プロに学ぶ アバルトの魅せ方

自動車雑誌を開くと必ず出てくるのが、クルマが颯爽と駆け抜けているシーン。 第一回目でクルマを停めた状態での撮影方法をご紹介したが、今回はさらに撮り方のバリエーションを増やし、動きのあるカットや、より味わいの深い画像の撮影テクニックに迫りたい。
これまでと同様に、撮影にはOLYMPUSのデジタル一眼「PEN E-P3」を使用した。まずは、アバルトの走っている画像について、プロカメラマンが実際に撮影した画像と共に考えてみよう。
PEN E-P3は、光学ファインダーではなく、筐体背面に備わる3.0型のタッチ機能付き有機ELモニターで被写体をフレーミングして撮影するスタイルを採用している。液晶モニターは、タッチ機能のお陰で直感的な操作が可能となっており、また被写体を大きな映像で確認しながら撮影できるため、動きのある被写体を撮る際にも大変便利だ。
しかし、例えばシャッター速度を遅くして背景を流す、いわゆる流し撮りをする場合には、やや扱いづらいというデメリットもある。詳しくは後述するが、走りの画像を撮る際には、背景や路面といったシチュエーションをいかし、速めのシャッタースピードで撮影するといった使い方の方が向いている。世界最速を謳うAFが、駆け抜けるアバルトをシャープに捉えてくれることだろう。
 
 
走りの撮影といえば、誰もが流し撮りを真っ先に思い浮かべるだろう。難易度の高い流し撮りだが、例えば街角の交差点で、 ごくユックリと走るクルマでもシャッター速度いかんでは、ここまでダイナミックな画像が撮れる。いずれも同じ交差点で撮影したものだが、一般的な右左折時よりさらにユックリとした速度で走っているところを撮影している。画角を傾けたり、 アートフィルターを使うことで躍動感を高めている点にも注目してほしい。(左/使用レンズ M.ZUIKO DIGITAL 14-42mm F3.5-5.6 II R、シャッター優先AE、絞りF22、1/40秒、露出補正-0.3、レンズ焦点距離14mm、アートフィルター:ドラ マチックトーン、 左/使用レンズ:M.ZUIKO DIGITAL 14-42mm F3.5-5.6 II R、シャッター優先AE、絞りF22 1/40 秒、露出補正-0.3、レンズ焦点距離14mm、アートフィルター:ドラマチックトーン)
 
しかし、例えばシャッター速度を遅くして背景を流す、いわゆる流し撮りをする場合には、やや扱いづらいというデメリットもある。詳しくは後述するが、走りの画像を撮る際には、背景や路面といったシチュエーションをいかし、速めのシャッタースピードで撮影するといった使い方の方が向いている。世界最速を謳うAFが、駆け抜けるアバルトをシャープに捉えてくれることだろう。
走っているクルマを撮影する場合、クルマを真横から撮ろうとすると難易度が一気にあがるため、最初はやや正面気味に自分の方へ迫ってくる、または自分の撮影ポイントから走り去っていく後ろ姿から始めるとよいだろう。ピントは賢いAFにまかせ、液晶の中で大きくなっていく、もしくは小さく走り過ぎていくクルマの大小に合わせてシャッターを切ればよい。連写して、複数のカットからもっとも鮮明に撮れて いる画像を後からセレクトするという手もあるが、撮影を楽しみテクニックを身につけるという観点から言えば、ココ一発を狙って1枚撮りするのもいいだろう。
動く被写体の撮影に慣れてきたら、やはり流し撮りをしてみたくなるのは当然の欲求だろう。PEN E-P3 の場合、目の前を走り抜けるアバルトにレンズを向け、下半身を固定したまま上半身だけを腰を軸に左右 に回せば、走り抜けるアバルトをクッキリとモニターに映し出し続ける。問題なのは、シャッターを切る瞬間だ。シャッターボタンを押せば瞬時に画像は記録される。だが、シャッターを押した瞬間から僅かな間だけ、モニターからライブ映像が消えてしまう。ゆえに、連写しながら被写体を追い続けることが困難 であり、一発で勝負をかけざるを得ない。これは、実は相当に難易度が高い。普段から自動車を専門に走りの撮影をしているプロカメラマンでさえ、やや手こずっていたのが現実だ。
 

