ABARTH 695 TRIBUTO FERRARI|アバルトの歴史を刻んだモデル No.025

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2009 ABARTH 695 TRIBUTO FERRARI
アバルト695トリブート・フェラーリ

夢のコラボレーション

アバルトとフェラーリは、いずれもレースで勝利を得るために設立され、実戦を通じて市販モデルを磨き上げることを慣習としてきたメーカーだ。ほぼ同じ時期に設立され、数多くの栄光を勝ち取ってきた点も共通する。アバルトは小排気量クラスを戦い、フェラーリは大排気量クラスで活動していたため直接戦いを繰り広げたのは稀だが、時折2リッター以下クラスで凌ぎを削ることはあった。

フィアット・グループ入りしてからのフェラーリはF1を中心に戦い、アバルトはラリーフィールドを舞台に数多くの栄光を勝ち取ってきた。2007年にアバルトが独立したブランドとして復活し、そこで再びアバルトとフェラーリは新たな局面を迎えることとなった。

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695トリブート・フェラーリのエクステリアは、当時のフェラーリを代表するモデルだった430スクーデリアと同様のカラースキムにより、特別なモデルであることを主張していた。

同じフィアット・グループ内のメーカーという縁から、偉大なる2ブランドによるコラボレーションが実現したのだ。その名は「アバルト695トリブート・フェラーリ」。アバルト500をベースに、2ブランドに共通する情熱やスピリットを体現したモデルだ。500ベースのアバルトの最強モデルであることを示す「695」の名を冠し、イタリア語でトリビュートを意味するトリブートが車名に加えられた。

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ジアッロ・モデナ(イエロー)は合計299台が製作され、日本には30台が正規輸入されている。

695トリブート・フェラーリは、2009年のフランクフルト・モーターショーで発表され、世界限定1696台が生産されることがアナウンスされた。クルマ好きならば憧れるふたつのビッグネームのコラボだけに、世界中から注目される存在となり、たちまちオーダーが殺到した。

トリブート・フェラーリ最大の特徴といえるエクステリアは、この時期のフェラーリを代表するモデルである「430スクーデリア」と同じデザインのストライプが配され、ボディカラーはフェラーリのカタログカラーの中からロッソ・コルサ(レッド)、ジアッロ・モデナ(イエロー)、グリッジョ・チタニオ(グレー・メタリック)、そしてブル・アブダビ(ダークブルー・メタリック)の4色が用意された。ホイールも430スクーデリアと同じデザインで17インチの専用品が作られ、ドアミラーも430スクーデリアと同様にカーボンファイバー製とされた。

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渋いグリージョ・チタニオ(グレー・メタリック)は99台のみの生産で、日本には5台のみが正規輸入された。ブル・アブダビ(ダークブルー・メタリック)も全世界99台のみが作られ、日本には5台が正規輸入された。

細かなところでは、ボディサイドのドア後方に付くバッジは、’60年代に用いられたカンピオーネ・デルモンド(世界チャンピオン)のデザインをそのままに、トリブート・フェラーリの名を入れた専用品となっている。

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ボディサイドには’60年代のアバルトに付けられていたバッジをリデザインしたトリブート・フェラーリ専用のものが付く。

インテリアにフェラーリのイメージはないが、カーボンパーツが随所に使われコンペティティブな雰囲気が演出された。カーボンファイバー製のシェルを持ち、レザーとアルカンターラ表皮が与えられたサベルト製の軽量スポーツシートは、外装色によってカラーとヘッドレスト部分の刺繍とリクライニング・ダイヤルの色がアレンジされた。ステアリングホイールもコンビカラーとされ、アクセントカラーはボディカラーやシートのカラーと揃えられた。そして仕上げに、センターコンソールに備わるドリンクホルダー部分に695 トリブート・フェラーリであることを示すシリアルナンバーが入ったプラーク(記念プレート)が付けられた。

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インテリアにはカーボンパーツが随所に用いられ、ステアリングホイールの12時の位置にイタリアン・トリコロールが配される遊び心も盛り込まれた。

1.4リッター直列4気筒ターボエンジンは、標準アバルト500のIHI製ターボから、レーシングバージョンのアセットコルセと同じギャレット製固定ジオメトリー式ターボに換装され、エキゾーストシステムは往年のアバルトファンには懐かしい「レコード・モンツァ」が組み込まれた。これにより最高出力は180psへとアップし、0-100km/h加速は7秒以下、最高速度は225km/hをマークする、アバルトならではといえるモンスターに変貌した。

