真夏のS耐富士スーパーTEC、mCrt奮戦記

夏、真っ盛り、特に酷暑に見舞われている今年、8月10・11日に開催されたスーパー耐久第4戦「富士スーパーTEC」では、今シーズンからスーパー耐久(通称S耐)選手権の国内6レースに参戦している「ムゼオ チンクエチェント レーシング チーム(mCrt)」の1号車ABARTH 695アセットコルサ(カーナンバー“49”)が、前戦「もてぎラウンド」を上回る活躍を見せてくれることになった。

「ムゼオ チンクエチェント レーシング チーム(mCrt)」は、自動車博物館「チンクエチェント博物館(愛知県知多郡南知多町)」を母体とするレーシングチームで、同館代表の伊藤精朗がチームオーナーおよび運営プロデューサーを務める。

マシンは2台体制で、ともにイタリアのABARTH本社が主催する若手ドライバー育成用ワンメイク選手権“トロフェオ・アバルト500セレニア”のために開発された専用車両をモディファイ。「アバルト ドライビング ファン スクール」の後援のもと、カーナンバー“49”をつけるチーム1号車は“ABARTH 695アセットコルセ”。そしてカーナンバー“50”をつけるチーム2号車は“ABARTH 500アセットコルセ”をベースに、S耐レギュレーションに対応した改良が施されている。

49号車に搭乗するのは、いずれもプロのレーシングドライバー。開幕戦SUGOラウンドから参戦している福山英朗選手と檜井保孝選手、大文字賢浩選手に加えて、前戦もてぎラウンドからチームに加入した寺西玲央(れお)選手の4名である。一方「mCrtジェントルマンドライバー支援プログラム」の一環としてエントリーする50号車は、こちらも第3戦もてぎラウンドに参戦した齋藤多聞選手、大島正行選手、波多野希選手の3名に、新たに武井一義選手が加わった4名のドライバーとともに闘うこととなった。

さらに今回の富士スーパーTECでは、チーム専属のレースクィーン“ムゼオ チンクエチェント レーシングチーム:レーシングレディ”として島崎翠花さんと桜井まこさんが初ジョイント。恒例のピットウォークやレース本番中にも大人気を得ていたほか、チームを代表してステージ上でも詰めかけたファンたちにABARTHとチームについてアピールするなど、mCrtには大輪の花が添えられることになったのである。

さて、真夏の7時間耐久という過酷なレースとなった今回の富士スーパー TEC。7月下旬ながら涼しかった前戦もてぎラウンドとは打って変わって、昼間の気温は35℃前後。その上、アスファルトの照り返しが厳しいサーキットゆえに、灼熱のレースが予想された。そこで車内温度が50℃を超えることも珍しくはないシビアな環境に備えて、ドライバー陣は全員本格的なクールシャツを着用し、専用ドリンクをヘルメット内に吸い込むことのできるドリンクボトルも車内に持ち込むが、やはり炎天下では充分な対策とはなりえず、ドライバー勢の体力消耗はかなり深刻なものとなってしまう。

しかも、もともと800kg程度の車重に過ぎない某英国製ライトウェイトスポーツカーを想定して開発されたS耐レギュレーション指定タイアは、約1tの車重に加えてターボ車特有の高トルクを誇るABARTH 500/695アセットコルセには、役不足という印象は否めないもので、タイアをうまく使いこなすことがレースの重要なカギとなったのだ。

そして11日(日曜日)、午前11:00にスタートした決勝レースでは、50号車がレース序盤に発生した接触事故のために、残念ながらいきなりリタイアとなってしまった。しかし一方の49号車は、炎暑と豪雨に相次いで見舞われた天候にも屈することなく7時間を走破。前回のもてぎラウンドをクラス/総合ともに上回るST4クラス7位/総合24位という予想以上の成績で完走を果たし、予想以上に望ましいかたちでシーズン前半戦を締めくくることができたのである。

mCrtでは、ここまでのシーズン前半戦で得られた教訓と貴重なノウハウを生かし、次戦の「岡山国際ラウンド(8月31 — 9月1日)」から始まる後半戦に向けて、最大限の努力を続けてゆく所存とのこと。そして“ムゼオ チンクエチェント レーシングチーム:レーシングレディ”とともに、第5戦「岡山国際サーキット(8月31日 — 9月1日)」、第6戦「鈴鹿サーキット(9月21 — 22日)」にも、もちろん参戦する予定となっている。

