1958 FIAT ABARTH 750 RECORD MONZA ZAGATO|アバルトの歴史を刻んだモデル No.008

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1958 FIAT ABARTH 750 RECORD MONZA ZAGATO
フィアット・アバルト 750 レコード・モンツァ・ザガート

レコード・モンツァの起源

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フィアット・アバルト 750 レコード・モンツァ・ザガートはバンパーが付くのがオリジナルのスタイルだ。しかし、当時レースの際に外されてそのまま現在に至る車両も多い。

現在、アバルトに興味を持つ方なら、「レコード・モンツァ」と聞けば、すぐさまオプションで用意されているハイパフォーマンス・エグゾーストを思い浮かべることだろう。実は、このレコード・モンツァという名前の起源は、1958年に登場したモデル「フィアット・アバルト 750 レコード・モンツァ・ザガート」から取られたのである。

レースで数多くの栄光を勝ち取ってきたアバルトは、カルロ・アバルトの肝いりで当時世界中のメーカーが挑んでいた速度記録へのチャレンジを開始する。この速度記録は現在では馴染みがないものだが、瞬間的な最高速度ではなく、3時間、12時間、24時間と連続して最高速度を記録していくもの。絶対的な性能だけではなく高い耐久性も求められ、総合性能が問われるハードルの高い挑戦だった。

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アバルトは、戦前のアルファ ロメオやフェラーリで名作を手掛けたエンジン設計者ジョアッキーノ・コロンボを招き、750ccのビアルベーロ(ツインカムシャフト/DOHC)エンジンを新たに開発する。このビアルベーロ・エンジンをピニンファリーナがデザインした空気抵抗の少ない車体に搭載した新たなレコードカーは1957年8月に、現在もイタリアGPが開かれているアウトドローモ・モンツァのオーバルコースで記録の挑戦を行った。そして500〜750ccのクラスHにおいて、3時間で平均197.826km/hという世界新記録を樹立する。

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この速度記録を達成した後の1958年10月に行われたパリ・モーターショーで、レコードカーに搭載された750ccのビアルベーロ・ユニットを搭載するフィアット・アバルト 750 レコード・モンツァ・ザガートがデビューを果たす。リヤに積まれるティーポ221と呼ばれる直列4気筒DOHCユニットは、747ccの排気量で、圧縮比を9.7:1まで高め、ウェーバー36DCL4ツインチョーク・キャブレターを組み合わせることにより最高出力57hpを発生した。

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ボディはザガートの手によるものだが、特徴的なダブルバブル・ルーフは取り入れられずオーソドックスな形状とされ、リヤウインドウまわりのデザインも一新されていた。ボディパネルにアルミを採用することにより、車両重量はわずか540kgに抑えられ、高い戦闘力を発揮した。なお、当時の他のアバルト同様、750 レコード・モンツァ・ザガートもプラットフォームは「フィアット600」のものをベースとしており、足回りの基本構成も共通だった。

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ルーフは一般的な形状となるが、エンジンフードはエアインテークを兼ねた見事なデザインとされている。

こうして誕生したフィアット・アバルト 750 レコード・モンツァ・ザガートは、センターピラーに「レコード・モンツァ」のバッジが誇らしげに付けられていた。モンツァでの速度記録を成功したことにちなんで、「レコード・モンツァ」の名前が与えられたのである。

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センターピラーにはアバルとのエンブレムと共に「レコード・モンツァ」のバッジが誇らし気に取付けられている。フロント・フェンダーの後方には、ザガートのバッジが存在感を放つ。

750 レコード・モンツァ・ザガートはすぐさまレースに挑み、イタリアはもちろんヨーロッパ各国で活躍を始める。この時代はクラス分けが細かく、アバルトが得意とする小排気量クラスは750cc、850cc、1000ccに分けられていた。最初に登場した750 レコード・モンツァ・ザガートは戦闘力の高さからGT750ccクラスを席巻し、その成功をもとにアバルトは850ccクラスに向けて847ccから72hpを発生する850版を製作する。1960年になると1000ccクラス用として982ccから91hpをマークする1000ビアルベーロが製作される。この3モデルのうち1000ccモデルはヘッドライトの形状が異なるが、車体やサスペンションは基本的に共通だった。

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1960年になると1000ccクラス用に982ccのビアルベーロ・エンジンを積む1000ビアルベーロが追加される。露出したヘッドライトがスタイリングの特徴。

こうしてアバルトはGTカテゴリーの750cc、850cc、1000ccクラスで多くの優勝を遂げ、小排気量クラスの王者として世界中で認められることになる。そして「レコード・モンツァ」の名称は、世界のクルマ好きに知れ渡る特別な存在となったのである。

▼スペック
1958 FIAT ABARTH 750 RECORD MONZA ZAGATO

全長:3470mm
全幅:1350mm
全高:1140mm
ホイールベース:2000mm
車両重量:540kg
エンジン形式:水冷直列4気筒DOHC
総排気量:747cc
最高出力:57hp/7000rpm
変速機:4段マニュアル
タイヤ:5.20-12
最高速度:190km/h