アバルトの聖地巡礼(トリノ案内編)

かつては“コルソ・マルケ38番地”、そして現在ではフィアット・グループのミラフィオーリ本社工場内“オフィッチーネ・ミラフィオーリ”に本拠を置くアバルト。この時空を超えたアバルトの2つの本拠地に共通するのは、ともに北イタリア・ピエモンテ州の州都トリノ市内に建設されていることである。

アルプス山脈を後方に望む美しい街トリノは、17世紀以来小国に分裂していたイタリアが1861年に統一を果たした際に、その中核として活躍したサヴォイア家サルデーニャ王国の古都。また、1899年に創業したフィアットとともに大発展を遂げてきたことから、アメリカ・デトロイトに擬えて「イタリアのモータウン」と呼ばれる町でもある。
今やイタリアのみならず全ヨーロッパでも最大級の規模を誇る巨人となったフィアットや、長い伝統と格式を誇るランチア。さらにピニンファリーナやベルトーネなどの名門カロッツェリアも、すべてトリノを本拠としている。そして2007年。かつてモータースポーツにおける華々しい戦果と、唯一無二のエキセントリックな魅力からイタリア大衆に圧倒的な支持を受けていたアバルトが大々的な復活を遂げたことで、モータウンとしての注目を再び浴びることになったトリノ。当然のことながらアバルトの聖地に相応しく、クルマ好きを引き付ける魅力がたっぷりの街なのである。

まずはアバルトゆかりの土地について。前回お届けしたアバルトの本社ファクトリー、“オフィッチーネ・ミラフィオーリ”は、フィアット・ミラフィオーリ本社の広大な敷地内に置かれていることもあって、正規予約されたツアーなどでもない限り来訪は困難かもしれないが、アバルト・ファンなら一度は行っておくだけの価値は絶対に“アリ”。これは現時点では未確認の情報なのだが、実はトリノ市公式の観光ガイドにも“オフィッチーネ・ミラフィオーリ”のツアー情報が掲載されているとのこと。また、私どもチンクエチェント博物館が年間数回のペースで行っているイタリアモーターツアーでも、ほぼ例外なく訪問させていただいているので、ご興味のある方はお気軽にお問い合わせいただきたい。

前回もお伝えした、アバルトのヘッドクォーター“オフィッチーネ・ミラフィオーリ”の正面ファザード。

オフィッチーネ・ミラフィオーリは、まさに新旧アバルトの殿堂。アバルト・ファンには是非とも訪ねていただきたい。

 
一方、予約なしの旅行者でも気楽に行けるのが、フィアット・グループ各ブランド(フィアット、アバルト、アルファロメオ、ランチア等)別の大型ショールームや、超美味ランチバイキングも楽しめるスタイリッシュなトラットリア/カフェ。そして、アウトレット商品もある大量ストックの公式アパレル/グッズショップなどの楽しい施設で構成された“ミラフィオーリ・モータービレッジ”である。ミラフィオーリ工場に隣接したこのメガショールームでは、グループ最新各モデルの試乗も可能で、まさに現代イタリア車のテーマパークとも言うべき存在となっているのだ。 

アバルトを含むフィアット・グループ各ブランドの複合ショールームを中核とするミラフィオーリ・モータービレッジ。あまりにも美しい外観に驚いてしまう。

最新モデルの試乗も可能。ただ、人気モデルの待ち時間はかなり長いので、時間の余裕を取って訪問されることをお勧めしたい。

美しく広大なショールームには、商用車も含むほぼすべての生産モデルが展示される。

各ブランドのアパレルやグッズが購入できるショップも併設。運が良ければ、アウトレット品に出会えることもある。いずれにせよ、財布のひもにご注意されたい。

 
また、2011年に新装オープンとなった“Museo dell’Automobile di Torino(国立トリノ自動車博物館)”や、現在では建物はそのまま超モダーンな複合商業施設に変身している旧リンゴット工場(往年のアバルトにゆかりの深いフィアットやランチア各モデルの生誕地)など、アバルト愛好家にとっては堪らないスポットも数多く存在する。
アバルトを愛してやまないファンには、是非とも訪れてもらいたい町、それがアバルトのみならず、イタリア自動車の聖地でもあるトリノなのである。

1923年に操業開始し、アバルトのベースとなったフィアット各モデルを送り出してきたリンゴット工場。
現在では巨匠建築家レンツォ・ピアノの手で大改装が施され、コンサートホール、劇場、ショッピングモール、ホテルなどの入った複合施設となっている。

リンゴットのカフェは、往年の工場時代を思わせる内装に設えられている。コンベアラインにぶら下がっているのは、初代フィアット500(通称:トッポリーノ)。

工場としての現役時代、屋上に設置されたテストコースに自走で上るための美しいらせん型スロープが、現代でも残されている。
チンクエチェントももちろんこの工場で生産された。
リンゴット工場から歩いで30秒(!)の位置にある、老舗トラットリア。その名もOsteria FIAT。
こちらも100年以上の歴史がある。

このトラットリアは創業がほとんどフィアットと同じ。長らくフィアットとともに歩んできたため、数多くのフィアット・グッズが展示される。

愛想のよいウエイトレスも、誇らしげにFIATのロゴを見せてくれる。