【ABARTH CLASSICHE】アバルトの歴史を刻んだモデル No.015

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1970 FIAT ABARTH 1000 Berlina Corsa Group2
フィアット・アバルト1000ベルリーナ・コルサ・グループ2

究極のツーリング・レーシングカー

ABA_201702_002エグゾーストパイプは排気効率を高めるために、のちにエンジンルームから出す方式に改良された。末期のエンジンフードはFRP製(奥の車両)が使用されている。

アバルトの伝説を作り上げてきたレーシング・マシンは、2シーターのGT/スポーツカーと、量産車をベースとしたツーリングカーに分けられる。そのツーリングカー・レースを闘うマシンの代表格が、何の変哲もないフィアット600をベースとしたベルリーナ・コルサで、その中でも象徴的な究極の存在がフィアット・アバルト1000TCRこと1000ベルリーナ・コルサ・グループ2なのである。

アバルトがフィアット600をベースに制作したモデルは、本シリーズの第13回で紹介した1956年に送り出された750デリヴァツィオーネに始まる。1961年になると当時のクラス分けにあわせて排気量を850ccにまで拡大して、各部のチューニングをより高めて52hpを発揮し、足回りを固めると共にディスクブレーキ備える850TCを送り出す。翌1962年には1000ccクラス用に982ccまでスケールアップさせ60hpを誇る1000TCも加わる。もちろんレース用にチューニングをより突き詰めたコルサ仕様も用意され、最高出力は850TCコルサで68hp、1000 TCコルサでは85hpを発揮し、ツーリングカー・レースを席巻し続けた。

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1970年用フィアット・アバルト1000ベルリーナ・コルサ・グループ2のオフィシャル・フォト。

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エンジンフードはクーリングを助けるために水平まで開いた状態で固定されるのが正式な姿。

こうしてイタリアを始めヨーロッパのツーリングカーを圧倒的な強さで制したアバルトだが、完璧なマシンを目指すカルロ・アバルトだけに常に改良が加えられていた。ちなみに主な変更点を記すと1965年にはパワーを奪う冷却ファンを無くしたフロント・ラジエターが採用され、1968年には新型リヤサスペンションを開発している。これらの改良の最終到達点がテスタ・ラディアーレと呼ばれる半球形の燃焼室を持つシリンダーヘッドの採用だ。1968年から大幅な変更が許されるCSIグループ5(特殊ツーリングカー)規定に対応したもので、テスタ・ラディアーレの採用により、OHVながら燃焼効率をより高めたことから982ccの排気量から実に112hpを発揮するに至った。

ABA_201702_0051000TCRを印象づける部分のひとつがフロントに配されたラジエターとオイルクーラーだ。

ABA_201702_0061000TCR初期型はメガホンタイプのテールパイプがスカート下から出される。

ABA_201702_007アバルトの魅力となるポイントのひとつが、レーシーなパラレルリンク・ワイパーだ。

ここでアバルト通例のややこしい車名と愛称名について説明しておこう。このテスタ・ラディアーレを備えるタイプの正式なモデル名は、フィアット・アバルト1000ベルリーナ・コルサで、以前のシリンダーヘッドを備えノーマル・フェンダーのタイプも1000ベルリーナ・コルサと呼ばれている。正式名が長いこともあり愛好家の間ではラディアーレを意味するRを附して1000TCRとされ、以前のタイプは850TCに倣い1000TCと呼んで区別している。

こうして誕生した1000TCRは、1968年3月24日アウトドローモ・モンツァで開催されたジョリー・クラブ4時間でデビューを果たす。テスタ・ラディアーレを備えるエンジンを搭載する1000ベルリーナ・コルサがアバルト・ワークスチームから姿を見せた。デビュー戦こそトラブルで記録を残せなかったが、以後勝利の記録を重ね、ツーリングカー1000ccクラス・チャンピオンの座を勝ち取る。

