1963 SIMCA ABARTH 1150|アバルトの歴史を刻んだモデル No.021

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1963 SIMCA ABARTH 1150
シムカ・アバルト1150

イタリアンとフレンチの融合

アバルトと聞くと“フィアットをベースとした高性能モデルを手掛けるメーカー”というイメージが強いが、じつは過去にはフィアット以外のメーカーとも協業していた。たとえば、以前紹介した顧客のリクエストに応えて製作したフェラーリや、試作車として製作されたアルファ ロメオ、ポルシェ356のレーシングバージョンであるカレラGTLなども送り出している。

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シムカ・アバルト1150は、近代的なデザインと4ドアの実用性の高さ、そしてクラス上のライバルを上回る俊足ぶりから高い人気を誇った。

フィアット以外とのジョイントで最も成功を収めたのがフランスのシムカ社だった。同社はイタリア人のテオドール・ビゴッツィが1935年にフランスのパリ北西に位置するナンテールに設立した自動車メーカーである。フィアットのライセンスを得て「508バリッラ」や「500トッポリーノ」をフランス国内で組み立て、シムカ・ブランドで販売することでメーカーとしての地位を高めていった。

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アバルトのセンスの良さを感じさせるのが、右リアフェンダーに取り付けられたモデル名を表すバッジ。左側には付かない。

シムカ社は、第2次大戦後には独自開発したモデルで人気を博し、フランス第4のメーカーの座を確立する。その勢いから、新時代の小型車となる「シムカ1000」の開発に取り掛かる。それまではフロントエンジンで後輪をドライブするFRレイアウトを採用してきたシムカだったが、シムカ1000ではスペース効率の高いリアエンジン・レイアウトを採用した。

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エンジンフードのオープナーボタン下には、アバルトであることを主張するネームプレートが備わる。

シムカ1000は、1961年のパリサロンでデビューを果たし、以来同社の主力モデルとして好調なセールスを続けた。そこでシムカ社のボスのビゴッツィ氏は、かつてアバルトがフィアットをベースとした高性能モデルでレースを席巻し、フィアットのブランドイメージを高めていたことに着目した。そして、シムカのブランドイメージを高めるプロモーションの一環としてアバルトにジョイントを申し出たのだった。ビゴッツィ氏はニューモデルのシムカ1000をベースに、それまでの同社の質実剛健なイメージを変える高性能なスポーツモデルを望んだ。

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バンパー下に生えるデュアルのマルミッタ・アバルトがただ者でないことをアピールする。

シムカ社の依頼を受けたアバルトは、フィアットベースのスポーツモデルを手がけた時のように、シムカ1000のシャシーやサスペンション、ステアリング、ギアボックスなどのコンポーネンツを生かしつつ、独自のチューニングを施した「アバルト・シムカ1300」を1962年に送り出した。アバルト流に軽量化を考慮したアルミ製ボディにアバルト製のDOHCユニットを搭載したアバルト・シムカ1300は、レースにも挑み、“世界最高の1300ccGT”との評価をほしいままにした。そしてシムカの名前をモータースポーツ界に知らしめることに成功した。その後2000cc版も追加され、レースで華々しい活躍を遂げたのだった。なおアバルト・シムカ1300については、本連載で以前に紹介しているので、あわせてご覧いただきたい。

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1150Sより上のモデルはフロントにラジエターが配置され、ラジエターグリルに「SIMCA ABARTH 1150」のネームプレートが備わる。

1963年になるとアバルトはシムカ1000をベースとする第2弾として、さらなる高性能化を果たした「シムカ・アバルト1150」を送り出す。ボディはシムカ1000をそのまま流用したが、フロントに「SIMCA ABARTH 1150」のネームパネルが取り付けられ、「S」より上のモデルではフロントにラジエターを備え、そこに空気を送り込むグリルが備え付けられた。このほか1000TCと同様に楕円の通風孔を設けたホイールが組み込まれた。なおベース車のシムカ1000は4輪ともドラムブレーキだったが、アバルト版の1150と1150Sではフロントをディスクブレーキに変更し、さらに1150SS以上のモデルではパフォーマンスに合わせて後輪にもディスクブレーキを採用した。

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1150SSのエンジンは、シムカ1000のものをベースに排気量を944ccから1137ccに拡大し、アバルトマジックにより65hpを発生した。

エンジンはシムカ1000の944ccユニットを1137ccに排気量アップするとともに、1150が55hp、1150Sでは58 hp、さらに1150SSは65 hpという具合にチューニングの異なるエンジンを用意した。レース用の1150SSコルサになると85hpをしぼり出し、オプションで6速のトランスミッションを組み込むことができた。吸排気系には、アバルトの名が鋳込まれたアルミ製のインテークマニフォールドや見るからに排気効率の良さそうなエキゾーストマニフォールドが組み込まれた。最高速度はエンジンチューニングに応じて150km/h、155km/h、160km/hを達成し、最速仕様のコルサでは170km/hを記録するなど、2クラス上のモデルを上回る俊足を誇った。

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メーターナセルはアバルトにより新調され、イエガー製の速度計および回転計と4つのゲージが配された。

車内に目を移すと、シムカ1000ではダッシュボードに最低限のメーターだけが備わる素っ気ないものだったが、アバルト流のモディファイが施されたアバルト・シムカ1150シリーズでは、GTカーを彷彿とさせるデザインに変えられていた。ちなみにメーターナセル内にはイエガー製の速度計と回転計を中心に、左に水温と燃料、右に油温と油圧計と、スポーツモデルに欠かせないゲージ類が見やすく配置されている。ステアリングホイールは850/1000TCと同型となるアバルトデザインの3スポークタイプが採用された。

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シムカ・アバルト1150のカタログ。3つ折のシンプルな構成で、4グレードをまとめて紹介していた。

シムカ・アバルト1150は、850/1000TCより一回り大きな4ドアベルリーナであり、その高性能ぶりから幅広い人気を集めた。しかし、シムカ社とのコラボレーションは思わぬ伏兵により短命に終わってしまうことになる。アバルト社とシムカ社の契約は1964年末までで、当初の計画ではさらに延長される予定だったが、更新されることはなかった。じつはシムカ社はアバルトとの契約後にアメリカのクライスラー傘下の企業となっていたのである。クライスラーはシムカ社にモータースポーツよりもアメリカ的なプロモーションを展開することを求めたのである。これによりアバルト社とシムカ社のコラボレーションは終焉を迎え、シムカをベースにしたアバルトモデルはラインナップから姿を消すこととなった。

1963 SIMCA ABARTH 1150 SS

全長:3797mm
全幅:1485mm
全高:1330mm
ホイールベース:2200mm
車両重量:720kg
エンジン形式:水冷直列4気筒OHV
総排気量:1136.747cc
最高出力:65hp/5600rpm
変速機:4段マニュアル
タイヤ:145×13
最高速度:160km/h