熟成期間100年!? 作り手の想いと歴史が凝縮した「Malpighi(マルピーギ)」社のこだわりのバルサミコ

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「世界最高峰のバルサミコを日本に届けたい」

イタリアの豊かな風土と作り手のこだわりが詰まった“本物”だけを扱う田園調布のイタリア食材専門店「BELLISSIMO(ベリッシモ)」。確かな選択眼と、それを日本に伝えたいという情熱を持つ清水良二さんが体当たりで作り手に交渉し、ひとつひとつ信頼を得ながら、納得のいく食材だけを扱っている。

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ベリッシモ代表の清水良二さん。靴メーカーでキャリアを積みイタリアへの買い付けを多数行う中「イタリアへの愛情と食に対する好奇心」が自らの武器であることを実感し、2001年、イタリア食材のネット販売をスタート。後に店舗も構えて現在に至る。

今回読者諸氏にご紹介したいのは本物のバルサミコ。「世界一の」と冠しても何ら問題はないと思える代物だ。清水さんがベリッシモを立ち上げた当初に輸入した食材の第一号がこのバルサミコだったという。
「木箱に入った一瓶は当時でもかなりの価格でしたが、私の琴線に触れたんです。作り手の想いと豊かな味わいに感動し、日本に紹介しなければという一心で、マルピーギ社に直接交渉しました」

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パスタにオリーブオイル、ワインにグラッパ、ポルチーニ、バジルペースト、ハーブソルト、チョコレート・・・豊かな食材に囲まれる幸福感はベリッシモに脚を運んで体感していただくとして、今回はバルサミコに注目したい。

本物の“トラディツィオナーレ・バルサミコ”とは?

バルサミコ酢の歴史はモデナの公爵エステ家の歴史でもある。ゆえにエステ家の領地、モデナとレッジョ・エミリアでつくられたものしか「伝統的なバルサミコ(=“トラディツィオナーレ・バルサミコ”)」を名乗ることはできない。

バルサミコの名はバルサム(芳香)に由来する。公爵の愛したその芳醇な香りこそがバルサミコなのだ。原料は葡萄だが、熟成するうちに水分が飛んで成分も香りも凝縮され、そこにオークやサクラやトネリコなど熟成樽の木の香りが絡み合って、得も言われぬバルサムをまとうようになる。
「オリーブオイルは鮮度が命ですが、バルサミコは年月を経たものほど価値があります。年代物はコレクターズアイテムのような面もありますし、大切な記念日にギフトとして贈られる方も多いです」

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12年、25年熟成でも十分に貴重だが、50年以上となれば言わずもがな。とくに写真のこちらは「世界一」希少といっても過言ではないマルピーギ社の100年熟成バルサミコ。気の遠くなるような歳月を樽の中で過ごし、慈しまれながら熟成を重ねた逸品中の逸品だ。

試しに家のキッチンを見てみると、5年ものと8年もののバルサミコがあった。普通に考えれば十分に長い熟成期間に思える。しかし、このくらいの熟成ではまだ酸が際立ち、バルサミコというよりバルサミック・ヴィネガーの域を出ない。“トラディツィオナーレ・バルサミコ”とは、バルサミコ協会による厳格なブラインドテストに合格し、DOP(原産地呼称による認定)の指定を受けたものだけに与えられる名誉ある称号だ。

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バルサミコ協会が20年ほど前に採用したという、ジウジアーロのデザインによるDOP専用ボトル。トラディツィオナーレ・バルサミコと認められたものだけがこのボトルの使用を許され、協会の登録番号シールを貼られたのちに販売される。木箱には、作り手からの証明書も収められ、サインも入る。

「バルサミコ協会のDOP認定を受けるには、熟成の途中で一切の添加物を加えず、モデナ地区とレッジョ・エミリア地区で最低12年以上の熟成期間を経て、さらにその年数分の香りと味わいを確実に有していることが必須条件。12〜24年までヴェッキオ(古い)、25年以上はストラヴェッキオと呼ばれます。輝かしいツヤと複雑なアロマ、深い味わい。これこそが、“芳香酢”と呼ばれるゆえんです」

