アバルトで走りたいワインディングロード【御坂峠編】

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アバルト124スパイダーの実力を堪能するには、少しテクニカルなワインディングロードがいい。絶景や歴史散歩も楽しめる山梨県の御坂峠は、124 スパイダーにうってつけのコースだ。

生まれ故郷のイタリアを思い出させる景色

124 スパイダーでどこのワインディングロードに向かおうかと考えて、真っ先に浮かんだのが山梨県南都留郡の御坂峠。そのテクニカルなコースは、マシンを操っている実感を与えてくれる124 スパイダーにぴったりだからだ。

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身体をしっかりホールドするシートは、ワインディングロードの走りをより楽しくしてくれる。写真はオプションのレザーシート/ナビゲーションパッケージ装着車。

中央道を河口湖インターチェンジで降りて約20分、御坂峠の入り口はうっかりすると通り過ぎてしまうくらい控え目だ。けれどもその先には、さまざまな峠道の楽しみが待っている。すでに幌は開けているし、エンジンもブレーキも暖まっている。早速、登坂をスタートしよう。

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御坂峠の入り口は少しわかりにくいので、訪れる際には注意したい。

御坂峠の魅力のひとつは、ガードレールのない区間が多いこと。金属製の板が迫ってくる圧迫感がないから気持ちよく走れるし、このクルマの生まれ故郷であるイタリアの峠道に想いを馳せることもできる。このクルマの祖先にあたり、デザインのモチーフにもなっている1970年代のラリーシーンを席巻した名車「アバルト 124 スパイダー ラリー」が走っても似合いそうな峠だ。

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アベレージスピードはそれほど高くないが、テクニカルなコーナーとアップ&ダウンが続くこの道に入ると、124 スパイダーは水を得た魚のように走る。

速さだけでなく、感性に訴えるエンジン

まず光るのが排気量1.4リッターのターボエンジンだ。170psのパワーが十分なのは言うに及ばず、音やフィーリングがドライバーの感性に訴えかけてくる。アクセルペダルを踏み込むと、抜けのいい、健康的なエキゾーストノートが鼓膜を震わす。オープンカーは風や陽光だけでなく、排気音もダイレクトに楽しめるのだ。

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170psの最高出力と25.5kgmの最大トルクを発生する、1.4リッター直列4気筒ターボエンジン。

回転を上げるほどにトルクの高まりを実感できる、エンジンの特性もスポーティだ。御坂峠を軽快に走ろうとすると、頻繁にアクセルのオンとオフを繰り返す必要がある。微妙にアクセルを操作するような場面では、右足とエンジンが直結しているかのようなレスポンスの鋭さが嬉しい。右足の親指に少し力を入れただけで、エンジンはビビッドに反応するのだ。音といいレスポンスといい、このあたりのチューニングにアバルトのノウハウが注入されているのだろう。

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このモデルは6ATを選ぶこともできるが、今回の試乗車は6MT。これが、マニュアルトランスミッションの楽しみを改めて感じさせてくれる。6速のギアリングはこのくらいのスケールのワインディングロードにドンピシャで、「2速→3速」「3速→2速」を繰り返しながら気分よく駆け抜ける。この時の、自分が積極的に運転に関与しているという実感は、マニュアルトランスミッションならではのものだ。

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盤面が赤く塗られたタコメーターが視覚にも刺激を与える。

ノーマルの状態でもスポーツドライビングを堪能できるが、ここで「SPORT」モードボタンをプッシュすると、ステアリングホイールの手応えが増し、エンジンのレスポンスがさらにシャープになる。大げさではなく、クルマ全体がギュッと引き締まったように感じる。ワインディングロードでサソリのエンブレムにふさわしい走りをするなら、やはりこのスイッチを押したほうがいい。

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シフトレバーの根元に位置する「SPORT」モードのスイッチを押すと、走りの刺激がさらに増す。

丁寧にチューニングされた足まわり

加速や音などの興奮が落ち着いて冷静に観察すると、124 スパイダーの足まわりが丁寧に作り込まれていることに気付く。タイトなコーナーや、傾斜の付いたトリッキーなコーナーが多いのが御坂峠の特徴。ここで、サスペンションは自在に伸び縮みして路面をつかむ。そしてコーナリングを終えて直進状態になると、すぐにフラットな姿勢を取り戻す。姿勢変化が上手にコントロールされているのは、専用設定のスプリングとビルシュタイン製モノチューブショックアブソーバーの組み合わせが効いているのだろう。

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ブレンボ製ブレーキシステムは素晴らしい制動力を発揮し、御坂峠の急勾配の下りでも安心だ。ただし、よく効くことだけが安心の理由ではない。ブレーキの踏力に応じて、繊細に制動力をコントロールできるから安心なのだ。御坂峠は足まわりにしろ、ブレーキにしろ、124 スパイダーがキメ細かくチューニングされていることがわかるコースだ。

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峠の頂上からは河口湖を見下ろすことができ、条件さえよければ富士山を望むこともできる。ここから望む富士山は、葛飾北斎も歌川広重も描いているほどで、その美しさには定評がある。また、頂上の天下茶屋には井伏鱒二や太宰治が滞在したことでも知られる。観光客向けの店で食べるのとはひと味違う、天下茶屋の滋味深いほうとうで身体を温めながら富士山を眺め、かつての文人墨客も同じ光景を見たのだろうと想像する。そんな“歴史散歩”も、このワインディングロードを走る楽しみのひとつだ。

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御坂峠の頂上付近から河口湖を望む。残念ながらこの日は顔を見せなかったが、コンディションがよければ富士山の絶景が楽しめる。

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取材・文 サトータケシ
撮影 荒川正幸