フィアット・アバルト850クーペ・スコルピオーネ・アレマーノ|アバルトの歴史を刻んだモデル No.034
1959 FIAT ABARTH 850 Coupe Scorpione Allemano
フィアット・アバルト850クーペ・スコルピオーネ・アレマーノ
アバルトの発展に寄与したラグジュアリークーペ
創業まもない1950年代、自動車部品の製造販売が収益面の大きな柱となっていたアバルトにとって、自動車メーカーとしての歩みを促進する大きな原動力となったのが、フィアット600をベースに開発された初の量産GT「フィアット・アバルト750GTザガート」だった。そのクルマの成功によりアバルトは自動車メーカーとしての座を強固なものとした。一方で、750GTザガートはパフォーマンス的には優れていたが、性能を第一に追求したモデルだけに一般のクルマ好きにとってはピーキ-で扱いにくい面もあった。たとえばノイズの低減や密封性の確保といった、いわゆる快適性に関する要件はあまり重視されていなかった。
そこでカルロ・アバルトが考えたのは、より幅広いクルマ好きの顧客が楽しめるラグジャリークーペを実現することだった。アバルトはその発想をもとに、それまでラインナップになかった快適な居住性を備えるスタイリッシュなモデルの開発に取り組んだ。
850クーペ・スコルピオーネ・アレマーノは、基本的には750GTザガートと同様にフィアット600のフロアパンやサスペンションをベースとする。デザインは当時イタリアのデザイン界の巨匠だったジョヴァンニ・ミケロッティが描いたものをベースに、カロッツェリア・アレマーノが製作を手掛けた。
稀代のボディ職人であるセラフィーノ・アレマーノは、ミケロッティのデザインとアバルトの希望を見事にかたちにしてみせた。完成したラグジャリークーペを見たカルロ・アバルトは、これまで使用してきた750ccエンジンでは車格にあわないと判断し、排気量を拡大した833ccユニットの開発を進めた。実走テストの結果、ドライバビリティに余裕を持たせるためにはさらなる排気量が必要と判断され、最終的に847ccまで拡大されて生産に移されることとなった。
こうして誕生した850クーペ・スコルピオーネ・アレマーノは、1959年9月のフランクフルト・モーターショーでプレビューが行なわれたのち、2ヶ月後の地元トリノショーでオフィシャルデビューを果たした。ミケロッティによる軽快で近代的なクリーンなスタイリングは、これまでのアバルト車とは異なる明るい雰囲気を放ち、インテリアはより大きなGTモデルに負けない仕上がりを得ていた。
デビュー当初はフィアット・アバルト850とシンプルな名前だったが、後にフィアット600ボディの850TCなどが追加されたことから、850クーペ・スコルピオーネという愛称名が付けられた。一方でエンスージァストの間では、カロッツェリアに敬意を払い「アレマーノ」の名を加えて呼ばれることが多い。
リヤに積まれる847ccユニットは57HPを発揮し、低回転域から厚いトルクを発揮する柔軟性を備えることから、一般的なドライバーでもアバルトの高性能を気軽に楽しむことができた。車重600kgと軽いボディを160km/hまで引っ張り、その実力は850ccクラスを超越していた。
850クーペ・スコルピオーネ・アレマーノは、それまでのアバルトにないスタイリッシュなラグジャリークーペとして世界各地で成功を収めた。その結果、アバルトは企業としての収益の改善を実現し、次なるチャレンジに投資できるだけの体力を身につけていったのだった。
1959 FIAT ABARTH 850 Coupe Scorpione Allemano
全長:3600mm
全幅:1420mm
全高:1190mm
ホイールベース:2000mm
車両重量:600kg
エンジン形式:水冷直列4気筒OHV
総排気量:847cc
最高出力:57HP/6500rpm
変速機:4段マニュアル
タイヤ:135SR12
最高速度:160km/h