アバルトエンブレムの変遷|アバルトの歴史を刻んだモデル No.061
進化するエンブレム
最初のモデルは204Aスパイダー
アバルトの創始者、カルロ・アバルトは1949年4月15日に「アバルト& C.」社を立ち上げ、設立と共に「サソリ」のエンブレムが誕生、少しずつ形を変えながら現在に至っている。中央に配された「サソリ」は、創始者カルロ・アバルトが、さそり座だったことに由来する。そこで今回はアバルト社が設立72年目を迎えたことを機に、エンブレムの変遷を辿っていこう。
カルロ・アバルトは優れた美的センスを持つ人物で、レーシングマシンやチューニングパーツにおいても、機能だけでなく美しさにこだわってきた。エンブレムの製作にあたり、文字や色使いを徹底的に突き詰めてデザインしたのは想像に難しくない。
最初に登場したエンブレムは、シンプルにサソリと文字を組み合わせたものだった。続いて現在のエンブレムのオリジンといえるクレスト(盾)の上にサソリを配し、背景はレッドとイエローで構成。上部に「ABARTH & C.」のレタリングを入れたものが登場している。子細に見るとサソリはリアルな描写で、クラシカルな花文字風のレタリングが使われ、デザインのベースは同じながら誕生した時代を感じさせるものだった。
このエンブレムが最初に取り付けられたのは、カルロ・アバルトがチシタリアで開発に参画し、その後アバルトが引き継いだ「204Aスパイダー」だった。すぐさまトップドライバーのタツィオ・ヌヴォラーリがレースで大活躍したことから、アバルトのエンブレムは高性能を象徴する存在として知られるようになる。
エンブレムデザインをリファイン
1950年代後半になるとアバルトは自動車メーカーとして認められ、この頃エンブレムのデザインが近代化される。大きな変更点は上部の「ABARTH & C.」のレタリングが花文字からゴシック書体に改められたことで、モダンな印象を強めた。サソリも節を連続化したスマートなグラフィックに変えられている。
1962年頃からエンブレム上の「ABARTH & C.」のレタリング部分の地色がダークブルーに加え、グリーン、ホワイト、レッドのイタリアン・トリコロールにしたものが登場する。基本的にコンペティションモデルに装着されたようで、縦3分割と横3分割の2種類あるのがアバルトらしい。縦3分割タイプの場合は上からグリーン、ホワイト、レッド、横3分割タイプは左からグリーン、ホワイト、レッドという配列となる。
1971年から新デザインに
1971年10月15日にアバルトがフィアットグループ入りしたとき、エンブレムデザインも新しくなった。最もわかりやすい変更点はサソリがシルエット化されたことで、アイコン的なスタイルとなった。あわせて上部の社名から「& C.」が消え、「ABARTH」とのみ示すデザインとなった。独立企業だったアバルトから、フィアットの一部門になったためである。
この時代はアバルトのクレスト型エンブレムを単独で付けたモデルはほとんどなく、車名のバッジに組み込んで使用することが多かった。フィアット131アバルト・ラリーではサソリのモチーフをあしらったバッジがリアピラーに付くに留まった。唯一、七宝焼きの本格的なアバルトのクレスト型エンブレムが誇らしげに付けられていたのは、アバルトのスタッフが開発したランチア・ラリーである。
アバルトの復活
2007年にアバルト・ブランドが復活すると、それまでのイメージを受け継ぎながらスマートにモダナイズされたエンブレムが登場する。基本的なモチーフは引き継がれたがクレストの上部は平らにされ、アバルトの文字のフォントも現代的なものに変えられている。
復活したアバルトは、限定モデルも数多く送り出している。それらのボディサイドに取り付けられた専用のバッジにも注目したい。このバッジの原点は1960年代のモデルに取り付けられていたワールド・チャンピオンをアピールするバッジだった。アバルトの小さなエンブレムとチェッカーフラッグをローレルで囲み、中央に「CAMPIONE DEL MONDO=ワールド・チャンピオン」のレタリングが刻まれたものである。
このモチーフは695トリブート・フェラーリに始まり、695エディツィオーネ・マセラティ、595 50thアニバーサリーに採用され、最近では70周年記念モデルと70周年公式ロゴにも採用された。細かく見るとアバルトの小さなエンブレムがフェラーリとマセラティは現行タイプだが、595 50thアニバーサリーと695 70°アニバーサリオでは初期のタイプがデザインとされていることに気づく。歴史へのリスペクトを感じさせるこだわりだ。
70年以上にわたって闘い続けてきたアバルトは、イタリアはもちろん日本でも好調なセールスを続けている。これから登場する熱い血筋を受け継ぐモデルでも、伝統のサソリのエンブレムが燦然と輝くはずだ。