「コルソ・マルケ」について

「コルソ・マルケ(Corso Marche)」
というイタリア語をお聞きになったことがあるだろうか?日本語に直訳すれば「マルケ通り」。アバルトのオールドファンなら、おそらく感涙を禁じ得ないであろう、イタリア・ピエモンテ州の州都トリノ市内の旧い地名である。
とはいえ、単なる区域名に過ぎない「コルソ・マルケ」が、なぜアバルトを愛してきたファンにとって特別な意味を持つかといえば、このコルソ・マルケの38番地に、かつてアバルトの歴史的名車たちを送り出してきた本社ファクトリーが存在したからなのである。

オフィチーネ アバルトショールーム前、手前には試乗車が。
筆者もショールームのイタリア人に乗せてもらったがその運転のワイルドなことにただただ驚くばかり!

中に入ると往年の名車が額に並んでいる。マニアにはたまらないものばかり。


かの開祖カルロ・アバルトが1949年12月に独立、アバルト&C.社を創立した際には、同じトリノのヴィア・トレカーテ通りに小さな工房を構えていたが、モータースポーツでの華々しい戦果と生産モデルおよびチューニングパーツの大成功により、アバルト&C.社は急成長。1958年にコルソ・マルケに大規模な新工場を竣工したのち、1960年秋には本社機能もコルソ・マルケ38番地に移設されることになった。つまり、われわれ古来のアバルト・ファンが敬愛してやまないフィアット・アバルトの名作たちの多くは、このコルソ・マルケから誕生したことになるのだ。

そして2007年。現在のアバルトが大々的な復活を遂げた際には、アバルト本社は現在のフィアット・グループの本拠、ミラフィオーリ本社工場内に置かれることになった。ところが、往年の素晴らしいヒストリーとカルロ・アバルトたちが育んできたスピリットを何よりも大切にしている新生アバルトは、地元トリノの有力ディーラーとのコラボレーション企画として、かつての“聖地”コルソ・マルケ38番地のすぐ隣、コルソ・マルケ40番地に、現代アバルトのフラッグシップ・ディーラー「オフィッチーネ・アバルト
をオープンさせることになったのである。

ショールームもどことなく工場っぽさを演出している。

オフィッチーネとは「工場」ないしは「自動車修理工場」を意味するイタリア語。その名が示すとおり、単に車両販売を行う通常の販売ディーラーとは一線を画し、アバルト500やアバルト・プントエヴォに設定された“エッセエッセ”キット取り付けなどの正規チューニング、さらにはアバルト車でラリーなどのモータースポーツに参戦するチームのサポートも行っていた。

日本のアバルト復活は2009年だがイタリアは2008年、この撮影をした時は夢のような気がしたことを覚えている。

もともと期間限定プロジェクトというニュアンスの強かった“オフィッチーネ・アバルト”は、所期の目的が達成されたということもあって既にクローズされてしまっている。しかし、アバルトの正規C.I.を忠実に遵守したインテリアも併せて、アバルト古来の伝統であるチューニングやモータースポーツへの関与を前面に押し出したコンセプトは、のちに日本を含む世界各国で展開されたアバルト正規ディーラーにとっても、格好のお手本ともなったのである。

栄光の過去への敬意を最大限に保ちつつ、未来を見つめるアバルト。開祖カルロ・アバルトから始まるチャレンジングスピリットは、貴方のお近くのアバルト・ショールームでも感じることができると確信している。

パーツも整然と並んでいる。

この写真は現在のコルソ・マルケ38番地に入っている別会社だが、社屋などはアバルト時代のまま。感慨深い。