「1日のメリハリを効かせてくれる大切なスイッチ」 アバルトライフFile.35 兼信さんと595 Competizione

若かりし頃に夢中になったあの感覚を

待ち合わせの駐車場へ穏やかに滑り込んで来たブルーのアバルトは、4人フル乗車。ドライバーズシートには旦那さんの兼信 皇(かねのぶ ただし)さん、助手席には奥さまの彩さん、後席には咲彩(さや)ちゃんと美彩(みや)ちゃんのご姉妹。アバルトカレンダー2021の4月号にご登場いただいたファミリーです。


兼信さんファミリーの愛車は595 Competizione。通常は設定のないブルーのボディカラーや内装の組み合わせを自由に選べるMake Your Scorpionで自分好みに仕上げた1台です。

兼信さんの愛車は、595シリーズで最もハードコアな595 Competizione。家族で乗るなら、足回りがマイルドなベースの595や595 Turismoの方が向いてるのに……と、思わず余計なことを考えちゃいました。

「そうですね。だから最初は妻と子ども達にクッションや腰のサポートを用意したんですけどこのシート、特有のホールド感があるので、妻は早々に“ない方がいいね”といってくれて。もう1台、10年乗り続けている国産のSUVを同じ市内の実家に置いてあるんですけど、どうしても広いスペースが必要なとき以外はほぼ置きっぱなしなんです。そっちの方が快適だし便利なのに。妻も子ども達も、アバルトのことを気に入ってくれているみたいなんです。それがまた嬉しいですね」


お嬢さんたちもアバルトが大のお気に入り。

そのお言葉からも察せられるとおり、よき旦那さんであり、よきお父さんでもある兼信さん。アバルト、それもMTのモデルを愛車にしてるくらいですから、クルマ好きであることはわかります。ご多分に漏れず若い頃からずっとクルマが好きで、大学生の頃から結婚する直前まで、MTの国産スポーツモデルを乗り継いできたそうです。

「大学時代は、下宿をしない代わりにクルマで通学することになって、毎日往復70km。六甲山がすぐなので、ワインディングロードもよく走ってました。ドライブするには最適のエリアなんですよね。結婚を機に落ち着いたクルマにしようとSUVのAT車に乗り換えて、今もいいクルマだと感じてはいるんですけど、やっぱりこの10年間、MTの楽しさが忘れられなくて……。MT車がどんどん少なくなっていくなか、アバルトにはMTがあることを知って、それからずっと“いいな”って思ってたんです」


芦屋と有馬を結ぶ芦有ドライブウェイをドライブ。この道はご家族で星を見に行くときに通ることもあるようです。

奥さまに勧められた運命の試乗

そして2020年の6月に、595 Competizioneが兼信ファミリーのところにやってくることになりました。Blu Podioのボディカラーは、2019年のMake Your Scorpionの設定色。それにレッドのブレーキキャリパーとホイールセンターキャップをチョイスし、さらに「好きな色を運転中にも感じたいから」とダッシュパネルをボディと同色にペイントしてもらった、兼信さんのお気に入りの仕様です。しかも、購入に至る最初のきっかけとなったのは、奥さまの“試乗してきたら?”というひと言だったようです。


運転中にも好きな色を感じられるようにとダッシュボードもBlu Podioで統一した兼信さんのスペシャルな595 Competizione。

兼信さんのお仕事は、実は人の人生を大きく左右させることもある職業。そのなかでかなりシビアな状況に直面し続け、けれどなかなか出口が見つけられず、ちょうどその時期は精神面で相当に疲弊していたそうです。

「恥ずかしながら、だいぶしんどかったです。気持ちも沈みがちというか、ほとんどずっと沈んだままでしたね。でもアバルトを走らせたら、楽しくて気分が一気に上向きになったんです。加速は文句なしに速くて気持ちよかったし、独特のサウンドやキビキビと動く感じにも惹かれました。若い頃の自分と気持ちが重なったようなところもあって、ものすごく元気が湧いてきた気がしたんです。最初はベースモデルに乗って“これで十分だ”と思ったんですけど、念のために595 Competizioneに試乗してみたら、それはもう……(笑)。ショールームから歩いて帰るときには、これだ! と思ってました。アバルトしかない、と。そこから妻への長きに渡るプレゼンがはじまりました(笑)。妻は欲のない人で、僕の方が普段から我慢できないタイプ。 だから、なぜ欲しいのか、なぜ自分に必要なのか、ちゃんと伝えないといけない、と思ったんです。今から思うとかなり無理のあるプレゼンでしたけど……」

