ABARTH 695 EDIZIONE MASERATI|アバルトの歴史を刻んだモデル No.027

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2012 ABARTH 695 EDIZIONE MASERATI
アバルト695エディツィオーネ・マセラティ

アバルトだからできたコラボモデル

クルマの性能を高める突出した技術力とデザイン力を誇るアバルト。大衆車をベースとするチューンドモデルから競技車両まで様々なモデルを送り出し、世間を驚愕させてきた。アバルトが送り出すクルマの特徴は、性能だけを追求するのではなく、人々を魅了するフォルムを作り出せることにある。パフォーマンスアップのために追加されたパーツやボディワークは、エンスージャストを虜にする不思議な求心力を秘める。

こうしたアバルトの伝統は、2007年にブランドが復活してからも変わることはなかった。フィアット500をスープアップするとともにサソリのエッセンスを加えたアバルト500(現595)は、往年と変わらないフィロソフィで作られ、俊敏な走りとともに造形へのこだわりも受け継ぎファンを魅了した。

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ボディサイドに付くエンブレム。1960年代のアバルトに使われていたものをリデザインしたエディツィオーネ・マセラティの専用品だ。

こうしたアバルトのクルマづくりのノウハウは、別ブランドとのコラボレーションにも発揮された。先に紹介したフェラーリとのコラボモデル「695トリブート・フェラーリ」(2009年発表)が世界中で高い評価を獲得し、2012年9月のパリモーターショーでは、第2弾として「アバルト695エディツィオーネ・マセラティ」が登場した。

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トランクリッドにも専用のバッジが取り付けられ、マセラティとのコラボから生まれた特別な存在であることを主張する。

モデナの老舗メーカーであるマセラティは、アバルトと同様にレースを戦うことにプライオリティを置き、F1やスポーツカーレースで数多くの栄光を勝ち取ってきた。1960年代を最後にレースシーンからは姿を消したが、熱い血筋を受け継ぐGTモデルは、現代も高い人気を呼んでいる。

695エディツィオーネ・マセラティは、アバルト500をベースにマセラティが持つ豪華で高性能なGTカーの個性を表現したもので、エレガントな仕立てが何よりの特徴である。そのイメージの原点は、当時のマセラティのフラッグシップモデルであるグラントゥーリズモだった。

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ボディはエレガントな雰囲気が漂うカブリオレがベースとなった。

ボディタイプは電動開閉式ソフトトップ仕様の500Cが選ばれ、ボディカラーはマセラティのカラーリストに載っている「ポンテベッキオ・ボルドー」と呼ばれる3コート仕上げのダークワインレッドが採用された。

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ドアミラーはフェラーリ版ではカーボン製だったが、マセラティ版ではボディ同色というシックな仕上げとなる。

17インチのアロイホイールは、マセラティのシンボルである海の神ネプチューンが持つトライデント(三つ鉾)をモチーフにした専用デザインとされ、テールパイプはフェラーリ版が4本出しだったのに対し、マセラティ版はグラントゥーリズモと同形状となる楕円の2本出しに変わっている。細かなところではフェラーリ版ではカーボン製だったドアミラーはボディ同色とされ、センターピラーカバーはブラック仕上げにされるなど随所にエレガンスが演出されている。

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インテリアはベージュ・サッビアのポルトローナフラウ製のレザーを採用。明るいトーンで仕上げられている。

インテリアに目を移すと、マセラティの名にふさわしい優美なシートが目に飛び込む。フェラーリ版ではレーシーな雰囲気でまとめられていたが、エディツィオーネ・マセラティではベージュ・サッビアのポルトローナフラウ製のレザーを使った明るく洒落たフィニッシュが特徴だ。またマセラティならではの落ち着き感を表現するために、ダッシュボードやシフトパネルのカーボンパネルもシックなマット仕上げとされたのも見逃せない。そこかしこに大人のためのクルマを追求したことがうかがえる。

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インパネのデザインは標準アバルトに準じるデザインだが、ダッシュボードやシフトパネルのカーボンパネルがマット仕上げとなる。

メカニズム的には695トリブート・フェラーリと同等のチューニング、すなわちアバルト500の1.4リッター直列4気筒ターボエンジンをベースに各部を見直し、ギャレット製の固定ジオメトリー式ターボチャージャー1446を組み合わせた。あわせてエキゾーストシステムはおなじみの「レコードモンツァ」を組み込み、最高出力は180psを発生。0-100km/h加速は7秒、最高速度は225km/hをマークするアバルトの頂点にふさわしいパフォーマンスを発揮した。

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マセラティのシンボルであるトライデント(三つ鉾)をモチーフにした17インチのアロイホイールはエディツィオーネ・マセラティの専用品。

ギアボックスはトリブート・フェラーリと同様に「アバルト・コンペティツィオーネ」と名付けられた2ペダルでMTモード付き5速シーケンシャルMTAが組み合わせられた。高められたパフォーマンスに応じて足回りも強化され、フロントは305mm径の大径ローターにブレンボ製4ビストンキャリパーが与えられるのもフェラーリ版と同様である。

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エキゾーストパイプはグラントゥーリズモと同形状となる楕円の左右2本出しタイプで、エレガントな雰囲気を漂わす。

695エディツィオーネ・マセラティは日本では2013年2月に100台が導入されることが発表され、車両本体価格は499万円とアナウンスされた。全世界で499台が限定生産されるうち100台が日本に割り当てられたのは、世界的に見て上位に入る日本での販売台数を加味したものだった。実際、日本で発売されるとすぐさま完売した。

695エディツィオーネ・マセラティは、アバルト・ファンのみならずマセラティ・オーナーのタウンカーとしての需要もあり、海外でも瞬く間に売り切れてしまった。追加生産を望む声が多かったことから、2014年に50台限定で生産されることになる。しかし初版と同じ仕様で作るのではなく、ボディカラーはグリッジョ・レコードと名付けられたダークシルバーとされ、ホイールはブラックに変更された。こちらも発表とともに完売したが、残念ながら日本に正式導入されることはなかった。

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2014年に50台限定で生産された追加モデル。ボディカラーはグリッジョ・レコード、ホイールはブラックに変更された。

イタリアを象徴するふたつの名門ブランドのコラボレーションから誕生した695エディツィオーネ・マセラティは、今も世界中のクルマ趣味人にとって憧れの1台であり続けている。このようなコラボレーションモデルを実現できたのは、世界に誇るブランド力と存在感を身につけたアバルトだからこそといえるだろう。

2012 ABARTH 695 EDIZIONE MASERATI

全長:3655mm
全幅:1625mm
全高:1505mm
ホイールベース:2300mm
車両重量:1135kg
エンジン形式:水冷直列4気筒DOHC+ターボチャージャー
総排気量:1368cc
最高出力:180ps/5500rpm
変速機:5段MTA
タイヤ:205/40R17
最高速度:225km/h