1964 FIAT ABARTH OT850/OT1000 BERLINA|アバルトの歴史を刻んだモデル No.009

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1964 FIAT ABARTH OT850/OT1000 BERLINA
フィアット アバルト OT850/OT1000 ベルリーナ

新たな量産モデルベースの高性能車

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一見するとフィアット850に見えるが、フロントのアバルトエンブレムと赤いネームパネルがフィアット アバルト OT850であることを物語る。

フィアット社はベストセラーのフィアット 600を進化させた新型車を1964年4月に送り出す。そのモデルの名はフィアット 850。フィアット 600をスケールアップするとともに、車内やトランクスペースの拡大を図り実用性を高めていた。フィアット NUOVA 500と生産が続けられていたフィアット 600の上級モデルとして、デビューとともにイタリアを始めとするヨーロッパ中から好評を持って迎えられた。

フィアットをベースに高性能モデルを手掛けるアバルトも、フィアット 850のポテンシャルの高さを見抜き、以前のフィアット 600をベースにしたフィアット アバルト 850TCや500をベースに製作した595/695と同じ手法ですぐさま開発を進めた。

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OT850のリヤパネルには、OTをシンボライズしたバッジと切り抜き文字で”ABARTH”の名が取り付けられている。

こうしてフィアット 850が登場したわずか2ヶ月後の1964年6月に、フィアット アバルト OT850が送り出される。ちなみにモデル名に付く”OT”は、オモロガート・ツーリズモの頭文字を略したもの。このOT850は排気量こそフィアット 850と変わらないが、新設計されたインレットマニフォールドにはウェーバー30が組み合わせられ、アバルト特製のエキゾーストシステムを装着。またオイルサンプはフィンが切られた軽合金製とされていた。

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エンジンは上から見る限りフィアット850とほとんど変わらない。よく見るとデスビ基部にレヴカウンター用の取り出し口があることで判別できる。

財布の軽いファンにも買いやすいようにと軽いチューニングでエンジン出力をフィアット 850の34hpから42hpにまで高めた「OT850/130」と、より徹底したチューニングで50hpまでパワーアップした「OT850/150」の2タイプが同時に送り出された。モデル名の最後に付く130と150は最高速度を表している。

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結晶塗装が施されたOT850のメーターナセルには、速度計と回転計の間に水温計、油圧計、燃料計が配される。メーター以外はフィアット850をそのまま受け継ぐ。

外観は基本的にフィアット 850のままだが、フロント部分にアバルトのエンブレムを配したクレストと、”FIAT ABARTH”と記されたアクリル製の赤いネームパネルが取り付けられ、高性能であることを示していた。目をリヤ部分に移すとバンパーの下からは2本のテールパイプと鈍く光るフィン付きのオイルサンプ、そしてナンバーの右横に備わる”FIAT ABARTH”の切り抜き文字がただ者でないことを主張していた。車内は基本的にフィアット 850のままだが、ダッシュボードにはアバルト特製の5連メーターが新たに採用され、乗る者をその気にさせた。

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排気量をおなじみの982ccに拡大し54hpを発揮するフィアット アバルト OT1000ベルリーナ。長孔の空いたスチールホイールに中央だけのホイールキャップを備える。

こうしてすぐさまOT850を送り出したアバルトだが、開発はさらに続けられていた。1964年9月にはボアはそのままにストロークを63.5mmから74mmに延長し、1000TCやビアルベーロでおなじみの排気量を982ccとしたOT1000を追加する。このOT1000はソレックス34PBICキャブレターを採用し、最高出力は54hpにまで高められた。最高速度こそOT850/150と変わらぬ150km/hだが、トルクが太くなったことから扱いやすさは大きく向上していた。足回りでは、OT850ではフロントブレーキがフィアット 850から受け継ぐドラム式だったが、OT1000ではディスクブレーキに換えられていた。あわせて車高も35mm下げられ、より安定した走行性能を実現した。

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リヤパネルにはOTのロゴと切り抜き文字でFIAT ABARTH 1000が配される。マルミッタ・アバルトのテールパイプが高いパフォーマンスを誇示する。

外観ではフロント部分のクレストは変わらないが、ネームパネルが”FIAT ABARTH 1000”へと変更され、フロントフェンダーにも切り抜き文字でFIAT ABARTH 1000と”カンピオーネ・デル・モンド(ワールド・チャンピオン)のバッジが付けられた。インテリアでは5連メーターがリデザインされ、ドライバーの正面を向くタイプに変えられている。またホイールも850TCと同じ長穴の通風孔があるタイプとされ、センター部分を被うメッキのホイールキャップを備えていた。細かなところではオイルサンプがOT850に幅の狭いタイプから、オイル容量を増し放熱効果を高めたワイドなタイプに換えられていた。

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OT1000のメーターナセルのデザインは一新され、速度計と回転計は2時の位置がゼロになるレーシーなデザインが特徴。

ちなみに当時の価格はOT850/130が87万リラ(当時のレートで約68万円)、OT850/150とOT1000は共に110万リラ(同86万円)だった。今の目で見ると安く感じるが、当時の所得を考えると、かなり高価といえた。

こうしてベーシックカーだったフィアット 850は、アバルトマジックにより高性能で乗って楽しいツーリングカーに生まれ変わった。アバルトではこれらの完成車のほか、既にフィアット 850を所有するエンスージァストのためにOT850、OT1000にモディファイするためのキットパーツも販売されていた。

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(左)フィアット アバルト OT850とOT1000をまとめた当時のカタログ。表紙はイラストの洒落たデザインとされ、そのタッチに時代を感じさせる。(右)裏表紙はフィアット 850やOT850/130に組み込むために単品販売されていたパーツやアクセサリー類が紹介されている。

なお車名は、当初の頃は単にフィアット アバルトOT1000とうたわれていたが、その後フィアットは850にクーペとスパイダーを追加する。当然のことながらアバルトはこれらの高性能構版であるOT1000クーペ、OT1000スパイダーを送り出す。そのためOT1000だけではタイプを識別できなくなり、区別するためにOT1000ベルリーナと呼ばれるようになった。なおOT1000クーペ、OT1000スパイダーについては、それぞれ数多くのバリエーションがあるため、機会を改めてご紹介したい。

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カタログの中面では、OT850/130とOT850/150、そしてOT1000の3モデルが紹介される。3モデルとも同じ写真が使われていたあたりは、のどかな時代を感じさせる。

アバルトの名声をより高めたフィアット アバルト OT1000ベルリーナは、当時の日本総代理店だった山田輪盛館の手により1台が輸入されている。何人かのアバルトファンを経て今も健在で、愛好家の許で素晴らしいコンディションに保たれている。

▼スペック
1964 FIAT ABARTH OT1000 BERLINA

全長 :3575mm
全幅 :1425mm
全高 :1357mm
ホイールベース:2027mm
車両重量:674kg
エンジン形式:水冷直列4気筒OHV
総排気量:982cc
最高出力:54hp/5200rpm
変速機 :4段マニュアル
タイヤ :145-12
最高速度:150km/h