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5段MTAはパドルで操作。ステアリングホイールの差し色はボディカラーによって変えられた。ペダルにはサソリがデザインされたエクステンダーが付き、フロアコンソールにはシリアルナンバーが入ったプラークが付けられた。

ギアボックスは「アバルト コンペティツィオーネ」と名付けられた2ペダルのM/Tモード付き5速シーケンシャルMTAが組み合わせられる。足回りもフェラーリを名乗るに相応しく強化され、増大したパワーに対応してブレンボ製4ピストンキャリパーが与えられた。

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フェラーリ430スクーデリアと同デザインで新たに作られた17インチアロイホイールが採用された。

こうして世界限定1696台が生産された695 トリブート・フェラーリのボディカラーの内訳は、ロッソ・コルサが1199台、ジアッロ・モデナが299台、ブル・アブダビとグリッジョ・チタニオがそれぞれ99台だった。日本には150台が2010年11月から導入され、ロッソ・コルサが110台、ジアッロ モデナが30台、ブル・アブダビとグリージョ・チタニオはそれぞれ5台となる。日本での販売価格はアバルト500と695にちなんだ569万5,000円(ロッソ・コルサ)だった。

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左上/ロッソ・コルサのボディカラーの内装色はブラックとされ、シートバックの”ABARTH”の文字の刺繍とリクライニングのダイヤルはレッドとなる。右上/ジアッロ・モデナの内装色はブラックで、シートバックの”ABARTH”の文字の刺繍とリクライニングのダイヤルはイエローとなる。左下/シックなグリッジョ・チタニオの内装色はブラウンを基本に、シートバックの”ABARTH”の文字の刺繍は茶色、リクライニングのダイヤルはシルバーとなる。右下/外装色がブル・アブダビの内装色はグレーとなり、シートバックの”ABARTH”の文字の刺繍とリクライニングのダイヤルはブラックとなる。

さらに695 トリブート・フェラーリがエンスージアスト向けに拘って開発されたことを物語るのが標準で付いてくるオリジナルアイテムだ。695 トリブート・フェラーリの名が入った専用のボディカバー、非常停止表示板、キーホルダー、フロアマットのほか、iPod接続キットやカーケアキット、さらにはナポリの老舗トラモンターノが製作した専用のロゴ入りレザー・トラベルバッグ(2個!)と車検証入れといったスペシャルアイテムは、アバルトファンにとって垂涎もののお宝といえた。

こうしてアバルトとフェラーリのダブルネームを持ち、マニアックな仕上がりとされた695トリブート・フェラーリはたちどころに完売し、キャンセル待ちが出るほどの人気を集めたのだった。

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695トリブート・フェラーリは、当時スクーデリア・フェラーリでF1ドライバーを務めていたフェルナンド・アロンソ(右)とフェリペ・マッサに贈られた。

しかし695 トリブート・フェラーリの物語はこれで終わらなかった。2012年3月に日本限定仕様が追加で50台導入されたのである。695 トリブート・フェラーリ”トリブート・アル・ジャポネ”と名付けられた日本限定仕様は、フェラーリの限定色であるビアンコ・フジ(パールホワイト)を採用し、ホイールは独自のマグネシウムグレーで塗られた点が他の695トリブート・フェラーリと異なっていた。

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2012年3月に追加で日本限定の695 トリブート・フェラーリ”トリブート・アル・ジャポネ”が50台のみが発売された。車両価格の一部は、東日本大震災の復興支援に寄付された。

メカニズムや装備品に変更はないが、シート色はブラックとされ、ABARTHの刺繍とステッチ、ステアリングホイールの差し色はレッドとされた。価格は609万5000円だったがすぐさま完売となり、アバルトの名をより知らしめることとなった。

この695 トリブート・フェラーリ”トリブート・アル・ジャポネ”の車両本体価格の一部は、東日本大震災の復興支援としてローマのチッタベッキアの姉妹都市である石巻市を支援するプログラムに寄付された。車名が示すように日本との架け橋となったことは忘れられない。

2009 ABARTH 695 TRIBUTO FERRARI

全長:3655 mm
全幅:1625 mm
全高:1500 mm
ホイールベース:2300 mm
車両重量:1120 kg
エンジン形式:水冷直列4気筒DOHC+ターボチャージャー
総排気量:1368 cc
最高出力:180 ps/5500 rpm
変速機:5段MTA
タイヤ:205/40R17
最高速度:225 km/h