1966 FIAT ABARTH 1000 BERLINA CORSA|アバルトの歴史を刻んだモデル No.011

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1966 FIAT ABARTH 1000 BERLINA CORSA
フィアット アバルト1000 ベルリーナ コルサ

ツーリングカーレースを席巻した、闘うアバルト

創業以来、数々のレースで勝利をあげてきたアバルト。1961年に送り出されたフィアット アバルト850TCは、ツーリングカーレースやヒルクライムレースの850ccクラスで圧倒的な強さを見せた。時にはより大きな排気量のマシンを打ち破る活躍も見せ、すぐさま王者の貫録を手にしたのだった。

当時、GTカーのカテゴリーは、700cc以下、850cc以下、1000cc以下に分類されていた。すでに850cc以下のカテゴリーを席巻したアバルトは、1000ccクラスに挑むモデルの開発を進めていた。

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1962年に登場したフィアット アバルト1000 ベルリーナ コルサのカタログ(カタログは1965年時点のもの)。エンジンフードは冷却のため、水平まで上げた状態で固定できる構造を採用していた。

こうして1962年に登場したのが「フィアット アバルト1000 ベルリーナ」である。車名は先に登場した850 TCにならった1000 TCとはせず、1000 ベルリーナと名付けたのがイタリア的といえる。しかし、愛好家の間では「1000 TC」と短い名前で呼ばれることもある。

850 TCと同様に、「フィアット 600」をベースに製作された1000 ベルリーナは、エンジン型式こそ直列4気筒OHVだが、総排気量はフィアット600D用ブロックをもとに製作された1000 ビアルベーロと同じ、982ccとされた。最大出力はロードバージョンが60hp/6000rpmで、レーシングバージョンの「コルサ」では68hp/6800rpmにまで高められた。最高速度はロードバージョンの150km/hに対し、コルサは170km/hに達した。

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ダッシュボードには850 TCでおなじみの3連のメーターナセルが備わる。左は燃料計、水温、油圧のコンビネーションメーターで、中央にはクロノメトリック式の回転計、右は速度計。

外観は基本的には850 TCと変わらないが、フロントフェンダーに「FIAT ABARTH 1000」の切り抜き文字が取り付けられた。このほかホイールはそれまでのアマドーリのスチール製に代えて、カンパニョーロ製エレクトロン(軽合金)、いわゆる “アバルトパターン”のホイールを採用した。エンジンフードは付属のステーで水平まで上げることができ、エンジンルームの放熱に貢献した。

こうして戦闘力が高められた1000ベルリーナ コルサは、すぐさまイタリアを始めとするヨーロッパのツーリングカーレースで活躍を始めた。1000cc以下のクラスで圧倒的な強さを見せつけ、1964年に早くもイタリア国内ツーリングカー選手権のチャンピオンを獲得した。

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1000ベルリーナ コルサは当時人気を集めていたヒルクライムでも活躍。1965年5月に南フランスのバヤール峠で開催されたヒルクライムでは、アバルトワークスのイグナチオ・ギュンティが1000ccクラスで優勝を果たした。

1965年には、効率と耐久性を高めるためにクーリングシステムが大きく変更された。大型のラジエターがノーズに配されると共に、ラジエターをカバーするフェアリングが取り付けられた。この変更によりパワーをロスするリヤラジエターの冷却ファンを無くすことができ、エンジンのパフォーマンスを向上させることに成功した。

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フロントのフード内にはフューエルタンクとバッテリーが収まる。大容量タイプで中央にクイックフィラーキャップを備えるフューエルタンクもオプションで用意されていた。

このほか足回りにも手が加えられ、フロントサスペンションは横置きリーフスプリングをロワーアームとして機能させつつ、新設計のコイルスプリングと同軸のダンパーを組み込むことで、コースに合わせた細かなセッティングを可能とした。

こうした各部の改良により性能を引き上げた1000 ベルリーナ コルサは、1965年のシーズン開幕から優勝を飾り、同年のヨーロッパ ツ-リングカー選手権ディビジョン1(1000cc以下クラス)のチャンピオンを獲得。イタリア ツーリングカー チャンピオンシップの1000cc以下クラスのタイトルも手にした。

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エンジン排気量は982ccのままに改良を重ね、圧縮比を13.0:1までアップ。最大出力は85hpを発生した。

1966年には、1000ベルリーナ コルサは各部がさらに磨き上げられた。エンジンは圧縮比を10.2:1から13.0:1まで高め、最大出力は85hp(+5hp)にまで向上。レブリミットも7600rpm(+100rpm)へと引き上げられた。一方で車重は583kgまでシェイプアップされ、最高速度は195km/hに達した。

外観は、ノーズのラジエターをカバーするフェアリングを大型化し、空力性能を向上させるとともに、デザイン面でもボディラインにマッチするものとした。このノーズは1970年に登場する“究極のツーリングカー”「1000 ベルリーナ コルサ テスタ ラディアーレ」(通称1000TCR)にも受け継がれることとなった。

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1966年にモンツァで開催された、ヨーロッパ選手権の開幕戦となるジョリー クラブ4時間レースに、アバルトは5台のワークスカーを投入し、完璧な勝利を得た。ルーフはチェッカー模様に塗り分けられていた。

また、1966年モデルではボディカラーがそれまでのアイボリーからベルリーナ コルサを象徴するグレーへと変更し、ボディサイドのウェストラインには赤いストライプを配し、印象的なカラースキムとなった。また、ワークスマシンには識別用としてルーフにチェッカー模様のマーキングが施され、850 TCはイエロー、1000 ベルリーナはレッドでペイントされた。こうした洗練されたカラーコーディネイトは、カルロ・アバルトの美意識の高さを物語る良き例と言える。

このルーフに施されるチェッカー模様はアバルトの定番モチーフとなり、現在でも「アバルト 500」にもオプションで用意されているので目にされた方も多いだろう。その起源は1966年にまで遡るのである。

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シートはこの時代のアバルト標準タイプといえるホールド性に優れるバケットシートが備わる。バックレストは固定式だがポジションは良い。

こうしてより年を追うごとに戦闘力を高めた1000ベルリーナ コルサは、次々と記録を書き換えてゆく。1966年ヨーロッパ ツ-リングカー選手権では、ディビジョン1(1000cc以下)クラスのチャンピオンを前年に続き勝ち取った。その後も戦闘力を高める改良を重ね、ツ-リングカー1000ccクラスの王座を守り抜き、栄光のストーリーを後継モデルの1000TCRへ引き継いだのだった。

▼スペック
1966 FIAT ABARTH 1000 BERLINA CORSA

全長 :3530mm
全幅 :1390mm
全高 :1400mm
ホイールベース:2000mm
車両重量 :583kg
エンジン形式:水冷直列4気筒OHV
総排気量 :982cc
最高出力 :85hp/7600rpm
変速機 :5段マニュアル
タイヤ :4.50-13
最高速度 :195km/h