1970年1月にアバルトは、CSIの新しい車両規定に適応させてアップ・デートした、“テスタ・ラディアーレ”付の最新バージョン1000TCRグループ2仕様を発表する。このモデルから太いタイヤを収めるために新たにデザインされたフロント/リヤ・フェンダーを備え、コーナリング性能を向上させた。このほかプレクシグラス(アクリル)製のサイド/リヤ・ウインドーを採用し、さらに軽量化が突き進められ一段と戦闘力を高めた。エンジンは圧縮比を13:1まで高めると共に、テスタ・ラディアーレに2基のツインチョーク・ウェーバー40DCOE2を組み合わせることにより最大出力は112hpにまで到達し、最高速度は215km/hをマークした。1000TCRは、フィアット600をベースとしたモデルの最終進化型だけに、そのルックスも強烈だ。フロントに備わる巨大なラジエターと大きく張り出したリヤフェンダー、水平まで開いたエンジンフード、太いエグゾーストパイプ、スカート下にのぞくアルミ製の大きなオイルサンプがそのパフォーマンスを誇示していた。

ABA_201702_008インテリアは基本的には850/1000TCと変わらないスパルタンかつ機能的な光景が広がる。

ABA_201702_009当時のアバルト・スタンダードのバケットシートはFUSINA製。コンパクトな1000TCRのコックピットにマッチし、ホールド性にも優れる。

ABA_201702_010アバルトといえばカンパニョーロ製のエレクトロン・ホイールがお約束。リヤには1サイズ拡大されたものが組まれる。

勝利を追求するアバルトだけに、その後も地道に改良を加え続けた。その中で大きな変更が新設計の鋼管製トレーリング・アームを採用したリヤサスペンションで、キャンバー変化を最小限に抑えながら、サスペンション・ストロークを大きく取ることに成功し、コーナリング時の安定性が大きく改善されラップタイム短縮に貢献した。1000TCRグループ2仕様の最終バージョンでは、フィアット600から受け継いだロワーアームを兼ねる横置きリーフ・スプリング式のフロント・サスペンションが廃され、ペントラーレと呼ばれるクロスメンバーにAアームとコイルスプリングを用いた方式に変更し、細かなセッティングが可能となったことからコーナリング性能をより高めた。これらの改良により1970年のイタリアとヨーロッパ・ツーリングカー選手権の1000ccクラスで王座を勝ち取るのである。

こうしてツーリングカー・レースで1000ccクラスの王者であり続けたフィアット・アバルト1000TCRだが、突然の終焉を迎える。1971年になるとヨーロッパ・ツーリングカー選手権のディヴィジョン1が1000cc以下から1300cc以下に変更されたことから、絶対的な排気量の差はいかんともし難く、アバルトは1000TCRのワークス参戦を中止する。こうした中で1971年10月15日にアバルト社はフィアットに吸収され、フィアットのラリー車と市販車のスポーツ・バージョンの開発を担当することになる。この決定によりアバルトのサーキット・レースのプログラムはすべて中止されるが、1000TCRのパフォーマンスを知るプライベーター達がレース活躍を続け、1972年のイタリア・ツーリングカー選手権1000ccクラスのチャンピオンに輝いている。

ABA_201702_0111000TCの水冷OHV直列4気筒982ccエンジンにテスタ・ラディアーレを採用し、圧縮比を13:1まで高め112hpを発揮した。

このようにフィアット・アバルト1000TCRは卓越したパフォーマンスと素晴らしいレーシング・ヒストリーからアバルトのツーリングカーの頂点に君臨し続け、今も世界中の愛好家の間で究極の1台として支持され続けている。

スペック

1970 FIAT ABARTH 1000 Berlina Corsa Group2

全長 :3530mm
全幅 :1420mm
全高 :1300mm
ホイールベース:2000mm
車両重量 :583kg
エンジン形式:水冷直列4気筒OHV
総排気量 :982cc
最高出力 :112hp/6500rpm
変速機 :5段マニュアル
タイヤ(F/R):4,25/9.50-13
最高速度:215km/h