アバルト124スパイダー・6ATは、より多くの人を笑顔にするクルマだ

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MTよりもATの方が自由かもしれない
アバルト124スパイダーの6ATモデルに乗りながら、クルマ好きにとって不変的なテーマである、「マニュアルトランスミッション(MT)派 vs オートマチックトランスミッション(AT)派」について考える。MT派の主張を要約すると、自分の意志で操作することでギアとエンジン回転数を思い通りにコントロールしたい、ということになる。

けれどもこのクルマの6ATにふれると、そんな議論の内容も少し変わるんじゃないかと感じる。高度に電子制御された最新の6ATは、アクセルペダルの微妙な踏み加減に繊細に反応して、狙い通りのギアとエンジン回転数をもたらしてくれるからだ。

たとえば高速道路の合流車線で少しアクセルペダルを踏み込むと、スムーズかつ素早くシフトダウン。望んだ加速を手に入れることができる。右脚の動かし方ひとつで、ギアもエンジン回転数もコントロールできるのだ。さらにパドルシフトやシフトセレクターの操作を加えれば鬼に金棒。迅速、正確、滑らかに望んだエンジン回転数と加速が手に入る。「ATだから制約がある」というのは、過去の意見なのだ。

もちろん、クラッチ操作にひと手間かける、MTの魅力を否定するものではない。手動でフォーカスを調整するマニュアル式カメラと同じように、「うまくできた!」という喜びがある。ただしマニュアル式カメラは、操作に集中するあまり、シャッターチャンスを逃すこともある。MT車にも似たようなことが起きていないだろうか。シフトはATに任せてしまい、余裕が生まれた分をコーナリングのラインを読んだり、景色や風を楽しむことに注ぎ込むというドライビングの楽しみ方もアリだろう。

さる著名なカーデザイナーが、こんなことを言っていた。昔と違って細かい計算をコンピュータに任せられるようになったので、浮いた時間をもっとクリエイティブな作業に注ぐことができる、と。6ATを搭載したアバルト124スパイダーに乗りながら、そんな言葉を思い出した。

街中でのしっとりとした味わいは特筆もの
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ひとつの発見は、アバルト124スパイダーは市街地で乗っても楽しいということだ。まず、発進加速で気持ちよく前に出るのが嬉しい。トルクコンバーター式の6ATなのでトルク増幅作用があり、これがスムーズかつ力強い発進加速につながるのだ。

信号が青に変わり、アクセルペダルを軽く踏み込む。すると、「フォーン」という乾いた排気音とともに、滑らかに加速する。穏やかにアクセルペダルを踏んでいると、6ATはいかにも効率がよさそうに、「ス、ス、ス」とシフトアップしていく。ただしシフトアップ時にはショックはまったく感じないから、注意深く観察しなければシフトアップしていることには気付かないかもしれない。

意外に感じたのは、タウンスピードでも乗り心地がしっとりしていることだ。一般的なスポーツカーは、高速ではフラットで快適な乗り心地を提供しても、街中では多少の突き上げを感じるものだ。ところがアバルト124スパイダーの場合は違う。

車体が重いというのとは違うけれど(6AT仕様でも車重は1150kgに過ぎないから、重いわけがない)、乗り心地にある種の重厚感と湿り気を感じさせる。「カツン、カツン」という突き上げのかわりに、「しっとりとした」としか表現のしようのない、落ち着いた乗り味が伝わってくるのだ。このあたりは、ビルシュタイン製ダンパーからオリジナルのシートに至るまで、アバルトのノウハウが注ぎ込まれている成果だろう。

交差点を曲がるだけでも「身を翻す」と表現したくなる軽快感と、乗り味の心地よい重みが合わさって、街中でも楽しめるスポーツカーに仕上がっている。

骨太かつ快適なオープンエアモータリング

首都高速に上がって、シフトセレクターの根元にあるスイッチをスポーツモードに切り替える。その瞬間、「フォン!」とエンジン回転が一段高くなる。スポーツモードでは、低いギアでエンジン回転数を高めに保つようにエンジンとトランスミッションを制御するのだ。

高速道路でも、100km/h程度までなら風の巻き込みはまったく気にならない。平均的な日本人の体型よりかなり座高が高い筆者でも、頭頂部をそよそよと風が撫でるくらい。髪の長い女性でも、オープンエアモータリングを満喫できるはずだ。

女性向き、といえば、温度を3段階で調節できるシートヒーターのおかげで、外気温が一ケタという寒さの中でも車内に座っているとぬくぬくと温かい。風を巻き込まない設計を始めとするテクノロジーの進歩によって、オープンカーのハードルは以前よりもはるかに低くなっている。

首都高速の中速コーナーの連続を、アバルト124スパイダーは軽快にクリアしていく。そもそも車重が1150kgと軽い上に、重量バランスは前後50:50と理想的。重い構成部品をホイールベース内に収めるというこだわりの設計が、狙った通りのラインを描けるという結果につながっている。

高速道路が楽しいのは、1.4Lのマルチエア・ターボエンジンの吹け上がりのよさと、エンジン回転が上がるほどにパワーが盛り上がるスポーティな性格によるところも大きい。ベースとなったマツダ・ロードスターより骨太で力強い印象を受けるのは、重厚感を感じさせる足まわりの設定とともに、エンジンのパワフルさが理由だ。

そしてエンジンのレスポンスのよさの影では、出しゃばらないけれど黒子のように地味にスゴい仕事をしている、6ATの存在がある。

ただただ純粋にデザインと走りを楽しめるスポーツカー

首都高速での爽快感を思えば、このままワインディングロードまで走りに行きたくなる。もちろんそれはそれでエキサイティングではあるけれど、124スパイダーというモデルは、走るのが好きな方だけに薦めたいスポーツカーとは少し性格が異なる。なぜならこのクルマは、高いデザイン性も備えているからだ。

スタイリッシュでありながら、同時に生き物のようなキャラクターも備えた外観は、路上に停まっているだけで強いインパクトを放つ。1970年代のラリーシーンを席巻した名車、フィアット・アバルト124スパイダーのモチーフを上手に引用したエクステリアは、少し大げさに言うと、周囲の街並みをヨーロッパに変えるくらいの力がある。赤の挿し色を上手に使ったインテリアといい、内外装のデザインは、目でも楽しめるスポーツカーだ。

デザインとともに好ましく感じたのがシート。デザインや色もいいけれど、腰から背中にかけて包み込むようにホールドする感触は、「椅子の文化」を感じさせるのだ。

つまりアバルト124スパイダーというクルマは、スポーツカー好き、走り好きはもちろん、ファッションや建築、インテリアが好きな方など、幅広い層を取り込む力を持っているのだ。この力を発揮するのに、6ATの存在は大きいだろう。感度の高いさまざまな方が入って来られるように、間口を広げる役目を果たす。

屋根の開閉は簡単だし、荷室もしっかり用意されている。運転に難しいコツもないから、難しいルール抜きで、ただただ純粋にデザイン性の高さやオープンエアの楽しさを享受できる。カップルやDINKSが小旅行に出かけて、時たま運転を交代する。そんな使い方がこれほど似合うクルマもないだろう。

文:サトータケシ/写真:小林俊樹

ABARTH 124 spider
http://www.abarth.jp/124spider/

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