アバルト伝説を築いた男たち②【マリオ・コルッチ技師】

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20世紀イタリアの自動車テクノロジーは、“インジェニェーレ(Ingegnere)”と呼ばれる天才的なエンジニアたちが築き上げてきました。第二次大戦前のアルファロメオおよびランチアにおけるヴィットリオ・ヤーノ技師は、その最たる例と言えます。

また、フェラーリ初期のテクノロジーを構築し、のちにアバルトの“ビアルベロ”ユニットも開発したジョアッキーノ・コロンボ技師もまた、自動車史に冠たる存在とされています。それでは、アバルトにおける“インジェニェーレ”と言えば、やはり筆頭に挙げるべきはマリオ・コルッチ技師でしょう。

1960~1980年代のアバルト・テクノロジーを象徴する“レジェンド”的エンジニアと称されるコルッチ技師は、『アルファロメオ・ジュリアTZ/TZ2』(1963~1966年)の技術的ベースとなった、『アルファロメオ・アバルト1000ベルリネッタ』(1960年発表のコンセプトカー)の開発を担当した縁で、カルロ・アバルトの目に留まった人物。カルロ・アバルトは、彼のたぐい稀なシャシー設計能力を見出し、アルファロメオからのヘッドハンティングを行ったとされています。

カルロの引き抜きに対して、アルファロメオ首脳陣は難色を示し、アバルト社との間に結んでいたジュリエッタ用エキゾーストシステムの取引を停止してでもコルッチを引き留めようとしたとされています。

しかし、コルッチの才能を必要としていたアバルトは敢然と立ち向かい、1960年初頭に、コルッチを技術部門のマネージャーとして迎え入れることになりました。ちなみに、アルファロメオとの関係は、その直後に復旧したと言われています。

シャシー設計のスペシャリストであるコルッチ技師がアバルトで最初に手掛けたのは、それまでの『ビアルベロ1000』に代わってFIA-GT小排気量カテゴリーの主戦兵器となるべきGTマシン、『アバルト・シムカ1300GT』でした。直後には、グループ6スポーツプロトタイプの傑作、ミッドシップ・エンジンを採用した『1000SP』を設計。のちのアバルト製グループ6レーシングカーも、ほとんどが彼の作品でした。

また、『フィアット600』をベースとする『850TC/1000ベルリーナ・コルサ』や、『フィアット850』がベースのOT1000シリーズなども、すべてコルッチ技師がシャシー開発を指揮しました。

さらに1971年をもって、ABARTH & C.社がフィアット・グループ傘下に入ったのちにも、『フィアット・アバルト124ラリー』や『フィアット131アバルト』などの傑作を開発したコルッチ技師は、『ランチア037ラリー/デルタ038』を作り上げた1980年代半ばまで、アバルトとその後身のために働いたのです。

そして60歳となった1985年に、体面上はペンシオーネ(年金生活)に入るが、その後もコンサルタントとしてアバルトに出入り、WRC選手権に出場する『ランチア・デルタHFインテグラーレ』や、DTM選手権を闘った『アルファロメオ155』などにも貴重なアドバイスを行ったと言われています。

ところで、1960年代には最新テクノロジーだったミッドシップのエンジン配置を推進させようとしていたコルッチ技師と、ポルシェ設計事務所との深い関わりから旧来のリアエンジンに執着していたカルト・アバルトの間には、技術的な意見の相違に端を発する確執があったのは有名なエピソードです。ただ、お互いの能力を誰よりも理解していたゆえに、コルッチ技師は1971年にカルロが会社を去るまで、忠実な部下として働き続けました。

そしてカルロ・アバルト逝去の約半年前となる1979年のある春の日、闘病中だったカルロは、隠居の地である故郷ウィーンから、遥々トリノのコルソ・マルケのオフィスを訪れました。その様子をたまさか見つけたコルッチ技師は、何も言わずにただ抱擁したといいます。

それは、カルロ・アバルトとマリオ・コルッチの間に、あたかも戦友のごとき堅い絆があったことを示す、何よりの証だったのでした。

0201971年にカルロ・アバルトが会社を去る際に受け取った銀のトレーを手にするコルッチ技師。
トレーには「コルッチ技師へ、勝利に恵まれた美しい生涯をありがとう。」と書かれている。

0301980年代初頭に完成した『フォーミュラ・フィアット・アバルト2000』。その開発にあたったアバルト・レーシングファクトリーの技術者たち。中央にいるのがコルッチ技師。

INFORMATION

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嶋田智之さんによる『ABARTH 695 biposto』レポートはこちら
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