アバルトの聖地巡礼(アバルト本社訪問篇)

才能のある数多くの若手ドライバーたちに、そのキャリアの第一歩を提供するため、2010年から開幕した“トロフェオ・アバルト500セレニア選手権”。単座席フォーミュラにステップアップするF1ドライバーを目指す卵たちのために、同じく2010年からイタリア国内で開幕された“フォーミュラACI-CSAIアバルト選手権”。さらには“インターコンチネンタル・ラリー選手権(IRC)”における、アバルト・グランデプント/プントエヴォの大活躍。
新生アバルトのモータースポーツ活動は、かつて黄金時代を謳歌した1960年代にも負けない隆盛を極めていると言えるだろう。そしてアバルトのモータースポーツ活動の拠点は、今も昔も変わることなく、トリノ市街に置かれている。

現在のアバルトの発信基地は“オフィッチーネ・ミラフィオーリ”と称され、その名のとおりフィアット・グループの総本山、トリノ・ミラフィオーリ本社工場の巨大な敷地内にある。階段を上って正面玄関に入ると、吹き抜けの広大な建物内はさながら小さなアバルト・ミュージアム。595や695エディツィオーネ・マセラティなどの限定バージョンを含む現行型ストラダーレ(公道向け)各モデルとラリー用のアバルト500に加えて、かつてアバルトの栄光を作り上げてきたレース/ラリー用のマシンたち。そして1950-60年代に開祖カルロ・アバルトが執念を燃やしたスピード世界記録用の流線型レコードブレーカーたちが、アバルトの過去と現在を静かに語ってくれる。また、この“オフィッチーネ・ミラフィオーリ”内には、在りし日のカルロ・アバルトが使用した執務室も再現。現代のアバルトが、かつての栄光のヒストリーをいかに大切にしているかをうかがわせる。

現在のアバルトの総司令部、オフィッチーネ・ミラフィオーリ。アバルトの聖地の入り口である。一歩足を踏み入れると、そこはアバルトの殿堂。広大なショールームには、現代のアバルトの世界観が横溢する。

今年のジュネーヴショーで発表され、日本導入が待たれるアバルト695エディツィオーネ・マセラティと、日本のヤマハ発動機とのコラボレーションで製作されたヤマハFZ1アバルト・アセットコルセ(日本未導入)。

“トロフェオ選手権”のために製作されるアバルト500競技車両と、アバルト500をベースとするリミテッド・エディションも居並ぶ。

日本からお土産にお持ちしたイタリアン招き猫を手にご満悦のアルトゥーロ・メルツァリオ氏。かつてアバルトのワークスドライバーとしてキャリアを開始し、のちにフェラーリやアルファロメオでスポーツカー耐久選手権、さらにF1でも活躍したレジェンドは、アバルト・レーシングスクールの代表に就任した。後方に見えるのは、1950-60年代のアバルト製スピード記録マシン。

 
在りし日のカルロ・アバルトが使用していたコルソ・マルケの執務室は、オフィッチーネ・ミラフィオーリにも再現されている。

 

現代のアバルトの指揮を執る、アントニーノ・ラバーテ事業本部長。自動車ビジネス界の超エリートながら、とてもフランクな気質を持つ一方、アバルトを心から愛する好人物だった。

さらに、本来ならば立ち入ることの許されないアバルトの心臓部、本社オフィスと競技用マシンなどを担当するファクトリーも、今回は特別な許可をいただいて取材することができた。この工場では“トロフェオ・アバルト500セレニア選手権”用のアバルト500トロフェオ仕様や、このほど最新スペックに進化したばかりのアバルト695アセットコルセ。あるいは、間もなく限定生産を終えて、世界のファンのもとに発送されようとしているアバルト695トリブート・フェラーリたちなどが出迎えてくれる。

所定の限定生産をほぼ終了し、世界中のエンスージアストのもとに送られるのを待つアバルト695トリブート・フェラーリ。

また、世界的に見てもアバルトの熱狂的ファンが多いとされている日本からの訪問者を、現代アバルトを実質的に率いる事業本部長アントニーノ・ラバーテ氏や、アバルト・ドライビング・スクールの責任者に任命された、かつてのアバルト・ワークスドライバーのアルトゥーロ・メルツァリオ氏(!)などのセレブレティたちが大いに歓待してくれた。
そして、極め付きはアバルト695トリブート・フェラーリ“トリブート・アル・ジャポーネ。アバルトの日本に対する友情を、一台のクルマとして具現化した純白のアバルトをファクトリー内で初めて目の当たりにしたことで、我々は日本とアバルトの強い「絆」を再認識することになったのである。


東日本大震災の復興支援のため、日本市場のためだけに製作された純白のアバルト695トリブート・フェラーリ、“トリブート・アル・ジャポーネ”を、今回初めて見ることができた。

若手ドライバーのためのワンメイクレース“トロフェオ選手権”のために製作される、純粋なコンペティツィオーネ。ラバーテ本部長が自ら説明してくれた。

昨年のボローニャ・モーターショウで発表された、アバルト595とアバルト・プントエヴォ・スーパースポーツ。いずれも日本導入が待ち遠しいモデルであろう。