流し撮りは、連写をするとシャッターが切れるたびにモニターからライブビューが一瞬消えるため、プロカメラマンも悪戦苦 闘したものの、慣れればこのくらいの画像を撮ることは可能。左の画像は渾身の一発だが、右の画像だとホイールがほぼ止 まって見えるため、走っているイメージは若干薄らぐものの背景は流れている。(左/使用レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0-5.6 R、シャッター優先AE、絞りF4.0 1/000秒、露出補正-1、レンズ焦点距離49mm、 右/使用レ ンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0-5.6 R、シャッター優先AE、絞りF4.5 1/250秒、露出補正-1、レンズ焦 点距離49mm)
 
 

  • 自動車を専門に撮影する神村聖氏の流し撮りスタイル。基本に忠実になるべく上半身を固定したまま、腰を軸に左右にレンズを振る。視点と液晶の距離が離れているのがお分かり頂けよう。できれば電子ビューファインダーは用意したい。


  • オプションパーツとして用意される電子ビューファインダー「VF-3」。走りの撮影にはかなり役立ってくれそうだ。E-P3は液晶モニターの視野率が100%なので、モニターによるフレーミングでも十分だが、電子ビューファインダーがあればフレーミングをキッチリと行いたいときにも便利だ。



 
また、脇をしめて上体をなるべく動かさない様にしながら、カメラを左右に水平移動させる際には、様々な状況で非常に便利である液晶モニターが仇となる。クルマがフレームいっぱいにキレイに収まるその一瞬を捉える場合には、液晶で見るよりもファインダーを使った方が使いやすい。両手を前に突き出して拳銃でポイントを狙うよりも、抱え込むように構えたライフルで目のすぐ前の銃身で照準を合わせた方が精度が高まるのと同じ理屈だ。流し撮りをするのであれば、オプションで用意される電子ビューファイン ダーVF-3はぜひ手に入れたいところだ。
とはいえ、常日頃から流し撮りだけを撮る訳ではないだろうから、多くの場合において使い易く優れた利便性をもたらす液晶モニターのありがたみが上回るだろう。また、走りゆくアバルトを臨場感豊かに記録として残したい場合には、1920×1080のフルハイビジョンムービーとして使うことだって可能だ。高画質なムービー撮影ができるという点もPEN E-P3の美点である。

コーナーを立ち上がりの正面気味のカット。コーナー外側のサスペンションがストロークしており、正面から撮っても走りの印象を与えることができる。そこに若干のブレが加わるとさらにダイナミック感を強調できる。ブレてはいても、ナンバープレートにしっかりとピントが合っている。(左/使用レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0-5.6 R、シャッター優先AE、絞りF7.1 1/250秒、露出補正+0.3、レンズ焦点距離150mm、 右/使用レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0-5.6 R、シャッター優先AE、絞りF11 1/000秒、露出補正0、レンズ焦点距離150mm)
 
走りの撮影で、流し撮りとは違った方法を使ってクルマの躍動感を演出するテクニックについても触れて おこう。正面から迫ってくるクルマを撮影した場合、大抵はクルマが止まっているかの様な画像になりがちだ。だが、例えばコーナーから立ち上がってくる瞬間だとか、ブレーキングから操舵し始めた瞬間を狙えば必然的にダイナミックな画像が撮影できる。それは、クルマが大きく姿勢変化しているためだ。ロールしている、あるいはフロントノーズが沈み込み前輪が横を向いている、そんなシーンで撮影をすれば、 クルマの動きを見る者に伝えることができる。
そして、同じシチュエーションで、シャッター速度を少しだけ遅くすれば、効果的なブレも期待できる。 一般的にブレている画像と、ピントが合っていない画像を混同してしまいがちだが、同じ様にどこかボヤっとした画像でも、ブレている画像はどこか一点にピントはしっかりと合っている。逆に、ピントが あっていても、画像の全体がブレている場合もある。ブレている画像の判断は、好みによる所も大きいが、まずはどこか一点にピントが合っている状態を目指し取り組んでみる。その内に勘所が掴めるハズ だ。ブレを効果的に使えれば、撮影の幅もグッと広がることだろう。
 
同じ場所で、同じレンズで撮影した置きのカット。絞りを変化させて背景をクッキリ写したものと、背景をぼかしたものを比 較のために撮影。(左/使用レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0-5.6 R、絞り優先AE、絞りF22 1/10秒、 露出補正+1、レンズ焦点距離150mm、 右/使用レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0-5.6 R、絞り優先AE、 絞りF5.6 1/125秒、露出補正+1.3、レンズ焦点距離150mm)


