FIAT ABARTH 124 RALLY|アバルトの歴史を刻んだモデル No.029

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1972 FIAT ABARTH 124 RALLY
フィアット・アバルト124ラリー

ラリーに挑むアバルトの回答

アバルトのクラシックモデルの中で、近年一躍注目を集める存在となったのが「フィアット・アバルト124ラリー」(アバルト124ラリー)だ。2016年に発表されたアバルト124スパイダーがオマージュとしたこともあり、ここにきて雑誌やウェブで見かける機会が増えている。そこで今回はアバルト124ラリーを取り上げよう。

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ベースとなったフィアット124スポルト・スパイダーはエレガントなオープンモデル。当初はDOHC 1.5リッター・エンジンを搭載していた。

まずはアバルト124ラリーのベースとなったフィアット124スポルト・スパイダーについて簡単におさらいしたい。1960年代半ば、フィアットはベルリーナ(4ドアセダン)をベースに、クーペやスパイダーのバリエーションを拡充していた。そうしたなかフィアット124ベルリーナのオープンタイプとして1966年秋のトリノ・ショーで発表されたのがフィアット124スポルト・スパイダーである。スタイリングはピニンファリーナが担当し、スタイリッシュなデザインが特徴だった。エンジンは当初から先進的なDOHC形式が採用され、1438ccの排気量から90HPを発揮した。その他のメカニズムも5速トランスミッション、4輪ディスクブレーキと、当時のスポーツモデルの先端をいく内容を誇り、世界中で好評を持って迎えられた。

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アバルト124ラリーのリアビュー。ストラダーレ(市販の公道仕様)でもアバルトならではの凄みを主張した。

1970年代に入りフィアットは、ブランドのプロモーションの一環として、国際ラリーにワークス体制で挑むことを決める。まずはフィアット124スパイダーを改造して挑んだが、その後さらなる戦力アップを図るために、白羽の矢が立てられたのがフィアット・グループ内で競技車の開発を中心に担当していたアバルトだった。長年にわたるレーシングマシンの開発能力の高さを期待されての判断だった。

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ダッシュパネルはフィアット124スポルト・スパイダーのものを踏襲する。この車両のステアリングホイールとシートはノンオリジナル。

当時、国際ラリーを戦うラリーカーはFIAの特殊GT(グループ4)車両により競われており、アバルトもグループ4規定に対応する内容で開発を始める。競技車に選ばれたのは当時のラインナップのなかで軽量コンパクトだった124スポルト・スパイダーだった。グループ4規定で公認を得るためには400台以上の生産義務が課されていたため、ベース車両の市販化を考慮して、実用性を考慮したチューニング内容とされた。

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ホイールは精緻な4スポーク・デザインのクロモドラ製CD30アバルトタイプに、185/70 VR 13のピレリCN 36が組ま込まれた。

グループ4車両として公認を受けるとその後は基本設計の変更はできないため、設計段階で必要な装備を盛り込んでおく必要があった。一定の条件下で走るサーキットに対して、ラリーの場合はターマック(舗装路)からグラベル(砂利道)までの幅広い路面状況に対応するため、懐が深い調整代の大きいサスペンションが必要になるのである。

そこでアバルトはサスペンションを一新した。フロントは124スポルト・スパイダーのダブルウイッシュボーンを継承しつつラジアス・ロッドを追加し、リヤはリジッドアクスルだったものを、逆Aアームで位置決めしたマクファーソン・ストラットにパナール・ロッドを組み合わせた独立懸架方式とされた。こうした変更が必要と判断された部分を思い切って作り直す手法は、長年のフィアット量産モデルをアバルト仕様に仕立て上げる手法と同様だった。

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ラリー用のグループ4仕様車。前後のフェンダーは拡大され、追加された補助灯と相まって戦闘的なアピアランスを放つ。

あわせて重量を軽くするためにバンパーを外し、代わりにラバー製のオーバーライダーが組まれ、エンジンフード、トランクリッドはFRP(ファイバーグラス)製とされ、ドアパネルはアルミ製に改められた。ハードトップもFRP製で、リヤウインドーはプレクシグラス(アクリル)にすることにより車重はフィアット124スパイダーに比べ25kg軽い938 kgまで落とされた。

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フロントに搭載されるエンジンはDOHC直列4気筒で排気量1,756 ccのティーポ132。アバルトの定番チューニングにより128 PS/6200 rpmを発揮。

