ヨシキ・オオムラ:レーシングカーとオルタナティブ投資

ヨシキ・オオムラ

ヨシキ・オオムラ氏は、ノースウェスタン大学(米国イリノイ州エヴァンストン)経済学学士修了後、SBC/UBSウォーバーグ社にてキャリアをスタートさせる。同社で構造化信用商品や固定収入商品、ハイブリッド商品を開発していた。
現在はレーシングドライバーとして活躍しながらコンクエスト ファイナンシャル パートナーズ社CEOおよびヴェスパー キャピタル マネジメント社CEOを兼任。両社の投資およびトレーディング関連活動のすべてをマネジメントするとともに、戦略的事業展開を担っている(コンクエスト社、ヴェスパー社はいずれもルビコン・ファイナンシャル・ホールディング社の子会社)。オオムラ氏はまたルビコン・ファイナンシャル・グループのモータースポーツおよび自動車分野への取り組みを担うスクアドラ コルセ社の創設者兼チーム代表としても知られる。
コンクエストとヴェスパーを設立する以前には、GAMストラクチャード・インベストメンツ・グループのグローバルヘッドおよびGAMストラクチャード・インベストメンツ社最高責任者を兼任しカスタマイズ金融派生商品にもとづく投資管理およびオーバレイ商品を統括していた。なお、上記GAMストラクチャード・インベストメンツ事業は、ベア・オルタナティブ・ソリューションズ社およびジュリアス・ベア銀行のオルタナティヴ・リスク・トレーディング・グループ(いずれもオオムラ氏が設立・経営)の買収により発足したものだ。
GAM/ジュリアス・ベア銀行に加わる以前のオオムラ氏は、ケンマール・グローバル・インベストメント・マネジメントにおいてインスティチューショナル・プロダクト・デベロプメント・グループのマネジングディレクターを務めていた。


レーシングカーに興味を持ったきっかけは?

ヨシキ・オオムラ:物心ついたときからクルマには強い興味がありました。技術面やすばらしいパフォーマンスの虜になったのです。ですから、レースを始めたのもクルマ熱が高まったもので、ごく自然な成り行きでした。

ご自身で運営しているスクアドラ コルセ・チームについて聞かせてください。

スクアドラ コルセは、グループのモータースポーツおよび自動車分野への取り組みを担う部門です。主な活動はフォーミュラカーレースです。フォーミュラ・アバルトでF2000選手権に参戦しているほか、2005フォーミュラ・ニッポンでBOSS(Big Open Single Seater)に出場しています。またフォーミュラカーレース以外では、お客様向けにフェラーリGTカー(チェレンジおよびGT3クラス)の管理と運営を手がけています。工場はイタリアのモンツァ(フォーミュラ)とマラネッロ(GT)の2カ所にあり、ヨーロッパ全域を対象としたフォーミュラ、プロトタイプ、GTクラスの選手権に対応できる人員、インフラ、輸送能力を備えています。

「トロフェオ・アバルト・セレニア選手権」出場を夢見るレースドライバーの卵たちを発掘するアバルトのテレビ番組「Make it your race」でもスイスチームの監督を務めていますね。

これはアバルトによる非常にすばらしい企画で“一般の”人々にレース出場のチャンスを提供するものです。レースを始めるのは非常に困難で、興味があっても最初からあきらめる人がたくさんいるのです。そこでアバルトでは、国ごとに年齢以外唯一の参加資格“レース経験のない”20~25人のグループでレーシングのトレーニングを積み、各国の優勝者に「アバルト500トロフェオ」シリーズの出場資格を与えるコンテストを考案したのです。私も審査員として加わるほか、スイスチームの監督をやらせていただいています。番組は大好評で多くの国で放送されています。

アバルトについてオオムラさんが気に入っている点は?アバルトとの提携はどのようにして生まれたのですか?

