犬が日本の医療現場を変える シャイン・オン!キッズの挑戦

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大昔から人々と生活を共にしてきた犬。国内の犬の飼育頭数は約988万頭(*1)と1000万頭に迫り、日本の総世帯数の18.5%、平均すると約5世帯に1世帯が犬を保有している計算になる。多頭飼いもあるから実際にはもう少し比率は低いだろうが、それにしても犬を家族の一員として迎えている人は多い。犬と人の相性の良さがうかがえる。

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シャイン・オン!キッズで活躍するファシリティドッグのヨギ(右)とアニー(左)

認定NPO法人 シャイン・オン・キッズは、小児がんなど重い病気と闘う子どもたちの支援を行なっている団体で、ファシリティドッグと呼ばれる特別なトレーニングをつんだ犬を病院に派遣し、病気の子どもを支援する活動を行なっている。ファシリティドッグは、犬と共に医療現場に立ち会う看護師資格を持つスタッフ“ハンドラー”と一緒に病院に就き、病気の子どもたちを勇気づけたり、遊び相手になったりして子どもたちの前向きな気持ちを引き出している。病院の子どもたちにとって大きな心の支えとなっているという。

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ファシリティドッグ写真展2018の会場となった東京国際フォーラム・ロビーギャラリー。「チャレンジ」のスピリットを掲げるアバルトでは、小児がんや重い病気と闘う子どもたちが勇気と希望を手にできる活動を支援している。

2月14日にシャイン・オン!キッズが開催したファシリティドッグ写真展2018「こども病院で働くしっぽの仲間」の会場に足を運んだ。写真展では、ファシリティドッグが病院で活躍する写真が多数展示され、犬と共に病気と闘った子どものメッセージも飾られた。また、ファシリティドッグを採用している神奈川県立こども医療センター総長の山下純正さんや、ファシリティドッグとともに治療を受け、現在は看護師となった杉本真子さん、MCのレイチェル・チャンさんらをゲストに迎え、NPO法人 シャイン・オン・キッズ理事長のキンバリー・フォーサイスさん、ハンドラーで看護師の森田優子さん、鈴木恵子さんらによるトークショーを実施。それぞれの立場からファシリティドッグと医療について述べた。

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レイチェル・チャンさんがMCとなり、行われたトークショー。様々な方々が医療現場におけるファシリティドッグの働きぶりなどについて語らいあった。

キンバリーさんは小児がん患者家族としての視点でアメリカを視察した際にファシリティドッグに出会い、2008年に日本導入プロジェクトを発足。’10年に初導入し、以後その普及に取り組んでいる。目下の課題として、第一にファシリティドッグの認知向上やその効果を認知してもらうことを挙げた。

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NPO法人 シャイン・オン・キッズの理事長キンバリー・フォーサイスさん。

神奈川県立こども医療センターの山下医師は、ファシリティドッグが病院の医療チームに加わった時を振り返り「はじめは心配だった」と当時の胸の内を明かした。しかし、治療中の子どもが近づいてきて心を通わせる姿を間近に見て、「これは!」と可能性を感じたとのこと。病院にやってきたのは、白いゴールデン・レトリーバーのベイリーと、ハンドラーの森田さん。初めのうちは、病院に犬嫌いの子どもがいたら……という心配もあったが問題が起きることはなく、「子どもたちが次々とベイリーを受け入れていく様子が見られた。ファシリティドッグの導入から5年半が経過した今では、ファシリティドッグの仕事は拡大しているという。

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神奈川県立こども医療センター医師の山下純正さん。杉本真子さん(写真右・一番左)は、静岡県立こども病院に入院中にベイリーが着任した。当時、ファシリティドッグの院内の活動範囲が限られていたため、ベイリーと過ごせる時間を増やして欲しいと院長に直訴。その後、ファシリティドッグのフルタイム化が実現した。

日本において最初のハンドラーとなった森田さん。2010年に静岡県立こども病院で活動を開始し、現在は神奈川県立こども医療センターで、ファシリティドッグを用いた医療現場の最前線でご活躍されている。病院では、動けなかった子どもがベイリーのおかげで動くようになったり、目が見えず採血に怯えていた子がベイリーと一緒であればと泣かずに採血ができるようになったりと、ファシリティドッグのもたらす力、影響力の大きさを肌で感じてきた。「ファシリティドッグが1頭いるだけで病院の雰囲気が変わった」という言葉が印象的だった。

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神奈川県立こども医療センターでアニーとともに勤務されているハンドラーの森田さん。同医療センターでは昨年12月に10歳になったベイリーの引退を見据え、現在は後任犬のアニーと2頭体制で活動している。

国内でふたり目のハンドラーとなった鈴木さんは、犬が好きで産業看護師からシャイン・オン!キッズに転職。ゴールデン・レトリーバーのヨギと共に静岡県立こども病院に勤務している。病院ではやはり、手術室に入るのが怖くて30分かかっていたところが、ヨギと一緒なら勇気が湧いて手術室に向かうことができた子どもや、ヨギがいる時間に手術を希望する子の姿を見てきた。ファシリティドッグの効果を目の当たりにしつつも、ファシリティドッグが病院に一頭しかいないため、数の不足を実感している様子。ヨギを必要とする声が突発的に起こることが多い現状から、「今後は計画的な運営と、それにより効果が上がったというデータを積み上げていくことで、ファシリティドッグの導入の動機付けにしていきたい」と述べた。

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ハンドラーの鈴木さんとヨギ。

ファシリティドッグを取り入れた医療現場では、犬のもたらす大きな効果と子どもたちの反響などから、確かな手応えを得ている模様。病院では犬が病院の多くの子どもたちの勇気を引き出し、前向きな治療を促すという流れができているようだ。キンバリーさんに長期的な目標をお聞きすると、次のように答えてくれた。
「国内にはファシリティドッグを訓練する施設がなく現在はアメリカから導入しています。しかし大切なのは、アメリカから仕組みごと日本に持ち込むのではなく、日本の環境に合ったシステムを構築し、展開していくことです。そしてファシリティドッグへの理解と成果をあげていくことで、将来的にはファシリティドッグを日本全国の病院にまで広めることを目標としています」。

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自身の息子を2歳の誕生日目前に亡くし、団体を立ち上げたキンバリーさん。

かたちのないところに新しい仕組みを作り上げるのは大変に違いないが、病院の子どもたちのためにファシリティドッグの普及を目指し、ひとつひとつ階段を上っていくシャイン・オン!キッズ。キンバリーさんによれば、この春には新たなファシリティドッグが1頭仲間入りするとのこと。彼らの挑戦は続く。

*1 一般社団法人 ペットフード協会調べ 2016年全国犬猫飼育実態調査より

シャイン・オン!キッズ公式ページ

ABARTHのCSV活動『CHALLENGE』

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