1965 FIAT ABARTH OT1000 SPIDER|アバルトの歴史を刻んだモデル No.043

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1965 FIAT ABARTH OT1000 SPIDER
フィアット アバルトOT1000 スパイダー

高性能を追求するアバルトの飽くなき挑戦

1964年、アバルトは「フィアット850ベルリーナ」をベースとした「フィアット アバルトOT850/OT1000ベルリーナ」(OTはオモロガート・ツーリズモの頭文字を取ったもの)を送り出し、ドライビングの楽しみを求める愛好家の関心を集めた。その後、今度はフィアットから850ベルリーナの新バリエーションとしてファストバックスタイルの「850クーペ」と、ベルトーネが手掛けたスタイリッシュな2座スパイダーの「850スパイダー」が追加され、たちまち世界各地で人気を集めていた。

エンジニアリング力とともに商才にも優れたカルロ・アバルトは、この850クーペと850スパイダーの登場に自身のビジネスチャンスを見出した。アバルトは、すでにOT850/OT1000ベルリーナを送り出していた経験があり、しかも850ベルリーナと850クーペ/スパイダーではパワートレインが共通だったことから、すぐさま両タイプの高性能版となるOT1000クーペ/スパイダーの製作に取り掛かったのだ。なおOT1000クーペについては以前に本連載で紹介しているので、ここではOT1000スパイダーについて紹介する。

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フィアットが1964年に送り出したフィアット850をベースに作られた「フィアット アバルトOT1000クーペ」。

フィアット850スパイダーをベースとするフィアット アバルトOT1000スパイダーは、OT1000ベルリーナと共通の、アバルトにとって定番といえる排気量982ccのOHV水冷直列4気筒エンジンを搭載した。ヘッドまわりのチューニングに加えウェーバー30DICキャブレターとお約束のマルミッタ アバルト(エキゾーストシステム)を組み込むことにより、最高出力は62HPを発揮するに至った。ベースとなった排気量843ccのフィアット850スパイダーの最高出力は47HPだったため、OT1000スパイダーはその1.3倍ものパワーを得たことになる。

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カタログの裏面に記載されたOT1000クーぺ/スパイダーのスペック。スパイダー版は車高が低く空気抵抗が少ないことから、最高速度は160km/hと同じエンジンを積むクーペ版の155km/hを大幅に上回った。

トランスミッションはフィアット850のものをそのまま流用するが、15HPのパワーアップにより最高速度は135km/hから本格的スポーツカーに遜色のない160km/hにまで高められた。ボディまわりでは、ノーズにアバルトのエンブレムとレターマーク、エンジンフードには「1000」のレターマークが追加されただけで、このほかはフィアット850スパイダーと変わらなかった。

ホイールもベース車と同じスチール製が使用されたが、ホイールキャップの中央にはサソリのバッジが取り付けられ、出自を主張していた。当時のアバルトを象徴するアイテムであるカンパニォーロ製のアバルトパターンのマグネシウムホイールはオプション扱いであり、一部の記述でマグネシウムホイールが標準で備わるとあるが、これは誤りである。

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フィアット アバルトOT1000 スパイダーのカタログは、当時のアバルトの定型といえる横長の2色刷り1枚構成。そこにクーペとスパイダーの2モデルがまとめて紹介されていた。

こうしてOT1000 スパイダーは、OT1000クーペと共に1965年9月に行なわれたフランクフルトモーターショーにて発表された。スタイリッシュで高性能、そして手頃な価格だったことから、地元イタリアはもちろんヨーロッパ各国やアメリカでも高い人気を集めた。日本にも当時の輸入代理店だった山田輪盛館の手により1台が新車で輸入されている。

なお姉妹モデルのOT1000クーペには62HPを発揮するベースグレードに加え、チューニングを高めて68HPを発揮するOTSと、半球形シリンダーヘッドが組まれ74HPまでパワーアップしたOTRの3グレードが用意されていたが、OT1000スパイダーには別のバリエーションは存在しなかった。クーペのOTSとOTRでは、チューニングにより増大した発熱量に対応して冷却効果を高めるべくラジエターをリヤからフロントに移設したのだが、スパイダーはノーズ部分が薄い形状ゆえに簡単にラジエターを収めることができず、高性能版の製作が見送られてしまったのである。

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カロッツェリア・ベルトーネが製作したスタディモデルのフィアット アバルトOTR1000 ベルリネッタ。その名の通り固定式のルーフを備えた。

しかしながら、OT1000スパイダーをベースにしたワンオフのスタディモデルは存在した。それは「フィアット アバルトOTR1000 ベルリネッタ」と名付けられ、固定式のルーフを備えることからイタリア式にベルリネッタの名が与えられた。製作したのはフィアット850スパイダーのオリジナルデザインを担当したカロッツェリア・ベルトーネで、ウエストラインから下はOT1000スパイダーと変わらないが、内側に湾曲したリヤウインドウやチャーミングなクオーターウインドウなどで端正なスタイリングにまとめられていた。

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内側に湾曲したリヤウインドウや特徴的なクオーターウインドウなど魅力的なスタイリングだったが生産には至らなかった。

OTR1000 ベルリネッタはカタログ入りを見据えて提案されたモデルだったが、最終的に市販されることはなかった。このOTR1000 ベルリネッタ、OTRを名乗るだけにラジエターはフロントに移設されていたが、空きスペースがフロントスカート下面にしかなく、冷却効率はお世辞にも良さそうではなかった。かくしてOTR1000 ベルリネッタは幻に終わったものの、ワンオフモデルを作り、様々な可能性に挑戦するその姿勢に、アバルトのチャレンジスピリットを垣間見ることができる。

1965 FIAT ABARTH OT1000 SPIDER

全長:3780mm
全幅:1500mm
全高:1220mm
ホイールベース:2027mm
車両重量:725kg
エンジン形式:水冷直列4気筒OHV
総排気量:982.20cc
最高出力:62HP/6150rpm
変速機:4段マニュアル
タイヤ:145R13
最高速度:160km/h