2014 ABARTH 695 BIPOSTO|アバルトの歴史を刻んだモデル No.060

2014 ABARTH 695 BIPOSTO
アバルト 695 ビポスト

史上最強の695

アバルトの最強レンジとして「695 トリブート・フェラーリ」や「695 エディツィオーネ・マセラティ」で熱狂的な人気を集め、最近では「695 70°アニヴェルサーリオ」と「695 アンノ・ デル・トーロ」がリリースされた695シリーズ。この695シリーズの中で最強かつ最もレーシーな公道仕様として送り出されたのが「695 BIPOSTO(ビポスト)」だ。


コクピットと呼ぶにふさわしい、スパルタンに仕立てられた695 ビポストのキャビン。ダッシュはカーボン製で、中央にはデータロガーが備わる。

695 ビポストは、2014年のジュネーブ・モーターショーで発表された。往年のアバルトを象徴する「フィアット・アバルト695」の誕生50周年を記念するとともに、創始者のカルロ・アバルトの名言である「日曜日はサーキットへ、月曜日はオフィスへ」を具現化したモデルとして開発された。その位置づけはアバルトのレース専用モデル「アバルト 695 アセットコルセ」の公道版といえる。


695ビポストのインテリアの雰囲気はレースカーそのもの。ドグリンク式ギアボックスの長いシフトレバーが目を引く。シートはヘッドレスト部に「695」の刺繍が施される。

アバルトファンをのみならず世界中のクルマ好きを驚かせたのは、走りへの徹底的な追求だ。695 ビポストは4シーターのアバルト500をベースに、軽量化の追求から各部のシェイプアップに加え、後席が取り払われ2シーターとされた。また、レーシングマシンに使用されるシンクロが無いドグミッションが設定されたことからも、常に最高の性能を追い続けるアバルトの精神を受け継いだモデルといえる。


後席は取り払われ、リヤアッパー部分にはチタン製のフレームが追加され、ボディ剛性を高めている。4点式ハーネスはそこに固定され、ラゲッジネットが備わる。

“ビポスト”の名が意味するもの

それまでの695シリーズはコラボ相手の名をモデル名に掲げていたが、695 ビポストは違った。ビポストはイタリア語でビ=2、ポスト=席を意味するもので、2座席/2シーターであることを前面に押し出し、主張したのである。


サイドウインドウは軽量化のためプレクシ製に変えられ、小さなスライド式の小窓が開くのみ。ドアミラーのカバーもカーボン製に変えられた。

また、それまでの695はベースとなったアバルト500のボディワークをそのまま継承していたが、695 ビポストは独自のデザインを採用した。フロントバンパースカートは冷却効果を高めるために開口部を拡大し、インテークとなる中央部分の黒い部分はカーボン製とされた。また流入効率を高めるために形状も変更され、その結果全長は20mm伸びている。


695ビポストは走りを突き詰めたモデルならではの精悍な印象を放つ。ボディカラーはグリージョ・パフォーマンスのみが用意された。

前後フェンダーには樹脂製のオーバーフェンダー風のトリムが取り付けられ、全幅は15mm広がり1640mmとなった。またサイドスカートも空力を考慮した複雑な形状の専用パーツが組まれ、リアスポイラーも大型化されている。


延長されたリアスポイラーと印象的なアンダーディフューザー、大径の2本出しのエキゾーストパイプが、695 ビポストのパフォーマンスを物語る。

リア周りでは、ディフューザーと一体のスカート部分の形状が変更された。これはテールパイプがチタン製の大径2本出しとなるアクラポビッチ製のデュアルステージエキゾーストシステムを採用し、さらにディフューザー部分を強調したデザインとしたため。ボディカラーは精悍さを強調するつや消しのダークグレー(グリージョ・パフォーマンス)のみとされた。

最高出力は190psにアップ

走りを突きつめた695 ビポストのエンジンは、排気量こそ1368ccとアバルト500と変わらないが、専用のECUやギャレットGT 1446型ターボチャージャー、大型のインタークーラー、アクラポビッチ製デュアルステージ・エキゾーストシステムの採用により、最高出力はアバルト500比で55psアップし、695シリーズで最高となる190psを達成した。


エンジンは専用ECUやギャレットGT 1446型ターボチャージャーならびに大型インタークーラーを採用。結果、695シリーズ最強となる190psを生み出した。

注目したいのは695 ビポストには2つのグレードが設定されたこと。いずれもエンジンは共通だが、一般的なシンクロメッシュ付きの5速トランスミッションを備えた標準仕様に加え、レーシングマシンで使われる素早いシフトが可能なドグリング式5速トランスミッションを搭載したフルスペック仕様も設定された。フルスペック仕様は、あくまでも速さに拘るアバルトらしさを体現した仕様だ。

徹底した軽量化

最高の走りを実現するため、軽量化も徹底して行われた。その最たるものが後席を取り払い2シーターとしたことだ。またサイドウインドウはプレクシ製に変えられ、小さなスライド式の小窓が開くのみで、ドア内張りも簡略化された。このほかエアコンやオーディオ、防音材などの快適装備が取り払われ、カーボンやチタニウム製パーツを採用。これらの軽量化メニューにより、車重はアバルト500より50kgも軽い1060kgを実現していた。


軽量化のためドア内張りも簡略化。小さなオープナーハンドルとベルト式の引手とレーシングマシンのように割り切られている。

一方、減らすところを減らしつつ、走りに欠かせない部分にはこだわった。OZ Racing製の軽量18インチのアロイホイールには215/35R18サイズのタイヤが組まれる。ヘッドレスト部に「695」の刺繍が施されたスポーツシートや、専用のペダルエクステンション、足元のチタン製トレッドプレート、室内のリアにはチタン製のストラットブレースが追加された。

こうして走ることを突きつめた695 ビポストは、0-100kmh加速を5.9秒でこなし、最高速度は230kmhをマーク。さらには引き締められた足回りと機械式LSDによりあらゆる状況下で史上最速の695となったのである。


18インチ径のOZ Racing製の軽量アロイホイール。タイヤは215/35R18サイズが組み合わされた。

日本では2015年9月に限定販売が開始され、当時の価格は標準仕様が594万4000円、フルスペック仕様は845万6400円と高価だった。しかし熱いハートを持つアバルトファンが多く、走りが楽しめるマニアックなフルスペック仕様が早々に売り切れてしまった。アバルトに魅せられたファンにとっては、よりハードコアなフルスペック仕様の方が魅力的に感じられたということだろう。

2014 ABARTH 695 BIPOSTO

全長:3675mm
全幅:1640mm
全高:1480mm
ホイールベース:2300mm
車両重量:1060kg
エンジン形式:水冷直4 DOHC16バルブ+ターボ
総排気量:1368cc
最高出力:190ps/5750rpm
変速機:5段MT+後進1段
最高速度:230km/h
タイヤ:215/35R18