から’80年代半ばにフォーミュラ・フィアット・アバルトは幕を閉じることになった。しかし近年、再び入門用フォーミュラマシンの必要性が高まったことから、2005年よりフォーミュラ・アバルトとして新シリーズがスタートしたのである。これはフォーミュラ4規定に準拠した内容で、イタリアを始めヨーロッパ各国で展開された。

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イタリアンF4チャンピオンシップ・パワード・バイ・アバルトで使用されるアバルト414 F4型エンジン。1368ccユニットにターボチャージャーを組み合わせ、最高出力はレギュレーションに準じて160bhpを発生する。

その後FIAはジュニア・フォーミュラの再編を行い、ワンメイク・シャシーとワンメイク・パワーユニットを使用する新たなFIA フォーミュラ4構想を提示した。イタリアではそれまでのイタリアF4選手権を新たなFIAフォーミュラ4規定に準拠した内容に変更することが決定され、新シリーズはイタリアンF4チャンピオンシップ・パワード・バイ・アバルトと名付けられた。マシンはタトゥース製F4-T014シャシーにアバルト500でおなじみの1.4リッター・ターボエンジンを搭載する構成とされた。

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2014年からスタートしたイタリアンF4チャンピオンシップ・パワード・バイ・アバルト。イタリア各地のサーキットを転戦する。写真はムジェロでのスタートシーン。

以前のフォーミュラ・フィアット・アバルトのようにアバルトがマシンのすべてを製作するのではなく、シャシーは日本のFCJ(フォミュラ・チャレンジ・ジャパン)を始めとする世界中のワンメイク・フォーミュラ・マシンの製作でも実績のあるイタリアのシャシー専門メーカー、タトゥース製を使用する。アバルトはパワーユニットの提供のみだが、若手ドライバーを育成する志は往年となんら変わらず、パワーユニットの費用もレギュレーションに準じて安価に設定している。

Motorsports / TCR, 7. Event 2016, Zandvoort, NL
ドイツのADAC フォーミュラ4選手権。ミハエル・シューマッハの息子であるミック・シューマッハもこのレースに参戦した。

こうしてイタリアF4選手権はFIA-F4規定で2014年からスタート。翌2015年からはドイツのADAC フォーミュラ4選手権もタトゥース製シャシーにアバルトのパワーユニットを搭載する同じ内容で開始した。ADAC フォーミュラ4選手権は、F1ワールド・チャンピオンのミハエル・シューマッハの息子であるミック・シューマッハが参戦したことでも注目を集めた。シューマッハ選手は、2015年は参戦初年ということもありシリーズ10位に終わったが、翌2016年はADAC フォーミュラ4選手権に加え、イタリアF4選手権にも挑み、それぞれのシリーズで2位と活躍。2017年にはヨーロッパ・フォーミュラ3選手権へとステップアップしている。

Motorsports / ADAC Formel 4, 3. Event 2016, Lausitzring, GER
ミック・シューマッハは2015年からドイツのADAC フォーミュラ4選手権に挑み、2016年はドイツに加えイタリアF4選手権にもチャレンジ。それぞれのシリーズで年間2位の座を勝ち取った。

レースに勝つために設立され、数多くの栄光を勝ち取ってきたアバルトは、こうして熱いスピリットを持つ若きドライバーたちの支援も積極的に行ってきた。“ハコ”のレースカーだけでなく、FIA規定のフォーミュラカーにも、アバルトのレースに対する熱き情熱と若手支援の思想は生きているのだ。

2015 Tatuus FIA-F4 Powerd by ABARTH

シャシー:カーボン・コンポジット・モノコック
ホイールベース:2750mm
トレッド:F/1510mm、R/1460mm
車両重量:570kg(ドライバーを含む)
エンジン型式:アバルト414 F4
エンジン形式:アバルト製水冷直列4気筒DOHC+ターボチャージャー
総排気量:1368cc
最高出力:160bhp/5500rpm
変速機:シーケンシャル6段マニュアル
タイヤ:F/200×540×13、R/250×575×13