その頃のことを、彩さんはこんなふうに振り返っておられました。

「仕事が本当に大変そうで元気のないときもあって、彼はクルマに乗るのが昔から好きだったから、いい気分転換になるかな、と思っただけだったんです。“欲しい”となるところまでは想像していなかったですけど、彼自身ががんばって稼いでいるんだからいいんじゃないかなって、最初から反対する気持ちはありませんでした。家計のことは彼に任せているので(笑)、影響がないならいいんじゃない? っていう感じで。運転が彼にとっての気分転換なので、それで気晴らしになるなら私達家族にとっても、すごくいいこと。もともと家で不機嫌な顔を見せるような人ではなかったけど、アバルトが来てからは機嫌よさそうにしてることが増えましたね。楽しんでる姿を見ると、私も“ああ、よかったな”って感じます」


旦那さまが大変そうな時に、気分転換にアバルトの試乗を勧められた彩さん。

家族に大切な1台

なるほど、彩さんがおおらかな性格であったことが大きかったのは、想像に難くありません。

「そうですね。ただただ感謝です。アバルトが納車になって初めて乗ったときの気分は、最高でした。納車からの1ヵ月ぐらいは、ナラシ運転のために夜な夜な六甲の道をひとりで走っていました。うちは僕以外は9時ぐらいに寝てしまうので、ひとりで走るしかなかったっていうのもありましたけど、そのナラシの時間はとっても楽しかったです。かわいいのに中身がすごい。それまで毎日乗っていた車体の大きなSUVと違って、六甲の狭い車線の中でクルマの動きが作れるところにも感動しました。若い頃の自分に戻ってしまうというか、童心に帰れるっていうか。乗りはじめてからそろそろ1年になるわけですけど、そういう感動はまったく薄れてないですね。一番しんどかったときに支えてくれた妻もそうだし、姿を見た瞬間に元気にさせてくれる子どももそうだし、乗った瞬間に幸せな気持ちにさせてくれるという点では、アバルトも一緒。家族のような存在です」


Make Your Scorpionは受注生産となるため通常よりも納期は長め。その待ちの期間にアバルトグッズを少しずつ集めたという兼信さんのアバルトにはサソリグッズがたくさん。

ところで、アバルトが兼信さんに元気をもたらしてることはわかった気がしますが、仕事の方の困難な状況もクリアになったのでしょうか。家族とアバルトに支えられて乗り越えられた、とか……。

「アバルトがストレスを軽くしてくれているのは確かです。でも、今もしんどいなと思うときはありますよ。あの頃から仕事の環境に変化があって、僕の仕事における役割にも変化があって、また別の困難と直面することがあるんです。僕は曲がったことが嫌いな性格だから、若い頃から上司ともぶつかってきました。今は逆で、若い人達がぶつかってきたら、それをしっかりと受け止めなければいけない。僕達の職業は、若い頃から自分というものを持ってる人が多いんです。だから立場の違う人間が上からモノをいっても、耳を貸してもらえないことが多い。彼らの誇りを傷つけないようにするべきだし、それでも学んで欲しいことというのはある。だから言葉だけで物事を伝えるのではなくて、お手本とまではいかなくても、自分を見て何かを感じてもらって、考えてもらえるような人間でいないといけない、と思うんです。周りに変わってもらうためには自分自身が変わらないといけない。僕は自分自身を磨いて、背中を見てもらえるような人間になりたい。だから視野を広げよう。違う角度から自分の仕事を見つめてみよう。他業種の方の考え方から学ばせてもらおう。何だか生真面目なところがあって思い詰めちゃうこともあるんですけど、負けたくはないんですよ。それが困難というか、今の自分自身の挑戦です。でも、家族とアバルトが支えてくれていますから」


家族とアバルトの存在が支えとなり、辛い時も前向きな気持ちになれると話してくださった兼信さん。MTを操る感覚、自分好みに仕上げたカラーリング、ご家族との時間。アバルトはあらゆる思い入れや思い出が詰まった存在になっているようです。

ということは、兼信さんにとってのアバルトを言葉にすると、どんな感じになりますか?

「“スイッチ”、ですね。しんどいなと感じているときでも、エンジンをかけたときに“今日も頑張らなくちゃな”という気持ちが湧いてきます。帰るときには“今日も1日頑張った”というふうに自分を解放してくれる。僕のなかで色々な意味でメリハリを効かせてくれる、大切なスイッチです。1日のバランスを取るのに、アバルトの存在はとっても大きいんですよ」

最後に、咲彩ちゃんと美彩ちゃんに“お父さんのクルマをどう思うか訊ねてみました。すると同時にこう返してくれました。

「好きー!」


天使のようなお嬢さんたちにとっても、アバルトは大切なものとなっているようです。

その理由を訊ねてみると、咲彩ちゃんは「音でお父さんのクルマが帰ってきたのがわかるから」、美彩ちゃんは「美彩はサソリ座で一緒だから」と、めちゃめちゃかわいらしい回答が! そして咲彩ちゃんの次の言葉を聞いて、思わずホロリとしそうになりました。

「あと、お父さんがいつもニコニコしてるから!」

兼信さんのブルーのアバルトには、その小さなボディの中に幸せのタネが詰まっているのかもしれません。

文 嶋田智之

撮影協力:芦有ドライブウェイ