新旧「595」に共通する“アバルトマジック”をモータージャーナリストが読み解く

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走りがホットなスポーツモデルには扱いづらいイメージがあるかもしれない。しかし、ジャーナリスト森口将之氏は「アバルト 595」はその限りではないという。60年代のアバルトも走らせたことがある森口氏に、新旧「595」に共通する特徴について聞いた。

昔から扱いやすさと走りの熱さを両立していた

日常のドライブを快適にこなせる扱いやすさやプレミアムという言葉がふさわしい上質な仕立てを備えつつ、走り出せばイタリアの熱い情熱をあますところなく感じさせる「アバルト595」。小さなボディからは愛らしささえ漂わせているのに、ひとたびアクセルペダルを大きく踏み込めば、過激と呼びたくなるほど強烈なパフォーマンスを披露する。そのギャップにいつも魅せられる。

しかし一部のクルマ好きはそんな「595」に対して、「今のクルマはよくできているけれど、昔のアバルトはもっと扱いにくく乗りこなす楽しみがあった」などという声を聞くことがある。

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1963年に誕生した先代「595」。もっともベーシックなフィアット 500をベースにした、アバルトの入門車という位置付けだった。(写真:荒川正幸)

おそらくその人は、運悪く調子の悪いアバルトに乗ったか、ステアリングを握っていないのに想像でストーリーを作り上げたかの、どちらかだろう。なぜなら僕が取材でドライブした1960年代のアバルトたちは、扱いやすさや仕立ての良さを備えていたからだ。そのうえで、しかるべきシーンではとびきり熱い走りを味わわせてくれた。名前も同じ直系の祖先、先代「595」も例外ではなかった。

先代「595」は、空冷2気筒エンジンをリアに積んだ先代フィアット500をベースとして1963年に生まれた。車名のとおり排気量を500㏄から595㏄に拡大したほか、さまざまなチューニングを施すことで、最高出力を17.5psから27psにアップ。次の年に追加された高性能版の「595SS(エッセエッセ)」では、実に32psをマークしている。排気量で見れば500の1.2倍なのに、最高出力では実に1.8倍を達成していたのである。

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その性能の割に、見た目はおとなしかった先代「595」。そうした“羊の皮を被ったオオカミ”的なキャラクターもエンスージャストを魅了した。(写真:荒川正幸)

しかしボディは派手に飾り立ててはいない。一見するとフィアット 500そのものだ。それゆえに、アバルト専用となるノーズのエンブレムやフロント/リアのレタリング、そしてリアバンパーの下から覗く2本出しのマフラーとABARTHの文字が刻まれたオイルパンに思わず目がいく、という具合だった。

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2017年2月に実施された「595」シリーズ(呼称は500から595へと変更)のマイナーチェンジでは、「595」(標準モデル)のエンジン最高出力がMT・ATともに145psへと高められ、より刺激が強められた。

そういえば最新の「595」も、スピードレンジが上がったことでエアロパーツを装着し、パフォーマンスに対応して大径ホイールやワイドタイヤを組み合わせてはいるものの、これ見よがしな派手さはなく、親しみやすさと精悍さが絶妙に両立している。イタリアならではのテクニックだ。

ミニマムなキャビンもまた過剰な演出はない。ベースモデルと共通のコーディネートは、むしろおしゃれでさえある。しかし丸いメーターはスケールが細かくなり、リミットも10km/h上がって130km/hになっている。よく見れば下方に小さく、ABARTHの文字とサソリのエンブレムが書いてある。控えめな演出がとにかく粋だ。
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インテリアはシンプルでありながら、決して平凡ではなかった。(写真:荒川正幸)

エンジンの掛け方はこの時代のフィアット 500と同じで、シートの間から生えた2本のレバーの右側を引っ張ってスターターを回す。アバルトになっても掛かりにくいということはないし、後方から聞こえてくるバタバタというサウンドも似ている。

機能性や快適性を保ちながら走りをレベルアップ

でもスタートすれば、すぐに違いが分かる。スロットルレスポンスはゆったりしたフィアットとは段違いで、今のクルマ並みにスッスッと反応する。もちろん加速も鋭い。とくに2速の伸びははっきり違う。しかも低回転から扱いやすいのに、レブリミット近くでもさらに回ろうとする。

愛らしいスタイリングやセンスの良いインテリアとは対極にあるような、尖ったキャラクターに最初は驚かされる。でも、そこにあるのは新型「595」に限りなく近い世界だったりする。とにかく回したくなる。もっと踏みたくなる。刺されて本望、研ぎ澄まされた鋭さに引き寄せられる自分がいる。古くても新しくても、サソリの魔力を思い知らされるという点は共通なのだ。
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(写真:荒川正幸)

乗り心地は辛くない。サスペンションをローダウンしたという雰囲気はないし、タイヤサイズも同一だ。ところがコーナーに入ると安定感が全然違う。アクセルやブレーキ、ステアリング操作に対する揺れが抑えられ、小さな車体が生み出す小気味良い身のこなしだけが味わえる。

ハンドリングの限界は現在のアバルトと比べればかなり低いけれど、手のひらに伝わってくる感触は新型「595」に近い。自分と車体の気持ちがつながり、ひとつの熱い塊になっていく。駆け抜けるというより、突き抜けるという表現を使いたくなる走りっぷり。スポーツのエッセンスが凝縮しているからこそ、無心になって楽しめる。

歴代アバルトはレースでの活躍も有名だ。先代「595」も勝利を目指して開発され、ジャイアントキラーと呼ばれるほどの強さを発揮した。だからだろう、ペースを上げるほど焦点が合ってくる。小さなクルマを高度にチューニングしたからこそ手に入る、研ぎ澄まされた速さ。ゆえに一度足を踏み入れると、元に戻りたくなくなってしまう。

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マイナーチェンジでは内装もデザインがリファインされ、シートもよりスポーティな形状となった。

実用車としても通用する機能性や快適性、イタリア車らしいファッショナブルな装いをまとった、両手で包み込めそうなほど小さなクルマ。それがひとたび走り出せば、このうえなく鋭く熱いマシンとなって、ドライバーの心と体を揺さぶる。“アバルトマジック”。新旧「595」を体験したことで、その言葉の真意が分かったような気がする。

森口将之 
大学卒業後、自動車専門誌の編集者を経て、1993年にフリーランスのモータージャーナリストに。自動車やモビリティの最前線を取材し、独自の目線から読者にわかりやすく報じている。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。グッドデザイン賞審査委員。

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