クラシケオーナーに聞くアバルトの魅力|アバルトの歴史を刻んだモデル No.059

赤鹿さんとフィアット・アバルト OT1300

究極のレーシングスポーツ

2019年の11月に富士スピードウェイで開かれた「ABARTH DAYS 2019」には現行モデルと共に、貴重なクラシケ(イタリア語でクラシックを意味する)アバルトが全国から数多く集まったことを記憶されている方も多いことだろう。

ピットに並んだクラシケ アバルトの中でひときわ注目を集めていたのが1967年製「フィアット・アバルトOT1300」だった。1960年代のアバルトを代表するレーシングモデルで、圧倒的なパフォーマンスからレースで数多くの勝利を勝ち取ったチャンピオンマシンである。


レーシングマシンのOT1300は、やはりサーキットを走る姿が最も美しい。

レーシングマシンであっても美しさにこだわったカルロ・アバルトは、OT1300にもそのセンスを遺憾なく発揮した。スタイリングはアバルトらしく寸部の隙もなく磨き上げられ、流麗なスタイリングは今もなお美しく映る。また随所にはクルマ好きの心をくすぐるディテールがちりばめられていた。その代表格がルーフに備わるエアインテーク「ペリスコピオ/イタリア語で潜望鏡の意」で、ほかにもリアウインドウ越しに見えるエンジンや、アルミ製で放熱効果の高いオイルサンプ、定番のカンパニョーロ製のアバルトホイールなど、機能と美しさを両立したデザインを採用した。


OT1300シリーズ2の特徴的なデザインがルーフに備わるエアインテークの「ペリスコピオ」。サソリの尻尾をイメージしたという。

世界的に希少なチャンピオンマシン

フィアット・アバルトOT1300のオーナーである赤鹿さんにお話をうかがうことができたので、アバルトへの想いや魅力を聞いてみた。

Q : OT1300を手に入れたきっかけは?

赤鹿氏 : OT1300は昔から憧れのクルマでして、いつか手に入れたいと思い探し続けていました。しかし50台しかつくられていないことに加え、完成型といえる1967年に作られたシリーズ2が本命でしたので、世界中をチェックしてもなかなか見付かりませんでした。
ところがある時、大阪のショップで売りに出ているのを知り、すぐ確認に行きました。世界的にもほとんど出てこないだけに高価で、その時所有していたディーノを手放しても足りなかったのですが、苦労して何とか手に入れることができました。


OT1300のリアビュー。1960年代最後となる曲線で構成されたスタイリングは、女性的な曲線美を見せる。

Q : アバルトは以前から所有していましたか

赤鹿 : 実はこのOT1300が始めてのアバルトになります。イタリア車が好きでアルファ ロメオやディーノに乗っていましたが、より走りを突きつめたOT1300が目標でした。

Q : 手に入れてすぐに乗られましたか

赤鹿氏: そのころアルファロメオ1750GTVでヒストリックカーレースに熱中していて、レースやその準備で忙しく、なかなか手を付けられないでいました。それとチューニング度の高いレーシングマシンですので、ちょっと乗るという使い方ができないという制限もあり、5年ほど寝かしてしまいました。そんな折に富士スピードウェイで開かれるABARTH DAYSの案内をいただき、急遽参加に向けてブレーキを始めとする各部の整備とセットアップを始めて、1度シェイクダウンを行ってから富士にきました。


「ABARTH DAYS 2019」に参加したクラシケモデルの中で最も注目を集めていたのがフィアット・アバルト OT1300だった。

Q : OT1300に乗った感想はいかがですか

赤鹿氏: テストランの時はならし中のため7000rpmに抑えて走りましたが、5000rpmを越えると急激に吹け上がるので、油断すると8500rpmまで回ってしまうほどの高回転型がアバルトらしいといえます。ABARTH DAYSではまだ完全にセッティングが決まっていませんでしたが、たっぷりと走ることができて大満足しました。


シリーズ2から採用されたリヤウインドー越しにエンジンを見せるデザインは、アバルトの美学を象徴する。1289ccのDOHCユニットは157HPにパワーアップされた。

Q :アバルトの魅力を教えてください。

赤鹿氏: スタイリングやエンジンはもちろんですが、パーツのディテールひとつひとつが魅力的ですね。それと当時にこれだけ高回転型のエンジンを作れたアバルトの高い技術力には感心させられます。あとは未完成なところですか。このOT1300もひとつひとつセッティングを決めていかないとちゃんと走りません。すべて決まればチャンピオンマシンだけに速いと思います。これからじっくりとセッティングを出して、アバルトならではのパフォーマンスを楽しんでいきたいと思います。

本日はありがとうございました。


デザインはどこを見ても寸部の隙もない。太いメガホンマフラーの奥にはフィンが刻まれたオイルサンプが鈍く光る。

アバルト・ファンにとって極めつけの1台であるOT1300は、理解の深いオーナーの元で完璧なコンディションに戻りつつある。次に見る時はセッティングも決まり、1300ccとは思えぬ野太いエキゾーストノートとアバルトらしい鋭い走りを見せてくれるに違いない。