1957 FIAT 500 ELABORAZIONE ABARTH RECORD|アバルトの歴史を刻んだモデル No.042

FCA Heritage ad Automotoretrò 2019

1957 FIAT 500 ELABORAZIONE ABARTH RECORD
フィアット500 エラボラツィオーネ アバルト レコルド

サクセスストーリーへ向かう最初の一歩

1957年にデビューしたフィアット ヌオーヴァ500(チンクエチェント)は、ご存じ、イタリアを代表する国民車として親しまれ、今なお日本でも熱烈なファンに支持されている。このヌオーヴァ500は、それまでのフロントエンジン・レイアウトだった「トポリーノ」の愛称を持つ500Cがフィアット600(セイチェント)へと進化したのを受け、その下のベーシックレンジを担うモデルとして開発されたものだった。600譲りのスペース効率に優れたモノコックボディをベースとしたリヤエンジン・レイアウトを採用し、13HPを発生するOHV空冷2気筒479ccユニットを搭載した。

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1957年に誕生したフィアット ヌオーヴァ500。

こうした背景から生まれたモデルであったため、デビュー時のヌオーヴァ500は、それまでの水冷4気筒エンジンを積むトポリーノに比べるとパワーが少なく、空冷2気筒だったことからノイズの点でも不利となり、販売が盛り上がるまでに時間を要した。カルロ・アバルトもヌオーヴァ500の弱点を認識しており、これを量産モデルのチューニングで足場を固める絶好のチャンスと捉え、ヌオーヴァ500を活発に走らせられるようにするためのチューニングキットの開発に取り掛かるのだった。

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非力だが素性の良さを見抜いたカルロ・アバルトは、すぐさまヌオーヴァ500のチューニングキットの開発に取り掛かった。こうして完成したのがフィアット500 エラボラツィオーネ アバルトだった。

アバルトは479ccの排気量はそのままに、圧縮比をノーマルの6.55:1から8.7:1まで高め、ウェーバー26IMBキャブレターを組み込み、看板商品の専用マルミッタ・アバルト(エキゾーストシステム)を組み合わせることにより21HPを達成、最高出力の発揮回転数も4000rpmから5000rpmに高めた。これにより最高速度は85km/hから95km/hへと向上し、ドライバビリティも大きく向上した。また当時のアバルト社の通例に従い、最高出力23HPを発生する高性能版も用意された。

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ボディサイドには「FIAT 500 ABARTH」と書かれたレタリングが与えられた。

アバルトのヌオーヴァ500用チューニングキットは、クルマ好きの間で好評を持って迎えられた。またこの成功を見てフィアットも1959年モデルでヌオーヴァ500のパワーアップ版を用意し、以来人気は急上昇。イタリアのベストセラーカーにまでのし上がり、生産を終える1975年までに総生産台数は367万8000台を記録した。

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カルロ・アバルトは500 エラボラツィオーネ アバルトの高性能ぶりをアピールするため、1958年2月13日よりモンツァで速度記録に挑戦、見事記録を打ち立てた。

アバルトはヌオーヴァ500用チューニングキットの製作だけに留まらず、得意のプロモーション戦略の一環として、いつもの舞台であるアウトドローモ・モンツァのオーバルコースで速度記録への挑戦に乗り出した。それまでのチューニングキットに手を加えてさらなるパワーを追求し、圧縮比を10.5:1まで高めた半球形燃焼室を持つシリンダーヘッドを備え、マニフォールド内の流気を効率よく流すために形状の最適化と段差の平滑化により、ノーマルのヌオーヴァ500の2倍となる26HPまで高めることに成功。トップスピードは118km/hをマークするに至った。このモデルは「フィアット500 エラボラツィオーネ アバルト レコルド」と名付けられ、フロントの中央には小さなグリルが取り付けられ、その中のサソリのエンブレムが誇らしげ存在を主張した。このほかドアには「fiat ABARTH 500」、エンジンフードには「fiat ABARTH 500」のレターマークが追加され、ただのヌオーヴァ500でないことを主張していた。

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フロントエンドには750GTザガートと同様のグリルが取り付けられ、その中央に「サソリ」のエンブレムが燦然と輝く(左)。エンジンフードには「fiat ABARTH500」のロゴが取り付けられた(右)。

この500 エラボラツィオーネ アバルト レコルドを携えてモンツァに姿を現したのは1958年2月13日のことだった。ドライバーは、レモ・カッティーニ、アルマンド・ジュベッティ、コッラード・マンフレディーニ、マリオ・ポルトロニエーリ、そしてカロッツェリア・ザガートの2代目でありレーシングドライバーでもあったエリオ・ザガートらの精鋭たちに委ねた。市販車と大差のない姿のヌオーヴァ500は、スタートから7日間を昼夜走り抜き、総走行距離は18146.44kmを記録。平均速度は108.252km/hを達成し、全部で6つの世界記録を打ち立てたのである。

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速度記録の挑戦は7日間にわたり昼夜を通して行われるため、夜間走行に備えてフロントには補助灯が追加された。

こうしてモンツァでの速度記録挑戦は、ヌオーヴァ500のポテンシャルと、アバルトの技術力の高さをイタリアのみならず世界に知らしめたのである。カルロ・アバルトは次なるステップとしてさらなる高性能版の開発に取り掛る。こうして500 エラボラツィオーネ アバルト レコルドは、このあとの595/695などへと続く、サクセスストーリーに向けた最初の一歩となったのである。

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驚異的な記録を打ち立てた500 エラボラツィオーネ アバルト レコルドは、翌月にフィアットのショールームに展示され、その偉業をヨーロッパ中に発信した。

ここでご覧いただいている個体の500 エラボラツィオーネ アバルト レコルドは、FCAヘリテージ部門によりレストアされたもので、近年ヨーロッパ各地のヒストリックカーイベントでその姿を見せている。

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1957 FIAT 500 ELABORAZIONE ABARTH RECORD

全長:2970mm
全幅:1320mm
全高:1300mm
ホイールベース:1840mm
車両重量:470kg
エンジン形式:空冷2気筒OHV
総排気量:479cc
最高出力:26HP/5000rpm
変速機:4段マニュアル
タイヤ:125R12
最高速度:118km/h