波乱のスーパー耐久ファイナルラウンド

今シーズンからABARTH 500/695アセットコルセを擁し、スーパー耐久(通称S耐)国内6戦に参戦することになった“ムゼオ チンクエチェント レーシング チーム(mCrt)”。これまで開幕戦の「スポーツランドSUGO(4月20—21日)」を皮切りに、第3戦「ツインリンクもてぎ(7月20—21日)」、第4戦「富士スピードウェイ(8月10—11日)」、第5戦「岡山国際サーキット(8月31日—9月1日)」、第6戦「鈴鹿サーキット(9月21—22日)」の各ラウンドで奮闘してきた同チームは、11月9—10日に今季の大団円となる最終戦「オートポリス」ラウンドを迎えることになった。

今回のオートポリスでは、第5戦岡山国際ラウンド以来となったチーム1号車(ABARTH 695アセットコルセ:カーナンバー“49”)のみの参戦体制が継続された。このマシンは、イタリアおよびヨーロッパ大陸で開催される「トロフェオ・アバルト・セレニア選手権」のために開発されたABARTH 695アセットコルセをベースに、S耐レギュレーションに対応した改良を施したST4クラス特認車両で、開幕戦SUGOラウンドから参戦している福山英朗選手(チーム監督兼任)と檜井保孝選手、大文字賢浩選手の3名がドライブを担当することになった。

ついに迎えたシーズン最終戦を前に、レース戦略について語り合う檜井保孝選手(左)と大文字賢浩選手(中)と福山英朗選手(右)。レースへの真剣な取り組みがうかがわれる。

第5戦「岡山国際サーキット」ラウンドでのクラッシュを修復し、復活を果たしたABARTH 695アセットコルセ。カラーリングはこれまでのチーム2号車と同じものに変更された。
ファンとの触れ合いの場である、S耐名物ピットウォーク。土曜日は予選スタート直前に行われた。地元九州の“ゆるキャラ”たちと、mCrtのドライバー3名で記念写真をパチリ。


“ABARTH DRIVING FUN SCHOOL”を受講した熱心なABARTHオーナーがピットウォークに来場。同スクール講師でもある、3人のmCrtドライバーにエールを贈っていた。
S耐トップカテゴリー“GT3クラス”でチャンピオンを争うPETRONASチームのドライバーたちもmCrtピットを訪問。カテゴリーを超えた友情の輪が広がることになった。


土曜日の予選スタート。オートポリスのピットレーンは生粋のレーシングマシンたちが発する轟音に包まれ、いよいよ最終戦が本格的に始まったことをひしひしと感じさせられる。

ドライコンディションで行われた11月9日の予選では、3名のドライバーはそれぞれ順調に走行し、ともに今シーズンから参戦となったライバル、トヨタ86の一部を上回るST4クラス11位で予選通過を果たすことができた。

金曜日のフリー走行および土曜日の予選は、両日ともにドライコンディションとなった。mCrtドライバー陣とABARTH 695アセットコルセも、順調に予選通過を果たした。

明けて10日の決勝は、早朝からの濃霧のためスタートが一時間も遅れ、さらに前半は濃霧とヘビーウェットな路面状況のため長らくセーフティカーの先導を受けるという波乱の展開となる。そんな中、コースを走る車両の順位はめまぐるしく変動したが、結局決勝レースは予定の3時間を切り上げた2時間でゴール。mCrtのABARTH 695アセットコルセは予選順位と同じ11位でフィニッシュという結果となったのである。

明けて10日(日)の決勝日。オートポリス・サーキットは折からの雨に加えて深い霧に包まれ、午前のウォームアップ走行は中止。決勝のスタートも危ぶまれる状況となってゆく。
サーキット駐車場では、ABARTHブランドアンバサダー檜井選手が愛用する595コンペティツィオーネに加えて、地元九州を中心に集まったファンの乗るABARTHの姿も数多く見られたが、いかんせん濃霧が……。


それでもファンの皆様待望のピットウォークは開催されるが、霧と雨のため記念写真やサイン収集も困難な状況。この日も登場した九州ゆるキャラ軍団も、少々辛そうに見える。

ファンサービスの一環として開催された、サーキットバスツアー。日本レース界きっての話術を誇るmCrt福山選手はバスガイドとして参加し、ツアー参加客を大いに沸かせた。

そして1時間遅れ(PM2:00)となった決勝スタート。相変わらずの濃霧だが、後方グリッドにはともにST4クラスに今季から本格参戦したライバル、トヨタ86の姿も見える。

少しずつ霧が晴れ始め、長らくコースに留まっていたセーフティカーも退去。いよいよ決勝レースは真剣な闘いとなり、ピット作業にもどんどん熱が入ってくる様子が感じられた。
そして夕闇のゴール。それぞれのカテゴリーで奮戦したドライバーとマシンたちが、闘いを終えてコース上に並ぶ。mCrtのABARTHも、今季最後のレースを無事に完走できた。


今シーズンのスーパー耐久におけるmCrtは、ABARTHアセットコルセおよびチーム自身の可能性を探るための実験的意味合いが多く含まれる参戦となった。また、欧州のスプリントレース用車両を日本の耐久レースに転用したことから数多くの辛苦にも見舞われたが、結果として多くのレースで完走を果たした上に、日本車勢の強豪とも渡り合える可能性を見出すことができたと言えるだろう。なによりもかつての黄金時代、1960年代からABARTHのファンが多かったとされる日本からABARTHの新しいレース文化を発信することができたのは、世界的に見ても非常に意義深いことと思われるのだ。

そして来シーズンも、mCrtでは既に国内全戦のエントリーを念頭に置き、早くもマシンのブラッシュアップ計画に着手しているとのこと。加えてScorpion Magazineを愛読していただいているABARTHファンの皆さんを唸らせるようなプロジェクトが同時に進行しているとも言われている。今後ともABARTHと“ムゼオ チンクエチェント レーシング チーム”からは、絶対に目が離せないのである。