FIAT ABARTH 1000 BIALBERO LONGNOSE|アバルトの歴史を刻んだモデル No.024

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1964 FIAT ABARTH 1000 BIALBERO LONGNOSE
フィアット・アバルト1000 ビアルベーロ・ロングノーズ

アバルトの興盛を象徴する1台

創始者カルロ・アバルトの情熱とともにモータースポーツに注力したアバルトは、レース界で名の知られた存在へと成長するまでに長い時間を必要としなかった。その戦うアバルトのマシンづくりの方程式を端的に示すモデルがフィアット・アバルト1000 ビアルベーロだ。軽量化を追求したアルミボディ、後述するアバルトにとってキーとなる1000ccのエンジン排気量、そしてアバルトの美意識に溢れたスタイリングは、レーシングマシンの枠を越えアバルトファンを魅了した。

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フィアット・アバルト1000 ビアルベーロの最終進化型として送り出されたロングノーズは、“究極の存在”として世界的に高い評価を得ている。

アバルトはこの時代、レース活動とともに連続速度記録にも積極的にチャレンジしていた。500cc、750ccクラスの記録を塗り替えると、新たに白羽の矢が立ったのは1000ccクラス。そこに挑むためにアバルトは1960年に排気量982ccのビアルベーロ(DOHC)エンジンを誕生させた。エンジンが完成すると、すぐにレコードカーによる速度記録への挑戦を行い、いつものアウトドローモ・モンザで記録を塗り替えることに成功した。

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フロント・ノーズはフェンダーと一体で前方に開くFRP製とされ、レース時のメンテナンス性を向上させている。

こうして速度記録でパフォーマンスが実証された982ccのビアルベーロ・エンジンを、GTカーのレコード・モンツァに搭載したのが初代フィアット・アバルト1000 ビアルベーロである。1960年11月のトリノ・ショーでレコード・モンツァの発展型として正式にデビュー。リヤに搭載するビアルベーロ・エンジンは982cc の排気量に9.3の圧縮比と2基のツインチョーク・ウェーバー36DCL4キャブレターを組み合わせ、当時の1000ccエンジンとしては驚異的といえる91hp/7100rpmを発揮した。

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アバルトを象徴する美しいルックスのビアルベーロ・エンジンは、982ccの排気量から最終的に104hpを発生した。

フィアット・アバルト1000 ビアルベーロは、すぐさまレース・フィールドに打って出て、エントリーしたすべてのレースで勝利をアバルトにもたらす。1962年になるとアバルト社内デザインによる近代的でスリークなデザインの改良型ボディに改められる。それは本連載のNo.022で紹介したフィアット・アバルト・モノミッレと同じラウンドテール・タイプで、ヘッドライトは当時のレース用GTに欠かせないプレキシ製のカバーで被われ、空気抵抗の低減に寄与していた。

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アバルト自社のデザインになったことから、ボディサイドには「カロッツェリア・アバルト」とワールド・チャンピオンのバッジが誇らしげに貼られている。

1000ccクラスで無敵の存在となったフィアット・アバルト1000 ビアルベーロは1962年にワールド・マニュファクチャラーズ選手権のディヴィジョン-1のタイトルを勝ち取るが、その後も改良の手を緩めることはなかった。

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ホイールはカンパニョーロ製のエレクトロン(マグネシウム合金)を用いたもので、当時の定番のアバルト・パターンが採用された。

1962年のパリ・サロンでは、1963年レースシーズンに向けた改良型がデビューしている。ボディのリヤエンドの形状が改良されたのが特徴である。エンジンフードは長く伸ばされ、車体の後端はいわゆる「ダックテール」と呼ばれる跳ね上がった形状とされ、スタビリティの向上とともにエンジンルームの冷却性を高めた。このデザイン変更とともに圧縮比を10.8に高め、2基のウェーバー40DCOEツインチョーク・キャブレターを組み合わせることで最高出力102hpを発揮。さらに新開発の5速トランスミッションの採用で最高速度を210km/hに届かせた。

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ドライバーの正面にはタコメーターを中心にその左右に4個のゲージが配される。キャビン内は必要なものしか備えないミニマムなデザインとされた。

フィアット・アバルト1000 ビアルベーロの最終進化型として送り出されたのが、今回ご紹介するロングノーズ・タイプである。ボンネットは空気抵抗を低減させるために前年型に比べて長く低くされるとともに、レース中のメカニックのアクセスを高めるため、フロント・ノーズはフェンダーと一体で前方に開くFRP製とされた。その製作はFRPに豊富な経験を持つ、トリノのバルツァレッティ&モディリアーニ社に依頼した。エンジンはおなじみのビアルベーロ・ユニットだが各部の改良により104hpにまで高められ、最高速度は218km/hをマークした。このほか前後でタイヤサイズを変え(F:4.50×13/R:5.00×13)、このワイドなタイヤが組み込めるようにリヤフェンダーを拡大するなど、戦闘力を高めていた。プロトタイプは1963年9月のニュルブルクリンク500kmでデビュー・ウインを飾り、この年のワールド・マニュファクチャラーズ選手権のディヴィジョン-1で2年連続となるタイトル獲得を貢献している。

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フィアット・アバルト1000 ビアルベーロ・ロングノーズは、レース用車両だがカタログも用意された。同時期の他のモデルと同様に2色印刷で一枚ものの質素なもので、裏面には詳細なスペックが記されていた。

高い戦闘力が立証されたフィアット・アバルト1000 ビアルベーロ・ロングノーズは1964年から量産が開始された。しかし、FIA は1964年1月1日からワールド・マニュファクチャラーズ選手権のクラス分けを変更し、ディヴィジョン-1がそれまでの1000cc以下から1300cc以下へと引き上げられてしまう。そこでアバルトはレースに投入するマシンを1300ccクラスで活躍していたアバルト・シムカ1300にスイッチし、1000 ビアルベーロ・ロングノーズは世界選手権へのワークス参戦は見送られた。しかしイタリア国内戦のGTクラスのレースやヒルクライムには1000cc以下クラスが存在したため、こちらのレースで圧倒的な強さを見せ、タイトルも獲得している。

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こうしてレギュレーション変更で戦う場が限られてしまったフィアット・アバルト1000 ビアルベーロ・ロングノーズだが、高いパフォーマンスと美しい仕上がりのスタイリング、そして素晴らしいレーシング・ヒストリーを兼ね備えることから、“究極のアバルト”として引退後は愛好家の許で余生を過ごすことになる。ロングノーズは日本にも存在し、時折イベントですばらしいコンディションに保たれたその姿を披露することがある。

1964 FIAT ABARTH 1000 BIALBERO LONGNOSE

全長:3480mm
全幅:1410mm
全高:1165mm
ホイールベース:2000mm
車両重量:570kg
エンジン形式:水冷直列4気筒DOHC
総排気量:982cc
最高出力:104HP/8000rpm
変速機:5段マニュアル
タイヤ:F:4.50×13/R:5.00×13
最高速度:218km/h