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ベリッシモではマルピーギの12、25、50、100年のほか、手頃な5年熟成も扱う。「さすがマルピーギ、5年でも気品があっておいしいです。でも、12年以上経つとやはり別格。100年熟成も味見しましたが、もう言葉を失うばかり。とにかくうまい、としか言えません」

歴史を重んじ本物だけをつくる老舗「Malpighi(マルピーギ)」社

現在流通しているバルサミコの大半は、添加物を加えて調味した熟成の浅いもの。清水さんが絶対の信頼を寄せるマルピーギ社は、イタリア国内で年間6万本程度しか認定されないといわれるトラディツィオナーレ・バルサミコの約3割を生産する、1850年創業のバルサミコ専業メーカーだ。加工品の大量生産が主流になりつつある他のバルサミコメーカーを尻目に、スローフードの推進者として葡萄果汁のみの手作りにこだわり、伝統の製法を脈々と受け継いでいる。

バルサミコ発祥の地モデナの歴史を重んじるマルピーギの作り手が手塩にかけて熟成させたバルサミコ。100年熟成は日本でも年に何本かは売れるというが、入手された方は「100年経ったバルサミコの風味」だけでなく、その背景にある歴史や物語までも一緒に味わっているに違いない。

さて、トラディツィオナーレ・バルサミコの使い方だが、ソースとしてドボドボ入れる必要はない。ほんの数滴たらすだけで、存分に香りと味わいが楽しめる。とりわけ100年熟成は、単体で味わっても十分なほど豊かで芳醇な仕上がりだ。まさに、モデナ公も味わったのであろう王侯貴族の世界。一本16万2千円の高級品だが、少しずつ使うので、一晩でなくなるワインよりも長く楽しめる。

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熟成の浅いものだとハチミツなどと一緒に軽く煮詰めて甘味ととろみを追加することもあるが、マルピーギの100年ならそのまま数滴垂らすだけ。良質なオリーブオイルと塩、そしてバルサミコ、これだけで非常に美味な鮮魚のカルパッチョが楽しめる。

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牛肉のかたまりに塩コショウでしっかり下味をつけ、表面だけをまんべんなく焼いて薄切りにしたタリアータ。オリーブオイルをまわしかけ、パルミジャーノ・レッジャーノを散らして、仕上げに数滴の100年バルサミコを。

バルサミコは良質なオリーブオイルとことのほか相性がいい。ほのかな酸味とマイルドな甘味を持ち合わせたその味わいは、一流レストランを思わせる仕上がり。パルミジャーノにしろ、オリーブオイルにしろ、バルサミコにしろ、本物の食材を使うことで料理の腕はあがる、と実感させてくれる。そしてそれこそが、ベリッシモの食材が教えてくれることなのだ。

清水さんの愛車は『アバルト 595C ツーリズモ』!

「どんな商品でもまずは自分がファンになり、作り手と直接話し、工程も見せてもらい、すばらしさを理解します。本物はすべてにおいて決して妥協していません。だからこそ人を喜ばせることができるし、そんな商品だから私もお客様に自信を持っておすすめできるのです」

自然に寄り添うイタリア人のライフスタイルを愛し、彼らが育てる本物の食材を私たちに届けてくれる正真正銘のイタリア愛好家、清水さん。運転が大好きだという彼が愛車として『アバルト 595C ツーリズモ』を選択したのは必然だったのかもしれない。ベリッシモを訪れたら、豊富な食材知識とともに、愛車への想いを直接聞いてみるのも楽しそうだ。

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「今まで乗った中で群を抜いて運転の楽しさを感じさせてくれるクルマ。マシンを操っている感覚がたまりません。道が狭いイタリアでもそうですが、この辺りも小型車のほうが重宝するんです。とはいえ運転好きなのでスポーツタイプがいい・・・まさにベストな選択でした」

BELLISSIMO
田園調布本店
東京都大田区田園調布2-49-3
03-3722-2522
11:00 – 19:00(火曜日定休)

Photo: SHIge Kidoue
Text: Kaoli Yamane