幸せを運んでくれるアバルト アバルトライフFile.19 大倉さんと695トリブート・フェラーリ

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F1に憧れ、タイムトライアルの参加経験も

昨年7月、イタリアはガーレンダで開催された“フィアット500インターナショナルミーティング”というチンクエチェントの世界最大のイベントの会場でのこと。出展していたクラシックパーツのお店のテントの下で、古いチンクエチェントのステアリングホイールを手に入れてニコニコしている女性がいました。たずねてみると、“主人のクルマのために年式やタイプや欲しい色を伝えてパーツを用意してもらっておいたんです”というお答え。それが今回ご登場いただく、大倉由美さんです。

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695トリブート・フェラーリオーナーの大倉由美さんと、愛犬のルークくん。

由美さんは愛知県で地元密着型の喫茶店をお母さんと2人で経営なさってますが、お店の前の駐車場には、ときどき500ベースのアバルトの中で最も辛口の1台といわれる、「695トリブート・フェラーリ」が停まっています。しかも日本には5台しか上陸していない、ブル・アブダビ(アブダビ・ブルー)のボディカラーをまとった貴重な1台。それが由美さんの愛車です。

「子供の頃からバイクに憧れていて、18歳のときに免許も取ったぐらいなんですよ。でも父がとても頑固で、乗ることは認めてもらえなかったんです。風の中を走るのが気持ちいいからといったら、じゃあ別に四輪でもいいんだろ? という話になって、オープンカーを勧められたんです。それがクルマ好きになるきっかけでした。日本車のオープンスポーツカーを買ったんですけど、もう気持ちよくて楽しくて。あっちこっち、いろんなところに走っていきました。テレビで欠かさずF1を観てたぐらいモータースポーツが好きだから、自分でも小さなサーキットで開催されたタイムトライアルに参加してたりしたんですよ。そのクルマにはずいぶん長く乗りました」

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世界限定1696台が生産された695トリブート・フェラーリ。4色が設定され、そのうちブル・アブダビは日本に5台のみが正規輸入された。

そして由美さんは、そのクルマがとりもつ縁で知り合った男性と結婚します。旦那さんも超がつくくらいのクルマ好きで、結婚前から同じクルマ2台でツーリングをしたりするなど楽しんでいましたが、あるとき“同じクルマを2台持っていても仕方ないよね”ということになり、それがきっかけで由美さんはフィアット・バルケッタに乗り換えます。それがイタリア車との出逢い。ほどなくしてご主人も実用車としてフィアット・ムルティプラに乗り換え、その後も“主人、ムルティプラのワイパーブレードを買いにディーラーに行って、代わりにパンダ100 HPを買って来ちゃったんです(笑)」という感じで夫婦揃って楽しくイタ車遍歴を重ね、現在は、1967年式フィアット500とトリブート・フェラーリの2台体制。趣味が似ているからこそ可能なことですが、端から見たら羨ましい限りでしょう。

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由美さんが旦那さまと所有されている1967年式フィアット500とアバルト・トリブート・フェラーリの2台。

オーストラリアGPでのアバルトとの出会い

由美さん自身は2台続けてオープンカーのマニュアルトランスミッション。今も基本はそれが好きなのだそうです。ところが695トリブート・フェラーリは、クローズドルーフの2ペダル。なのに、なぜ乗り換える決心をしたのでしょう?

「2008年の3月にF1の開幕戦を観るためメルボルンに行ったんです。そのサポートレースでチンクエチェントのワンメイクレースが行われていました。そこで初めてチンクエチェントをナマで見て、すごく気になりはじめたんですよ。こんなにカワイイのにこんなに速いんだ! って。私はもともと、ちっちゃくてキビキビ動いてくれるクルマが好きなんですよ。実はそれがアバルトだった、っていうことは後になって知りました。その頃はチンクエチェントとアバルトの区別がついてなかったんですね(笑)。それで日本に帰ってきてからディーラーを訪ねたんですけど、マニュアルの設定がないということがわかって、購入を見送ったんです。バルケッタも気に入ってるから、いいか、って。でも、その後もずっと気になってはいたんです。日本にもアバルトが導入されて、マニュアルの設定があることを知ってからはなおさらでした」

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そして転機は2010年に訪れて、事態は一気に動きます。

「イタリアグランプリで当時フェラーリに在籍していたフェルナンド・アロンソが優勝して、ご褒美にアバルト695トリブート・フェラーリをもらったことを知ったんです。運命的なものを感じてディーラーに直行しちゃいました(笑)。実は私、アロンソの大ファンなんです。アロンソと同じクルマに乗れるチャンスだから、これは何として買わなくちゃ(笑)という気持ちと、メルボルンで見た小さくてかわいいのにものすごく速かったあのシーンが頭の中でひとかたまりになって、まだ日本に入ってくるかどうかも値段もわからなかったのに、その日のうちに“もし入ることが決まったらブルーを押さえください”ってお願いしてきちゃったんです。ブルーを選んだのは、もともと好きな色だったし、アロンソも青が好きだから(笑)。世界で99台、日本への割り当ては5台、でしょう? 私は本当に運が良かったと思います。納車もちょうどクリスマスの日で、いいクリスマスプレゼントになりました(笑)」

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由美さんは大のアロンソファン。所有するアバルトアクセサリーには直筆サインも!