Scorpion Magazineを愛読して下さっているアバルト・ファンの皆様には、いま一度熱き応援をお願いしておきたい。

今回からmCrtに加入した武井一義選手。“アルファロメオ・チャレンジ”や“アイドラーズ12時間耐久”などのアマチュアレースで経験を積んだジェントルマンドライバーだ。


富士スーパーTECでは、お揃いのコスチュームで決めたチーム専属レースクィーン“ムゼオ チンクエチェント レーシングチーム:レーシングレディ”も登場。mCrtの雰囲気はいっそう華やいだ。

チームではお馴染みとなったヘルメット人形は、このたび“カルロくん”と命名された。もちろんABARTHの偉大なる創始者、カルロ・アバルトの名に因んだネーミングである。

島崎さんと桜井さんは特設ステージに殺到するレースクィーンファンを前に、ABARTHとmCrtの魅力をたっぷりと語ってくれた。

S耐名物となっているピットウォークだが、観客数の多い富士スーパーTECではこれまでにも増して大盛況。2人のレースクィーンも加わったmCrtの人気も一段と高まっていた。

ピットウォークでmCrtファンたちと接し、楽しげな様子を見せる49号車クルー……。と思いきや、なぜか福山選手に代わってスーパーマリオ(?)が記念写真に加わっている。

ファンとの記念写真に応える50号車クルー。後列中央でScorpion印のチョンマゲを被った齋藤選手は開幕戦から参戦し、すっかりチームのムードメーカーとなってしまった。

スーパー耐久で初めて決勝グリッドに就いた50号車、齋藤多聞選手にパラソルを差し出す島崎翠花さん。既に熱烈なファンも獲得している、人気のレースクィーンとのことである。

49号車大文字選手にパラソルを差し出す桜井まこさんは、まだ16歳の現役高校生。自身もカートレースに参戦し、いずれは本格的なレーシングドライバーも夢見ているという。

ついに始まった決勝レース。予選から好調の49号車は、序盤にホイールを破損するアクシデントに見舞われるが、そのあとも熱い走りで挽回し、徐々にポジションを上げていった。

初の決勝進出となった50号車は、暑さでタレ気味のタイアに苦しめられつつ奮闘するが、15周目に発生したGT3クラス車との接触事故のため、リタイアを余儀なくされてしまう。

水分補給は、特に真夏の耐久イベントでは必須。mCrtでも専用ボトルを用意し、走行中でもヘルメット内に接続したチューブからドリンクを吸飲できるシステムを設置している。

こちらも現代のレースでは必須アイテムとなったクールシャツ。車内に設置したタンクからTシャツに張り付けたチューブに冷水を引き込み、身体を冷やすシステムとなっている。

最初のスティントを終え、ピットに戻ってきた49号車。ここではドライバー交代とタイア交換、ガソリン給油など、目の回るほどに忙しい作業を短時間に行うことが要求される。

50℃以上にもおよぶ車内で、1時間以上のスティントをこなしたドライバーは全身過熱状態。49号車の檜井選手はピット脇に置いたプールに飛び込み、過熱した身体を冷やしていた。

ABARTHと同じく今季からST4クラスに参戦し、ともに大きな話題となったトヨタ86。予選・決勝ともに比較的近いタイムを計上するなど、良きライバルとなりつつあるようだ。

レース中盤、それまで猛暑の晴天だったはずの空模様は一転にわかに黒雲が垂れ込め、直後には雷と大粒の雨。7時間の耐久レースは、まさに波乱含みの様相を呈することになった。

ピットでは急遽レインタイアが用意される。開幕戦SUGO(決勝は積雪でキャンセル)、第3戦もてぎともにドライコンディションだったため、実は今回が初めての使用となった。

大雨の中、水煙を上げてメインストレートを駆け抜けていくS耐マシンたち。大排気量の上級クラス車両に抜かされるたびに前方視界を奪われるST4車には、かなり厳しい状況だ。

レースも終盤に差し掛かった夕刻。ヘッドライトを点灯させつつ、ゴールに向けてひた走る49号車。気温が下がったこともあり、この段階になってもさらにタイムが向上した。


スタートから7時間を経た午後6時、ついにチェッカーフラッグを受けた49号車。前戦もてぎラウンドをさらに上回る、ST4クラス7位、55台エントリー中、総合24位という好成績にピットも沸いた。

リタイア後、長らくコース上に留め置かれていた50号車が、レース終了後にようやくピットへと帰還。寂しげにも映る一方で、今後のリベンジを期しているかのようにも見える。