 
 
走りの撮影テクニックはこれくらいにして、せっかくのデジタル一眼なのだから、レンズの特性をいかした撮影についても述べておこう。
クルマを停めて撮る場合、多くの人がクルマの側に寄っていってカメラを構える。だが、デジタル一眼であれば望遠レンズを使って遠くからズームして撮影することだってできる。広角になればなるほど、画像にパースがつく反面、望遠レンズであればクルマの形を正確に表現できる。また、周囲に余計なモノがない所を選ぶのは言うまでもないが、同じ場所でもアングルを変えればクルマは違った表情を見せてくれる。
 
クルマを置いて撮影する場合、クルマの側に寄って撮る以外に、遠くから望遠レンズで狙うという方法もある。クルマがよりシャープに浮き出て、スタイリングを明確に再現することが可能。また、望遠レンズで狙う際も、アングルを上下させるだけでイメージはガラッと変わる。背景を効果的に使うか、クルマを全面に押し出すかで使い分けよう。(左/使用レンズ: M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0-5.6 R、絞り優先AE、絞りF4 1/125秒、露出補正+1、レンズ焦点距離 62mm、 右/使用レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0-5.6 R、絞り優先AE、絞りF4 1/125秒、露出補正 +1.3、レンズ焦点距離62mm)
  
レンズの特性をいかして、ボケ味を楽しむというのも、デジタル一眼ならではの醍醐味だ。PEN E-P3に は、ライブガイドという機能が実装されており、被写体を狙った状態で液晶に表示されるガイドをスライドさせることで、背景のボケ具合や、色の鮮やかさ、色合い、明るさなどを自在にコントロールできる。 シャッターを押さなくても、リアルタイムで補正が反映されるので撮影をもっと楽しめる上、勉強にもなる。望遠レンズでアバルトを狙ってライブガイド機能を使えば、背景を簡単にボカすことが可能なのだ。しかも、ボケ具合を調整し、それを確かめてから撮影できるので便利極まりない。あらゆる調整を現場で確かめて、次はマニュアル操作で自分の腕を確かめる、そんな写真の先生にもなってくれるのだ。
PEN E-P3が備えるライブガイド機能を使えば、ご覧の様に背景をぼかすのも簡単操作で行える。機能を呼び出し液晶のスライドバーを上下させるか、筐体背面に配されたダイアルを回して調整する。調整しながらにその様子をモニタリングできるの で、スキルアップにも役立つ便利で効果的な機能だ。(左/使用レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0-5.6 R、絞り優先AE、絞りF22 1/000秒、露出補正+1.3、レンズ焦点距離89mm、 右/使用レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0-5.6 R、絞り優先AE、絞りF4.9 1/000秒、露出補正+1.3、レンズ焦点距離89mm)
 
 
置き撮影編に続き、基礎テクニック編として、走りの撮影をメインにご紹介したが、カメラ技術の進歩は 凄まじく、PEN E-P3を使えば今までよりもさらに撮影のバリエーションが増えることは間違いない。レンズを使い分ける本格的な撮影を、手軽に、そして簡単に行える。多機能で使えこなせず宝の持ち腐れになる可能性があるデジタル一眼レフより、多彩な撮影スタイルを賢い機能を使って学べ、スキルアップと同時にオリジナリティーに富んだ画像を撮影することができるデジタル一眼は、多くの方にとって非常に魅力的であろう。その中でも、多くの専門家がイチオシするOLYMPUS PEN E-P3は、デジタル一眼の大本命なのである。
 
オリンパスのデジタル一眼であるPENシリーズの最上位モデル。高機能で高性能 なのはもちろん、描写力の高い M.ZUIKO DIGITAL 14-42mm F3.5-5.6 II RとM.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0-5.6 Rという2本のレンズを通した映像を鮮やかなデジタル データに変換する高感度なLive MOSセンサーと、演算能力に優れる画像処理エ ンジンを搭載し、コレ1台で撮影が完結する手軽さも魅力だ。


 
 
 
神村 聖
フリーランスで活躍するプロカメラマン。自動車専門誌はもちろん、一般紙やWeb媒体など、クルマをメインに様々なメディアで活躍中。本ウェブマガジンのフォトも氏によるもの。