──F1とアロンソがとりもつ(?)縁で、晴れて由美さんの元にやってきた695トリブート・フェラーリ。実際に走らせてみて、どんな印象を感じたのでしょう?

「思ってた以上に速かったです(笑)。グイグイ加速していっちゃう。もともと大きいクルマが好きじゃないので、サイズが小さくて、山道とかをクイックに走ってくれるところも気に入りました。乗り心地が悪いっていわれてますけど、私はちっとも悪いとは思わないですよ。前に乗ってたオープンカーも足まわりとか少し変えていましたし、私好みな乗り心地です。とってもフィーリングがあってる気がします。きっとクルマって、そこが一番大切なんだろうな、って思いますね」

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由美さんにとって、クルマそのものもさることながら、アバルトを所有することで広がった交流も大切な宝物となっているようです。

7年経っても愛情は深まるばかり

──強いていうなら、どこが一番のお気に入りなんでしょう?

「見た目もそうだし色もそうだし走りもそうだし、もう7年乗り続けているけど、今も全部好きです。それに友達が増えるのもうれしいですね。アバルトやフィアットが好きな人達とイベントとかで知り合って、男女の違いも年齢の差も関係なく、不思議と当たり前に友達になれちゃうんです。話のきっかけになってくれるクルマだから、そこから広がっていくんですね。そういう友達と一緒に走ったり何かをしたりするのは本当に楽しいです。クルマの世界では誰もが知っているような方が“コーヒー飲みに来たよ”って、お店に遊びにきてくださったり。アバルトの女性オーナーだけでチーム・アバルトっていうのを作って、一緒にご飯を食べにいったりバーベキューしたり。このクルマに乗るようになってから、すごくたくさん友達が増えました。それにこのクルマに乗ってなかったら、チンクエチェント博物館主催のイタリアツアーに行くこともなかったと思いますし、普通はアバルトの本社なんて行けるチャンスはないはずなのに、そのツアーで3回も訪ねることができちゃいました。出会いとチャンスをたくさん作ってくれるクルマなんですよね」

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チンクエチェント博物館主催のイタリアツアーに参加された由美さん。現地ではアバルト本社やモンツァサーキットを訪れました。

──7年間ずっと乗り続けていて、飽きたりすることはないのでしょうか?

「ないですね。去年のクリスマスに3回目の車検を受けたんですけど、それは自分で陸運局に持ち込みました。メンテナンスまでは自分ではできないけど、やれることは自分で全部やりたいぐらいかわいいんです。だから手放す気も全然なくて、最近になってうちに来た古いチンクエチェントみたいに長生きしてもらって、ずっとずっと長く乗りたいです。これっていつの時代のクルマだろうね、っていわれるぐらい乗り続けたいです。買ったばかりの頃よりも2年後3年後のほうがさらに好きになってたし、今はもっと好きになってます。これから、もっともっと好きになると思います」

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695トリブート・フェラーリにはさまざまなアクセサリーが付随していました。アバルトのロゴ入り旅行バッグもそのひとつ。専用の緊急用グッズやポーチも大切に保存されています。

──ということは、もうクルマを買い替えたりする気はなくて、一生を添い遂げるつもり、ということなのでしょうね。

「そうですね。買い換えたりはしません。でも、増やします(笑)。実はオープンカーのマニュアルミッションだということもあって、ずっと前からアバルト124スパイダーが欲しいんですよ。デビューしたときには“私のために作ってくれたの?”って(笑)。で、夫婦2人で一生懸命貯金してきたんですけど、それがある日突然、クラシック・チンクエチェントに変わっちゃいました。古いクルマは出会い、ですもんね。でも、124は私のためのクルマだから(笑)、全然諦めてなんかいないですよ」

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695トリブート・フェラーリのエンブレム。イタリアを代表するフェラーリとアバルト、ダブルブランドによるコラボレーションは大いに話題を呼び、コレクターからも熱い視線を集めています。

──最後に、ご自身のアバルトを、ひと言で表してみていただきましょう。

「幸せを運んでくれるアバルト、という感じかな。いろいろな意味で人生とっても豊かになりました。アバルトを買って本当によかった、って心から思ってますよ」

文 嶋田智之
写真 小林俊樹

アバルト公式サイトhttps://www.abarth.jp/