1961 FIAT ABARTH MONOMILLE|アバルトの歴史を刻んだモデル No.022

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1961 FIAT ABARTH MONOMILLE
フィアット・アバルト・モノミッレ

アバルトの魅力を詰め込んだロードゴーイングGT

アバルトが1956年に発表した、フィアット600をベースにザガート製ボディを組み合わせた「750GTザガート」と、フィアット600を高性能化した「850TC」は、アバルトの名をスポーツカーメーカーとして世界に知らしめる大きな貢献をした。750GTザガートは本来レース用に作られたものだったが、その素晴らしいパフォーマンスからロードゴーイングGTとしても好評を博すに至った。

その後レース用のモデルはレコード・モンツァへと進化し、さらにはビアルベーロ(ツインカム)エンジンが搭載されて数多くの勝利を勝ち取った。顧客のなかにはレコード・モンツァをロードカーとして購入する人もいるにはいたが、レース用に割り切って作られたため居住性は考慮されておらず、そのロードカー版を望む声もあがっていた。

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1963年に登場したフィアット・アバルト・モノミッレ後期型。上の写真の1961年にデビューしたラウンドテールのモノミッレ初期型に較べると近代的なデザインとなった。

そこでアバルトは、新たな2座GTシリーズとして、ビアルベーロ・エンジンを搭載するレース用の「1000ビアルベーロ」と、ロードカーとしてOHVエンジンを積み快適性を確保した「モノミッレ」を用意した。モノミッレという名は、モノ=1、ミッレは1000を意味するもので、イタリアでの数字の数え方が1000の場合1の1000となるためである。またビアルベーロが2本のカムシャフトを表すのに対して、OHVでカムシャフトが1本の場合はモノアルベーロとなるため、それぞれの「モノ」を重ねてモデル名にしたという説もある。

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車名はイタリア語で「MONOMILLE」と称されるが、エンジンフードに付くバッジは「mono 1000」とされていた。

まず1000ビアルベーロが1960年11月に開かれたトリノショーでデビューし、モノミッレは一足遅れて1961年のフランクフルトモーターショーでお披露目された。レコード・モンツァまでのボディはザガートが担当していたが、1000ビアルベーロとモノミッレのデザインは、コルッチ技師の主導によりアバルト社内で進められ、トリノにあるカロッツェリア、シボーナ&バサーノに製作が委託された。そのためレコード・モンツァでは存在したボディサイドのザガートバッジはなくなり、新たに「カロッツェリア・アバルト」のバッジが与えられた。

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こちらの初期型モノミッレは、ノーズをビアルベーロ型にモディファイされたもの。この改造は世界的に見ても多く、今では逆にオリジナルの姿を保つものが貴重になっている。

両車のボディは軽量化のために伝統のアルミ製パネルで構成される。スタイリングはレコード・モンツァをより近代的にしたデザインで、大きく寝たリヤウインドーからエンジンフードまでスムーズなラインでまとめられていた。アバルトのGTモデルの例に違わずフィアット600のフロアパンと足回りなどを利用して製作していたのはいうまでもない。両車の基本的なスタイリングは共通だが、フロント回りにデザインの違いが見られた。

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インテリアはアバルトらしくエンスージャストをうならせる魅力的なデザインで仕立てられている。3連のメーターは簡潔なデザインだが機能性は高い。アバルトステアリングはエボナイト製。

ビアルベーロのヘッドライトは空気抵抗を減らすために、ボディラインに合わせたプレクシ製のカバーが付けられているが、モノミッレでは実用性を考慮してヘッドライトが露出したデザインとされた。また公道で使用することを考慮してクロームメッキされたバンパーが前後に備わるのがスタイリングの特徴だった。

モノミッレのリヤに搭載されるエンジンルームには、アバルトの標準といえるフィアット600D用のOHVエンジンをスープアップしたものが収まる。ボア×ストロークとも延ばされ、排気量は982ccに拡大された。圧縮比を高めて、ソレックス34PCISキャブレターを組み込み、吸気系とエキゾーストマニフォールドに“アバルトマジック”を施すことにより、最高出力60ps/6000rpmを発生した。もちろんサスペンションとブレーキも強化され、560kgの軽いアルミ製ボディを175km/hまで届かせた。余談だがこの982ccエンジンは、その後フィアット600をベースとする1000TCに搭載され、レースで大活躍を遂げている。

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フィアット600用の水冷直列4気筒OHV767ccエンジンは、排気量を982ccまで拡大されると共にアバルトマジックが施され60psを発揮。このあと1000TCにも搭載された。

こうして誕生したモノミッレは、アバルトらしい精悍で魅力的なスタイルと公道で使用するには十分以上のパフォーマンスから、コンパクトGTとしてイタリアはもちろんのことアメリカを始めとする世界各地で人気を博した。

1961年に送り出された最初のモノミッレは、同時期の1000ビアルベーロやアバルト・シムカ1300と同デザインの丸いテールデザインで、愛好家の間では「ラウンドテール」と呼ばれている。1963年モデルからはリヤのデザインが他のモデル同様に改められ、エンジンフードの後端がキックアップしたダックテールが採用されるとともに、リヤエンドの形状もモダナイズされている。このタイプは俗に「ダックテール」と呼ばれた。

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フィアット・アバルト・モノミッレ初期型ラウンドテール型の後ろ姿。ビアルベーロとモノミッレのリヤデザインは同じ。エンジンフードの冷却用フラップは開くことができた。

日本には1964年にダックテールのモノミッレが、当時のアバルト正規代理店だった山田輪盛館の手により1台が輸入されている。ちなみに当時の価格は280万円だったが、現在の価格に換算すると約2800万円という極めて高価なクルマだった。このモノミッレは今も愛好家の許で素晴らしいコンディションに保たれて現存する。このほか’80年代以降になると数多くのモノミッレがエンスージァストの手により日本に輸入されている。

またモノミッレは格好良さを求めるエンスージァストによって、1000ビアルベーロのノーズデザインに改造される傾向がある。そのため、ヘッドライトが露出しバンパーが付くオリジナルの姿を保つモノミッレは、今となっては貴重な存在となってしまった。

こうして街中を普通に乗ることができ、アバルトらしいデザインと乗り味を楽しめるモノミッレは、1000ビアルベーロに比べてリーズナブルに手に入れられることから、今もアバルトファンにとって憧れの1台であり続けている。

1961 FIAT ABARTH MONOMILLE

全長:3410mm
全幅:1410mm
全高:1330mm
ホイールベース:2000mm
車両重量:560kg
エンジン形式:水冷直列4気筒OHV
総排気量:982cc
最高出力:60ps/6000rpm
変速機:4段マニュアル
タイヤ:135×13
最高速度:175km/h