イモラを駆け抜けたアバルトたち

かつてF1サンマリノGPの会場となったイモラは、あのアイルトン・セナが逝去したサーキットとしても知られる。セナの魂は、今なお若き後輩たちを見守っているのだろうか?

トロフェオ/フォーミュラともにオーガナイズするアバルトは、美しい大型トランスポーターをパドックに持ち込み、エントラントたちを完全バックアップする体制を整えていた。

今年8月最後の週末、アバルトの直列4気筒DOHC16Vターボサウンドが、北イタリアエミリア・ロマーニャ州イモラ・サーキットに木霊した。
かつてはF1サンマリノGPの舞台として、その名を知らしめたイモラ・サーキット。
正式には“アウトドローモ・インテルナッツィオナーレ・エンツォ・エ・ディーノ・フェラーリ(エンツォ&ディーノ・フェラーリ国際サーキット)”と呼ばれる、世界に冠たる名コースである。

この名門サーキットを舞台に、さる8月31日から9月2日に至る週末、ACI-CSAI(イタリア自動車連盟モータースポーツ委員会)が“ACI-CSAI レーシング・ウイークエンド”と名付けられた一大レース・イベントを開催した。
この3日間ではFIA-GT3カテゴリーに準拠した“ACI-CSAIイタリアGT選手権”など総計10戦にも及ぶビッグレースが開催。それぞれ熱戦が展開されたが、中でもエントリー台数/レース内容ともに最も熱かったのが、アバルトとのコラボレーションによって開催される2カテゴリー。
才能ある数多くのレーシングドライバーたちにキャリアの第一歩を提供するためのシリーズ戦“トロフェオ・アバルト500セレニア・イタリア”と、未来のF1パイロットのためのフォーミュラ選手権“フォーミュラACI-CSAIアバルト”である。

2010年から開幕した“トロフェオ・アバルト500セレニア選手権”は、アバルト500をレーシングチューンした“アバルト500トロフェオ”によるワンメイクレース。古くは1970年代初頭のアウトビアンキA112アバルトの時代から、アバルトには若手ドライバーのための“トロフェオ選手権”用マシンを開発してきた実績がある。
そして、その伝統を現代に継承するかたちで2010年に開幕した“トロフェオ・アバルト500セレニア・イタリア”は、初めて本格的レースに挑戦するドライバーたちにとって、自身の腕を磨くとともに上位カテゴリー関係者にアピールするためにも貴重なチャレンジの場となっているのだ。

[上] 今回の“ACI-CSAI レーシング・ウイークエンド”で開催されたイタリアF3選手権。日本の黒田吉隆選手をはじめ、フォーミュラ・アバルト出身の若手も数多く出場したという。

[右] イタリアF3選手権で活躍する黒田吉隆選手(右)。昨季は名門ユーロノヴァ・チームからフォーミュラ・アバルトにフル参戦し、今季から同じチームでF3にステップアップした。

 
一方、今回の“ACI-CSAI レーシング・ウイークエンド”において、イタリアF3選手権と並ぶフォーミュラ戦となった“フォーミュラACI-CSAIアバルト選手権”は、カートレースや市販車ワンメイクレースから本格的フォーミュラにステップアップする若手ドライバーのために、同じく2010年からアバルト本社のオーガナイズのもと、イタリア国内で開幕されたシリーズ戦である。

アバルトが、今から40年以上も前から、市販車のコンポーネンツを大胆に使用したモノポスト・フォーミュラマシンを開発し、若手レーシングドライバー発掘のためのスカラシップ選手権を試みてきたことは、ヨーロッパのレースファンなら誰もが知る事実だろう。その起源となったのは1972年から開催された“フォーミュラ・イタリア選手権”。また1979年には“フォーミュラ・フィアット・アバルト”も開発し、リカルド・パトレーゼや故ミケーレ・アルボレート、あるいはアレッサンドロ・ナニーニに代表される歴代レジェンドたちの登竜門となってきた実績があるのだ。

その伝統が現代に復活したのが、“フォーミュラACI-CSAIアバルト選手権”。昨年からはイタリア以外の欧州主要サーキットでも“フォーミュラ・アバルト・セレニア・ヨーロッパ選手権”が開催されるほか、“フォーミュラ・ピロータ チャイナシリーズ”として、中国を中心とするアジアにも舞台を広げている。
  
 
そして今回のイモラでは、アバルト母国での開催となったせいか“トロフェオ・アバルト500セレニア”、“フォーミュラACI-CSAIアバルト”ともレースは格段にヒートアップ。

“トロフェオ・アバルト”では、真剣に上位カテゴリーを目指す若手とレースを純粋に楽しむアマチュア、いわゆる“ジェントルマン・レーサー”たちが入り混じり、激しくも楽しいレースが展開された。

いよいよグリッドに並ぶアバルト500トロフェオたち。ステップアップを目指す若きドライバーにも、純粋にレースを楽しむアマチュアにも、等しく勝利のチャンスが与えられる。

40年以上の歴史を誇るイタリア製の身障者用運転補助装置“グイドシンプレックス”を装着し、トロフェオ・アバルト500選手権にチャレンジする車椅子ドライバーの姿も見られた。その走りは健常者にも決して負けていないもので、彼の奮闘に勇気づけられたレースファンも多かったに違いない。まさにアバルトのスポーツ魂を地で行くドライバーだろう。

ホームストレートを駆け抜けるアバルト500トロフェオたち。すべてイコールコンディションで競われるワンメイクレースゆえに、純粋にドライバーの技量と度胸が問われる。

 
他方“フォーミュラ・アバルト”では、イタリアF3選手権や英国F3選手権、ひいてはF1GPへのステップアップを虎視眈々と目指す野心的な若手ドライバーたちによって、アグレッシヴなバトルが展開されることになった。

スタートを前にグリッドに就くフォーミュラ・アバルトたち。それぞれのドライバーが見据えているのは、イタリアF3か英国F3か、はたまたその先にあるF1GPだろうか?

最終コーナーを抜けてホームストレートに飛び込んでくるフォーミュラ・アバルト。ストレートのスピードは、上級カテゴリーに相当するF3にも大きくは負けていないという。

そしてイモラを訪れたレースファンたちにとっては、その本領を発揮する舞台であるサーキットで活躍するアバルトたちの勇姿を目の当たりにする一方、未来のレジェンド級ドライバーたちと夢を共有する、素晴らしい体験となったのである。