エンジンはフィアット124スパイダーに搭載されている排気量1,756 ccのDOHC直列4気筒「ティーポ132」を受け継ぎ、市販モデルはツインチョークのウェーバー44 IDFとお得意のマルミッタ・アバルト(エキゾーストシステム)を組み込むことにより128 PS/6200 rpmを発生。エンジンは後のチューニングが許されているため、ベースモデルでは実用性を考慮したチューニングだった。組み合わされるギヤボックスは、フィアット版ではオプションの5速となる。

エクステリアではエンジンフード、トランクフード、ミラー、ハードトップ、追加されたフェンダー・アーチがマット・ブラックで塗られ、アバルトであることを主張していた。ホイールは5.5J-13サイズで、4スポーク・デザインが美しいクロモドラ製CD30アバルト・タイプに、185/70 VR 13のピレリCN 36が標準で組み込まれた。

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この角度から見るとリヤフェンダーの張り出しがよく分かる。ホイールはクロモドラ製の14インチに変更された。

こうしてアバルト124ラリーは1972年11月に発表され、同時にアバルト・ファクトリーではそれをベースにさらなる改良を施したグループ4のラリー仕様が作られた。フロントのオーバーフェンダーは拡大され、リヤフェンダーは大きく張り出したFRP製が組まれ、リヤ周りに冷却のためのエアインテークも設けられていた。またエンジンフードは補助灯を組み込んだタイプを採用した。

エンジンは圧縮比を11.0:1に高めると共にウェーバー44IDF20を2基組み込むというアバルト定番のチューニングにより最高出力は175HPまで高められた。潤滑方式もドライサンプに変更され、オイルクーラーも追加されている。

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デビュー戦となった1973年のモンテカルロ・ラリーのアイスセッションに挑むワルデガルド/ソルツェリス組のワークスカー。

完成したアバルト124ラリーは1973年1月1日付けで車両公認を取得した。WRCのデビューは1973年シーズンの開幕戦となるモンテカルロ・ラリー。4台体制で挑み、ラファエル・ピント/アルナルド・ベルナキーニ組が7位に入ったものの、他の3台はリタイアに終わる。しかし続くスウェディッシュ・ラリーで5位、ポルトガル・ラリーで4位と次第に本領を発揮し始めた。第6戦のアクロポリスでは2、4位でレースを終え、そして第7戦のポーランドで念願の初優勝を成し遂げた。また、地元イタリアでのサンレモ・ラリーは2、4、5位を勝ち取り、1973年のメイクス・シリーズ・ランキングは2位を獲得した。このほかヨーロッパ・ラリー選手権(ERC)でも活躍し、常に上位に食い込む活躍を遂げた。

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1975年に発行されたドイツ版のカタログ。イタリアン・トリコローレをイメージした色使いが施されていた。車両の説明は1ページのみで、1975年グループ4仕様のスペックとストラダーレの透視図だけで説明文は一切ない。

1974年は開幕戦のポルトガル・ラリーで1-2-3フィニッシュを遂げ幸先の良いスタートを切る。しかし同じフィアット・グループ内のランチアが、ラリー専用の純レーシングマシンといえるストラトスを投入したことにより、市販車を改造したアバルト124ラリーで対抗するには限界があった。最終的にエンジンを1839ccまで拡大すると共に4バルブ化し210HP以上までパワーアップして健闘したものの、1974年と1975年のメイクスランキングは共に2位に留まった。

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カタログ内面は1968年からのフィアット124スパイダー・グループ4および、アバルト124ラリーの1975年までのレーシングヒストリーが記されている。
こうしてラリー・フィールドで活躍したアバルト124ラリーは、1976年1月のモンテカルロ・ラリーを6、8位でフィニッシュしたのを最後にワークス活動を終え、6月のモロッコ・ラリーで後継モデルとなるフィアット131アバルト・ラリーにバトンを渡した。しかしアバルト124ラリーが持ち続けた闘志はその後も受け継がれた。先頃復活したアバルト124ラリーにもそのスピリットを感じ取ることはできる。

1972 FIAT ABARTH 124 RALLY Stradale

全長:3915mm
全幅:1630mm
全高:1240mm
ホイールベース:2280mm
車両重量:938kg
エンジン形式:水冷直列4気筒DOHC
総排気量:1756cc
最高出力:128HP/6200rpm
変速機:5段マニュアル
タイヤ:185/70 VR13
最高速度:190km/h以上