アバルトはレースですばらしい実績があり、ブランドとしても魅力がありますが、私がいちばん好きな点はそこに集まっている人たちです。みんながアバルトに対して情熱を持ち熱心に仕事に取り組んでいます。私たちは長年フィアット グループと緊密にお付き合いしてきたのでヨーロッパでフォーミュラ・アバルトシリーズがスタートしたとき、私たちがアバルトを支援することは当然のことでしたし、引き続き共同でいろいろな取り組みを進めています。

オオムラさんのこれまでのレースで最大の勝利と言えば?

ひとつだけ挙げるのは難しいですね。去年のF2000選手権では総合2位になり、とてもうれしかった。歳をとっても、フォーミュラクラスに出ているような若者と互角に戦えることが証明できましたから。

世界でいちばん好きなサーキットは?

断然イモラですね。スピードが出せる部分とテクニカルな部分の組み合わせがよく高低の変化もすばらしい。非常に楽しくて走りがいのあるサーキットです。また私が大好きな街のひとつ、ボローニャに近いことも大きなポイントです。

オオムラさんは現在38歳ですが、レースドライバーとしてあとどのくらい戦えると思いますか?また引退後の計画は?

ははは、これは参りました。急に歳をとった気がします(笑)。肉体的、精神的にしっかりしている限りは戦います。よくあるのは、年齢とともにフォーミュラからGTやプロトタイプ、耐久レースに移るパターン。これらのレースでは最速ラップを叩き出すより、経験や堅実さが大事ですから。またチームを運営したり、伸び盛りのドライバーと一緒に仕事をするのも好きです。いずれはこの方面にあてる時間が多くなるとは思いますが、自分がレースに出られなくなる日が来ることはまだ考えられません。

「アバルトはレースですばらしい実績があり、ブランドとしても魅力があります」—ヨシキ・オオムラ


オオムラさんは様々なインタビューで「レース界で尊敬しているのは、長年の経験豊富なイタリアのドライバー兼監督のアルトゥーロ・メルツァリオ氏」と語っていますが、オルタナティブ投資で尊敬する人物は?

アルトゥーロはレース歴50年以上になりますが、その大半はレースがまだ非常に危険な時代でした。そんな伝説的なドライバーでありながら、とても感じがよく面白い人です。アバルトを通じて一緒に仕事をする機会がありましたが、今年はレースでもライバルで、現在私の方が1ポジション負けています。投資の面では、投資管理にすぐれた能力を持つ人だけでなく、ソロスやチューダーのように金融以外の分野でも活躍している人がいて、私はそういう人たちも非常に尊敬しています。

それだけレースに打ち込みながら、コンクエスト ファイナンシャル パートナーズのCEOとして時間がとれるのですか?

もちろんです。生活のための仕事はおろそかにできませんから。レースにかける時間は私の場合、他の人がゴルフやテニス、ヨットなどに打ち込む時間とおそらく同じ程度でしょう。私たちのチームには日常業務をうまくこなしてくれるスタッフがいるので、私は自分の「本来」の仕事やレースに集中することができるのです。

オルタナティブ投資会社のヴェスパー キャピタル マネジメントの経営も手がけていますが、ヴェスパーのオルタナティブ投資でどのようなことをしているのでしょうか?

ヴェスパーではヘッジファンド・レプリケーション戦略を開発しました。主としてこれまで10年進めてきた研究をベースとしたものです。この戦略をヴェスパーブランドとして実施しています。

自動車レースでも投資でもリスク管理は同じようにやるのですか?要はマイナス面の管理というか?

投資もモータースポーツと同じで、不確実性=リスクが高いものです。どちらもマネジメントのカギは、できるだけ備えをすること、有能な人材を確保すること、メンテナンスを厳格に継続して行うことです。レースでエンジンが壊れた場合も、ポートフォリオ内のあるポジションで失敗した場合でも、事前にしっかりケアしておけば回避できる場合もあります。リスクそのものは悪いものではなくリスクをとったことに対して適正な見返りが得られるように準備しておけばよいのです。これは投資でもレースでも同じことです。

レースと金融のほかに、生きがいはありますか?

正直なところ、家族、金融、レース以外には割ける時間があまりありません。でもこの3つが私にはいちばん楽しいのでそれでいいのです。