アバルト 124 スパイダー&595 ツーリズモ比較試乗 前編

161125_abarth_01

“アバルトらしさ”が感じられるエンジン

「124 スパイダー」が登場したことで、アバルトのラインアップに新風が吹き込みました。そこで今回は、新生「124 スパイダー」と既存の「595 ツーリズモ」と乗り比べることで、アバルトに新たに加わった魅力と、従来の“アバルトらしさ”を探っていきたいと思います。

アバルトには、ボディも排気量もコンパクトなクルマをチューンし、大きなクルマをカモる! そんなイメージがありますよね。「124 スパイダー」はまさにそんな1台。クラス上のクルマにも対抗できる。そんな走りの雰囲気を備えています。とはいえ、ジャジャ馬というわけではありません。むしろ、とても乗りやすいクルマに仕上がっています。

161125_abarth_02
124 スパイダーのフロントビュー。重心の低い、安定したフォルムが特徴。

ベース車であるロードスターの出来栄えが素晴らしいこともありますが、アバルトは元々、ベース車をチューンして新たな個性を与えることを得意としているブランドです。そうした意味では「124 スパイダー」も、まさに正道を行くモデル。走りが際立った1台に仕上がっています。

161125_abarth_03
124 スパイダーに搭載される1.4リッター直列4気筒“マルチエア”ユニット。最高出力170ps、最大トルク250Nmを発生する。燃費は13.8km/L(JC08モード)。

アバルトらしさが最も強く出ているのは、パワートレイン。1.4リッター直列4気筒“マルチエア”ユニットにギャレット製ターボチャージャーを組み合わせていますが、アバルトらしいパンチのある音とパワーで、走り出した瞬間から気分を高めてくれます。

操る楽しさがある

エンジンは、低回転域ではややおとなしく、回転が上がるにつれトルクが盛り上がってくるタイプ。そのトルクが溢れるおいしいところを維持するように、メーター中央のタコメーターを睨みながら手足をフル稼働させる。「124 スパイダー」のMT車には、そうした操る楽しさがあります。だから個人的にはMTでガシガシ行きたいですね。

161125_abarth_04
124 スパイダーのコクピット。インパネ内にはタコメーターが中央に配置され、スポーティな雰囲気が演出されている。

最近のダウンサイジングターボエンジンは音がつまらないものが多いですが、このエンジンはさすがアバルトチューン。音だけで魅せてくれます。さらにオプションの「レコードモンツァ」を装着したら、もう言うことはありません。こうした音でワクワクさせてくれるところは、従来のアバルト車に通じるものを感じました。

161125_abarth_05

大人のグランツーリスモ

一方で「124 スパイダー」は、従来モデルと明らかに違う要素も持っています。それはベース車もスポーツカーであること。たとえば、今回比較試乗を行った「595ツーリズモ」は、走りにスパイスが効いていますが、ベース車は都会派コンパクトの「500」ゆえ、街乗りをメインに存分に楽しむ。そんな底抜けの明るさを感じさせるクルマです。

161125_abarth_06
124 スパイダーと595 ツーリズモを乗り比べるモータージャーナリストの竹岡圭氏。

それに対して「124 スパイダー」は、よりスパルタンな方向へと振ったモデル。ベクトルはスポーツカーで、腕に自信のある人が乗りこなす行為を楽しめるクルマに仕上っています。走りのポテンシャルが引き上げられているのはもちろん、ベース車に対して走りの質感も高めている。ここが大きなポイントだと思います。

161125_abarth_07

ヒラリヒラリと走る軽妙なクルマから、上質な重厚感さえ感じさせるクルマへの変化。「124 スパイダー」には“大人のグランツーリスモ”といった趣があり、街中を流していても、エレガントスポーツの風合いが感じられます。

そうした大人の雰囲気は、走りだけでなくスタイリングにも当てはまります。街中のショーウインドウに映る姿を、思わず振り返りたくなる…。そんなちょっぴり気恥ずかしいシーンもサマになるのです。

161125_abarth_08
都心を悠々とクルージングする「124 スパイダー」。

後編に続く

ABARTH 124 spider
ABARTH 124 spider“S”wordスペシャルコンテンツ

文 竹岡圭
写真 荒川正幸