モータージャーナリストに聞く「ABARTH 124 spider」のサーキットインプレッション
軽量化したオープンボディーにパワフルな1.4リッターターボエンジンを組み合わせた「アバルト 124 スパイダー」。その後輪駆動のスポーツカーは、一体どんな走りを見せるのか。ひと足先にサーキットで試乗したモータージャーナリストに、124 スパイダーの印象を聞いてみた。
「街を流して走るような場面でも当たり前のように楽しい」
最初にお話を伺ったのは、モータージャーナリストの石川芳雄さん。クルマを日々の暮らしのパートナーとしてとらえ、実用性や乗り心地などをユーザーサイドに立って詳しく解説したレポートが読者から好評を博している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員も長く務めている。
モータージャーナリストの石川芳雄さん。
「これは楽しいクルマですね。ベースとなったマツダ ロードスターは、軽く作ってそこそこのパワーで軽快に走らせようとするクルマだけど、アバルト 124 スパイダーのエンジンはもっとパワー指向が強くてトルクもしっかり出ているから、当然速いし、コーナーでも積極的にクルマの姿勢を作っていける。自由度が高いです」
「足まわりについては、ベース車は標準の設定では割と柔らかく、ロールも結構深くて、そういう動きを楽しませるような乗り味ですけど、こっちはもっと引き締められていてコーナーでも踏ん張っていくようなセッティングになっています。そのわりに乗り心地も悪くなくてたいしたものだなと。だから今回のようにサーキットだとか、ワインディングロードを元気よく走るのがものすごく楽しいです」
「軽くてコントロールを楽しめるスポーツカーっていうところはベース車と一緒なんだけど、その表現方法が違うといえばいいのかな。エンジンのサウンドひとつ見てもそうですけど、ピリッとサソリの毒が効いている。そういうところがいい刺激になっていますね。だから、普通に街を流して走るようなときでも、当たり前のように楽しい」
「これまで色々なスポーツカーにも乗ってきましたけど、レベルはかなり高いと思います。値段的にもいいところにあるし、オススメできるクルマです。余裕があれば自分でも欲しいぐらいです」
と話してくれた。力強いエンジンと、スポーティでありながら乗り心地も犠牲にしていない懐の深いシャシー。それに刺激的なスパイスの効いた乗り味に、運転の楽しさを見出している様子だった。
「驚くほど扱いやすい。最初から全開で行けちゃう感じ」
もうひとりは、斉藤慎輔さん。自動車メーカーのテストドライバーをされていた経歴を持ち、レーシングドライバーとしても活動されている、“走り”にこだわりを持つジャーナリスト。緻密で辛口の評論に多くのファンがついている。日本カー・オブ・ザ・イヤーの選考委員も務める。
モータージャーナリストの斉藤慎輔さん。
「ロードスターというベースがあって、それをアバルトがどう料理するかっていうところに興味があったんですけど、ちょっと驚かされました。スポーツカーは世界的にどんどんパワーを上げて速さを追い求める方向に進みがちですけど、ロードスターはそこと決別して、ドライビングそのものを心地よく楽しむ方向に進んだと思うんです。124 スパイダーは、その部分はそのまま活かし、パワーと少しスパイスの効いた足まわりを与えて、速さも手に入れている感じですね」
「124 スパイダーの足まわりは、適度にロールしながら踏ん張って、それからリアタイヤがグリップの限界を超えて流れ出すまでの動きが、まるでひとつの線でつながっているみたいで、すごくわかりやすいです。それに、その先のコントロールにも難しさみたいなものはまったくない。驚くほど扱いやすいです。だから探っていかなくても最初から全開で行けちゃう感じ」
「そのシャシーのセッティングと1.4リッターターボエンジンのパワーのバランスが、かなりいいと思います。もっとチューニングを高めることもできるはずなのに、あえて無闇にパワーを追い求めたりはしてない。ターボがついてることに気づかない人もいるんじゃないかと感じるぐらい自然なレスポンスがあって、それがコーナリング中のコントロールのしやすさに結びついている。ターボラグによるもたつきがないんですね。パワーとかトルクの出方も自然で、コーナーの立ち上がりで加速していきたいときに適切に使えるセッティングになっています。すごく扱いやすいし、素直に楽しさを感じられる」
「それと、実は124 スパイダーで白馬から日本海側に出て東京に戻ってくるルートで長距離試乗もしたんですけど、乗り味に突き上げ感みたいなものもなくて快適だし、パワーに余裕があってがんばらなくてもいいし、シートのデキもいいから、ぜんぜん疲れませんでした。走りと日常性のバランスみたいなものもしっかり考えられているクルマです」
「ベース車にはベース車の良さがあるけど、それとはまったく違うクルマに仕上がっていますし、期待以上でした。アバルト、上手く料理したな、と感じました。値段もがんばって抑えてくれているし、パフォーマンスを考えるとだいぶお買い得だと思います」
日々違うクルマを走らせては評価を繰り返すジャーナリストの方々にとっても、124 スパイダーの乗り味は印象に残った模様。パドックでは、仕事を離れてひとりのクルマ好きに戻ったような楽しそうな表情をあちこちで見ることができた。124 スパイダーが素晴らしいスポーツカーであることの証だな、と感じられた取材だった。
ABARTH 124 spider
ABARTH 124 spider “S”wordスペシャルコンテンツ
文 嶋田智之
写真 小林俊樹