アバルトで走りたいワインディングロード【鋸山登山自動車道編】

夏本番。エアコンなしではキビしいこの季節にオススメしたいドライブコースは、海が望める、清涼感あふれるロケーション。紹介するのは、千葉県鋸南町の鋸山登山自動車道だ。

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“小さな高級車”

卓越した走行性能を獲得するために、情熱とクラフツマンシップを注ぎ込んでつくられるのがアバルト。その能力を引き出し、“アバルト マジック”を存分に味わうために、房総半島の鋸山登山自動車道を目指す。今回は首都高速湾岸線、東京湾アクアライン、館山自動車道、富津館山道路を経由してアプローチした。

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新しいアバルト 595コンペティツィオーネの1.4リッター直列4気筒ターボエンジンの最高出力は、従来型の160psから180psへと引き上げられた。「SPORT」モードのスイッチを押すと、過給圧計に「SPORT」の文字が灯り、エンジンの手応えはより野性味を帯びる。

アバルト 595コンペティツィオーネの特徴は、軽量コンパクトなボディに最高出力180psの高性能エンジンを搭載する点にある。こうしたホットハッチと呼ばれるモデルが本領を発揮するのは曲がりくねったワインディングロードで、アバルト 595コンペティツィオーネもその例に漏れない。ただし、高速道路では別の一面も見せた。

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東京湾アクアラインのトンネルの中では、エキゾーストシステム「Record Monza」の排気音が反響して気分が盛り上がる。

速度を上げるにつれてしなやかさを増し、フラットな姿勢を保つサスペンション。アクセルペダルを踏み込めば快音を発するものの、一定のスロットル開度では粛々と回るエンジン。掛け心地にすぐれたシート。こうした要素があいまって、快適な高速クルージングが味わえるのだ。しかも安楽なだけでなく、ハンドル操作に対する反応はクイックで正確だから、レーンチェンジだけでも楽しい。

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考えてみれば、1927年から30年間にわたって開催され、アバルトも参加したイタリア伝説のレース、ミッレ ミリアとは「1000マイル」の意味。つまり1600kmを駆け抜けるグランドツーリングだった。ワインディングロードをすばしっこく走るだけでなく、グランドツアラー的な資質も求められたのだ。現代のアバルトがグランドツーリズモ的な乗り方でも楽しめるのは、そうした歴史を踏まえているからだろう。高速道路でそれなりの距離を走ると、小さな高性能車であると同時に、小さな高級車という側面も持っていることがわかる。

クルマとの対話が楽しめる

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富津館山道路の鋸南保田インターチェンジの手前で、鋸山が見えてくる。採石によって稜線が鋸の歯のようにギザギザになったことが鋸山という名称の由来だというが、言われてみれば確かに鋸のように見える。インターを降りて海沿いの国道127号を走れば、すぐに鋸山登山自動車道に到着。料金所で1000円を支払い、アクセルペダルを踏み込む。

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スタート地点にいきなり立ちはだかる急勾配の登り坂、ここでアクセルペダルを踏み込むと、抜けのいい排気音が耳に届く。

全長約2.5kmのこの道は、ハイスピードを楽しむための道ではない。道幅はそれほど広くなく、その割には急勾配のアップダウンやテクニカルなコーナーが続く。こうした難所をひとつひとつ丁寧にクリアしながら、クルマと対話するのに適した道なのだ。

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途中、路面のコンディションが悪いところを強行突破しても、ボディの揺れは一発で収束する。KONI製のショックアブソーバーが、いい仕事をしているのが伝わってくる。海に向かって落ちて行くかに感じる下り坂でもブレーキシステム安定した制動力を発揮するのは、フロントに奢られたブレンボ製の4ポッドキャリパーのおかげだろう。

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足元でその存在感を主張する、17インチのアロイホイール。隙間から、ブレンボの4ポッドキャリパーが顔を覗かせる。

ひとつのコーナーを丁寧にクリアすると、このクルマが細部までこだわってつくり込まれていることが伝わってくる。たとえば、かなりの横Gがかかっても、ドライバーの体は安定している。その理由のひとつが、Sabelt製スポーツシートの形状が優れていることがあげられる。そしてそれだけでなく、レザーシートの座面と背もたれの一部に貼られたアルカンターラが、滑り止めの役割を果たしているのだ。

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秀逸な形状とレザーとアルカンターラの組み合わせで、ハードコーナリング時にもしっかり体をサポートするSabelt製スポーツシート。5MT仕様は左右のハンドル位置から選ぶことができ、5ATは右ハンドルのみとなる。

ダッシュパネルの「SPORT」モードをON/OFFすることで、エンジン特性の変化を確認するのも楽しい。「SPORT」モードをONにすると、アクセル操作に対するレスポンスが一段と鋭くなり、排気音も高まる。同時に、最大トルクも増すから加速が力強くなる。このように細かい部分までクルマと対話ができるこの道を走ると、アバルトがいかに手間暇をかけてつくられているのかがわかる。

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五感で楽しむドライブコース

鋸山登山自動車道がアバルトに似合うと思う理由のひとつに、ガードレールのない区間が多いこともある。ヨーロッパのワインディングロードを思い起こさせるのだ。

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もうひとつ、高い位置から見下ろす海の青さも、この道の魅力。手のひらでコーナリングを楽しみ、足の操作でブレーキやエンジンの能力を引き出し、耳で排気音を堪能する。そして目は、眼下の紺碧の海を愛でる。まさに、五感で楽しむドライブコースだ。

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アバルトの走りを堪能した後は、少し寄り道をして帰るのもいい。漁師料理で有名な「ばんや」は、漁港に水揚げされたばかりの新鮮な魚を供する。「the FISH」という商業施設では、水産品の土産物や、回転寿司などの食事処で人気を博している。

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ドライブルートとしては、金谷から三浦半島の久里浜まで約40分のフェリー旅という応用技もある。けれども鋸山でアバルトを楽しんでしまうと、このままハンドルを握り続け、陸路で帰りたくなるはずだ。

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Photo:Masayuki Arakawa
Text:Takeshi Sato